美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

文字の大きさ
179 / 290
法王依頼編 第七章 製作開始

献品紛失 碁盤はいずこ 3

しおりを挟む
「え?!」

 シエラがセレナの言葉に驚いて彼女の方を見る。その目は大きく見開いていた。

「わ、私を疑ってるんですか?! わ、私、盗んでません!」

「あ、あなたが盗んだって言ってないわよ?! テンシュ! あなた何を言いたいの?!」

 慌てふためく二人が目に入っても店主はその表情を変えない。シエラをただ見つめ続けている。

「私……盗んでませんっ!」

 シエラの目に涙が浮かぶ。

「お前が盗んだんだー」

「してません!」

「お前が盗んだんだー」

「して……ません……。うぅ……」

「お前が盗んだんだー」

「ちょっとテンシュ! シャレになってないわよ! 悪ふざけの度を越えてるわよ! 大丈夫だから。全くこの人はぁ……」

 店主の口調は棒読み。明らかにシエラをからかっている。
 シエラはしゃがみこんで泣きじゃくる。

「……冗談通じねぇ奴だな。つか面倒くせぇから追い出す口実出来るかと思ったんだが」

「やっていいことと悪いことの区別くらいつけなさい!」

 セレナからの雷も店主には馬の耳に念仏。近くのソファに腰かける。

「まずこいつは瞬間移動の能力はない」

 店主は突然真面目な口調で語り出す。しゃがんで泣きながらも、シエラは店主の方を見る。

「力を持ってないように見せるってのは無理なんだよ。自分の力ってのは感じ取ってそこで終わるもんだ。見える奴の方が珍しいし見る必要がどこにもないしな。気配を消す必要があるだろうが、気配を消しても力の有無までは消せない」

 シエラのしゃくりあげる声は止まらないが涙は止まる。
 セレナはシエラの背中をさすって慰めるが、鬼の形相で店主を睨み付ける。

「つまり歩いて外に出るしかない。が外には出ていない。足跡が食堂の出前持ち以外になかったからな。受け渡しして外に出ずに済む可能性はある。だがなぜ二階の碁盤を盗んだかってのが引っかかる」

「……盗んだことを前提にその話に付き合うとすれば、近いからでしょ?」

「それはない。前にも言わなかったか? そうしなきゃならない理由がなければ、それをすることはしない。ましてや上の物と下の物はほぼ同じ。盗み出すってのは骨が折れるもんだ。なるべく負担をかけずに済みたい。ならば出口に近い物を持つ方がいい。理由は簡単。ばれる可能性が二階の物を盗むよりも低いからだ」

「で……でも、だったら、どうして二個とらなかったの……?」

 質問したのは、しゃくりあげたまま声を出したシエラ。自分が疑われていないことにようやく気付いて少し持ち直したようだ。

「碁盤を盗みに来たからじゃないんだろ。今言いかけたが、あのジジィは俺らの知らないところで何かをしたという可能性がある。もっとも俺らが知るつもりもないし知る必要もないって可能性もあるが……」

「猊下ご自身が何かをしでかした?」

 それもない、とセレナの予想を即座に否定する。

「まず俺らに必要のない情報を仮定する。たとえば、国主杯の賞品の公募とかな。さらに噂が耳に入る。どこぞの道具屋がもう手掛けている、とか。『法具店アマミ』のテンシュってやつが取り組んでるらしい。なにー。異世界から来た者がやってんのかー。何でこの世界の者にジジィは頼らないんだー」

 またも棒読みの芝居を始める店主。セレナは軽く受け流す。

「はいはい。で、特別な力を持つ余所の世界から来た者に猊下は、ご自身のプライベートの時間を割いて会いに行って頼んだ、ということよね。腕に覚えのある人からすれば、ちょっと嫉妬するかな」

「ちょっとどころじゃねぇだろ。俺に力が分かる能力があるなんてこと思いもしないなら、俺の方が高い品質の物を作れる、と思う奴も出てくるだろうぜ」

「そしてすでに外観は完成されている。ならば瞬間移動で……。あ、でも二階にあるなんてこと想像もしないわよね?」

「力の存在を知ることが出来る奴はいるんじゃないのか? 種類とかまでは分からないだろうがな。セレナだってそうだろ? 斯くして二階にもあることを知った犯人は上に上がる。噂では余所者のテンシュとセレナの二人で店をやってたはずが、見知らぬ女の子が寝ている。……物を盗む上で、犯人が一番楽な結果になるのはどんなことだ?」

「……盗まれたことに気付かれないのが一番ですかね? 次に誰が盗んだかわからないようにする……」

 シエラも話に混ざり始める。
 セレナに支えられながらもゆっくりと立ち上がる。
 二人は店主を挟むようにソファに座って店主の話を待つ。

「そして、誰かに罪を擦り付ける、だな。たまたまな事情が重なった最悪の結果をこいつが迎えてしまったってわけだ」

「変なこと言いだしたのはあなたでしょうが、テンシュ!」

「いろいろ話したからな。その上でお前が今の碁盤を盗むとしたら間抜けもいいとこ」

「慰めるのと貶すの、一度に両方やらないでっ!」

「何度か言ったよな? この後まだ仕事があるってこと。それを知ったら、その仕事を終わった後に盗んだ方が楽だろ」

 ちょっと待って、と店主を制するセレナ。

「だったらなぜ碁盤二つ持っていかなかったのかしら? その方がテンシュを出し抜けるでしょ?」

 店主はにやりと笑う。

「いい質問だ。だが高価な物二つも消えたら、斡旋所に頼んで犯人捜しの依頼を出すぜ? 時間的にお手上げになるかもしれねぇからな。だが一つ残ってりゃ、犯人捜ししている暇はねぇ。こいつを仕上げてジジィんとこに持ってくぞって話になる」

「自分を怪しむ人の数が減るってことですよね?」

 なんだ、頭が働くじゃないか。
 そんなふうにシエラの頭をポンポンと叩く店主。

「その通り。そして知らんぷりして盗んだものを献上品とする。俺達からすれば悪くない筋書きだな」

 二人は驚いて店主を見る。
 盗まれて悪くはない話とはどういうことか。
 二人には店主の考えを理解することができないでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

チートツール×フールライフ!~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~

黒片大豆
ファンタジー
「お前、追放な。田舎に帰ってゆっくりしてろ」 女神の信託を受け、勇者のひとりとして迎えられた『アイサック=ベルキッド』。 この日、勇者リーダーにより追放が宣告され、そのゴシップニュースは箝口令解除を待って、世界中にバラまかれることとなった。 『勇者道化師ベルキッド、追放される』 『サック』は田舎への帰り道、野党に襲われる少女『二オーレ』を助け、お礼に施しを受ける。しかしその家族には大きな秘密があり、サックの今後の運命を左右することとなった。二オーレとの出会いにより、新たに『女神への復讐』の選択肢が生まれたサックは、女神へのコンタクト方法を探る旅に目的を変更し、その道中、ゴシップ記事を飛ばした記者や、暗殺者の少女、元勇者の同僚との出会いを重ね、魔王との決戦時に女神が現れることを知る。そして一度は追放された身でありながら、彼は元仲間たちの元へむかう。本気で女神を一発ぶん殴る──ただそれだけのために。

過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~

黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。 待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金! チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。 「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない! 輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる! 元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!

処理中です...