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法王依頼編 第七章 製作開始
再会・玉座の間にて 2
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─────────────
遡ること半月ほど前、皇居内某所にて、某人物同士の会話である。
「噂では、猊下は市井の者に頼みごとをしたらしい。周囲に漏れぬようにしてな」
「閣下。それは私も耳にしております。ただの市井の者なら聞き流しても構わないと思っておりましたが、異国どころか、異世界から来た者だそうで。この国のことはこの国に責を担う者に任せるのが一番だと言うのに」
「力こそ一番誰の目から見ても分かりやすい。それゆえ、先王が一番分かりやすかった。多少の苦情よりも強い存続の声に誰もが従うべきだったのに」
「それを今度は、自分の代わりに王になれる者がいたら譲るとか。捻くれもいいところだ。巨塊の件も、放置しておけば宝石が手に入り放題であったというのに。村の物をとっとと排除すべきだったな」
「閣下のおっしゃる通り。目先の生活の心配なぞ、その場から離れればいくらでも安心して生活できる場が見つかるというのに。市井の者どもは愚かすぎますな」
「巨塊討伐では犠牲者を大いに出した。説得力もまるでなかったから協力する気も起きんかったわ。その結果討伐どころか、感謝祭だの何だのと。ただ現実を忘れて騒ぎたいだけではないか」
「全く持って閣下のおっしゃる通りでございます。あげく異世界から何者かを連れて来て、その者の指示に従った猊下。嘆かわしいとしか言いようがありませんな」
「そして此度の猊下の、国主杯の市井への非公式の依頼など……。相手が誰かを突き止めてしょっ引いて首を刎ねるに該当する罪ぞ。……いや待て。頃合いを見計らって、その者が作り上げた物を取り上げるというのはどうか。この国のあらゆる場所は皇族並びに皇族に関係する者の物ぞ。断りなく取り上げたとて文句を言われる筋合いではない」
「問題ないかと思われます。では早速準備にかかります」
「それをその者の代わりに献上するというのも悪くない。その名誉は市井人には相応しくはない。うむ。その後我が吟味して、問題なければ献上品の候補の一つとしよう、うむ」
──────────────
法王ウルヴェスからの依頼で完成した碁盤を玉座の間に持ち込んだ店主ら三人。
その部屋には、既に献上品を法王に披露している人物が五人。
彼らは突然の闖入者に不快な感情を露わにする。
それでもウルヴェスとすでに何らかの関係があることを感づかせないまま、店主は事を進めていく。
「ほう? 耳に入れたいこととはどのようなものか?」
「ここに盗まれた物があるとは考えられないのですが……」
どのような意図で、どのような経緯で碁盤が彼らそれぞれの前にあるかは分からない。
だが盗まれた物や同レベルの物と持ち込んだものを一緒に見られるのも腹立たしい。
その五人はどういう人物かは不明だが、法王の前にいられるほど信頼のある人物なのだろう。盗んだ物がその中にあるなら、本人自ら化けの皮を剥ぐか、彼ら同士でいがみ合って事実を白昼の元に晒されるかが店主にとって一番都合がいい展開。そのためにも、店主は言い回しにも細心の注意を払う。
「盗まれた物には欠陥があります。その欠陥を持つ品物とは格段に違う品物をお持ちしました。装飾品の一つとしてあつかわれてもよろしいですし、実用品としても十分に役に立つ物と思われます」
店主の言葉からは、いつの間にか棒読みの口調が消えている。
「テンシュさん、普通に喋れるじゃない。どうしてお店ではいつもあんな感じなんですか?」
「シエラちゃん、しーっ」
店主の後ろでごそごそ会話をしている二人。後ろに視線をやって二人の会話を牽制する意味で軽く咳払い。
「且つ、国主杯なる大賞の賞品でもありますので、国とのつながりを持たせる必要もあります。もしよろしければ、解説付きでご覧いただきたく、同課お出でいただきたいのですが」
「無礼にも程があるぞ! 猊下に足を運ばせるなどと、何様のつもりでいるのだ!」
すぐ隣の人物からの叱責の声。
「……採用されれば、猊下が優勝者に賜る物。ならば猊下はその品のことを隅から隅までご理解いただく必要があります。目で見て、手に触っていただくことで新たに分かる事実もあります。それが賞品としてよりふさわしい物と分かることもありますし、そぐわないものと判明することもございま……」
「いい加減にせんか! どこの馬の骨ともわからぬ者が指図すると……」
「本音を申しますと、私が造った物こそが、猊下の意に添う物と自負しております。しかしながら遠目では分かりかねるところもございます!」
店主は声を張り上げると、箱から敷布を採り出し床に敷いた後、その上に碁盤と碁石が入った碁笥を乗せる。
碁盤には浅い蓋がかかっている。
「……色はアムベスが持ってきた物と同じようだな。足もほぼ似たような物。ふむ」
アムベスと呼ばれた者は、一番最初に店主に怒鳴り声を上げた人物。
下半身はタコの足が巨大化したような形。上半身は常に形状が変化する粘液体のよう。
体格は幅、奥行き、高さともに店主の四倍くらいの大きさ。
他の四人の体格も似たようなもの。しかし力の大きさを判別するとその体からわずかにはみ出すくらいで、ウルヴェスよりははるかに下回る。
もっともウルヴェスを上回る力の持ち主は存在しないし、体格と力の大きさを比べても、セレナと比べても桁違いではあるが、想像を超えるほどではないため畏れるほどでもない。
ウルヴェスが近寄って来る。
老人と妖女、店と玉座。
この違いだけで、近寄るだけで命の保証がなく生きた心地はしない店主。
しかし自分の仕事の誇りがかかっている。
「側面に何か模様があると思ったら、オルデン王国、そして天流法国ホウロンの花を象っておるのか。……彫刻をくっつけたりはめ込んだりしたのではないな。碁盤に直接彫り込んで、花の形に盛り上げたのか。これは流石に近くで見ないと気付かなかった。うむ、素晴らしいな」
「お褒めに預かり光栄です。いくらか細工を施しておりまして、どうかご照覧ください」
店主はゆっくりとふたを開ける。
誰から見ても、目に入った線は決まった間隔で歪んでいた。
遡ること半月ほど前、皇居内某所にて、某人物同士の会話である。
「噂では、猊下は市井の者に頼みごとをしたらしい。周囲に漏れぬようにしてな」
「閣下。それは私も耳にしております。ただの市井の者なら聞き流しても構わないと思っておりましたが、異国どころか、異世界から来た者だそうで。この国のことはこの国に責を担う者に任せるのが一番だと言うのに」
「力こそ一番誰の目から見ても分かりやすい。それゆえ、先王が一番分かりやすかった。多少の苦情よりも強い存続の声に誰もが従うべきだったのに」
「それを今度は、自分の代わりに王になれる者がいたら譲るとか。捻くれもいいところだ。巨塊の件も、放置しておけば宝石が手に入り放題であったというのに。村の物をとっとと排除すべきだったな」
「閣下のおっしゃる通り。目先の生活の心配なぞ、その場から離れればいくらでも安心して生活できる場が見つかるというのに。市井の者どもは愚かすぎますな」
「巨塊討伐では犠牲者を大いに出した。説得力もまるでなかったから協力する気も起きんかったわ。その結果討伐どころか、感謝祭だの何だのと。ただ現実を忘れて騒ぎたいだけではないか」
「全く持って閣下のおっしゃる通りでございます。あげく異世界から何者かを連れて来て、その者の指示に従った猊下。嘆かわしいとしか言いようがありませんな」
「そして此度の猊下の、国主杯の市井への非公式の依頼など……。相手が誰かを突き止めてしょっ引いて首を刎ねるに該当する罪ぞ。……いや待て。頃合いを見計らって、その者が作り上げた物を取り上げるというのはどうか。この国のあらゆる場所は皇族並びに皇族に関係する者の物ぞ。断りなく取り上げたとて文句を言われる筋合いではない」
「問題ないかと思われます。では早速準備にかかります」
「それをその者の代わりに献上するというのも悪くない。その名誉は市井人には相応しくはない。うむ。その後我が吟味して、問題なければ献上品の候補の一つとしよう、うむ」
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法王ウルヴェスからの依頼で完成した碁盤を玉座の間に持ち込んだ店主ら三人。
その部屋には、既に献上品を法王に披露している人物が五人。
彼らは突然の闖入者に不快な感情を露わにする。
それでもウルヴェスとすでに何らかの関係があることを感づかせないまま、店主は事を進めていく。
「ほう? 耳に入れたいこととはどのようなものか?」
「ここに盗まれた物があるとは考えられないのですが……」
どのような意図で、どのような経緯で碁盤が彼らそれぞれの前にあるかは分からない。
だが盗まれた物や同レベルの物と持ち込んだものを一緒に見られるのも腹立たしい。
その五人はどういう人物かは不明だが、法王の前にいられるほど信頼のある人物なのだろう。盗んだ物がその中にあるなら、本人自ら化けの皮を剥ぐか、彼ら同士でいがみ合って事実を白昼の元に晒されるかが店主にとって一番都合がいい展開。そのためにも、店主は言い回しにも細心の注意を払う。
「盗まれた物には欠陥があります。その欠陥を持つ品物とは格段に違う品物をお持ちしました。装飾品の一つとしてあつかわれてもよろしいですし、実用品としても十分に役に立つ物と思われます」
店主の言葉からは、いつの間にか棒読みの口調が消えている。
「テンシュさん、普通に喋れるじゃない。どうしてお店ではいつもあんな感じなんですか?」
「シエラちゃん、しーっ」
店主の後ろでごそごそ会話をしている二人。後ろに視線をやって二人の会話を牽制する意味で軽く咳払い。
「且つ、国主杯なる大賞の賞品でもありますので、国とのつながりを持たせる必要もあります。もしよろしければ、解説付きでご覧いただきたく、同課お出でいただきたいのですが」
「無礼にも程があるぞ! 猊下に足を運ばせるなどと、何様のつもりでいるのだ!」
すぐ隣の人物からの叱責の声。
「……採用されれば、猊下が優勝者に賜る物。ならば猊下はその品のことを隅から隅までご理解いただく必要があります。目で見て、手に触っていただくことで新たに分かる事実もあります。それが賞品としてよりふさわしい物と分かることもありますし、そぐわないものと判明することもございま……」
「いい加減にせんか! どこの馬の骨ともわからぬ者が指図すると……」
「本音を申しますと、私が造った物こそが、猊下の意に添う物と自負しております。しかしながら遠目では分かりかねるところもございます!」
店主は声を張り上げると、箱から敷布を採り出し床に敷いた後、その上に碁盤と碁石が入った碁笥を乗せる。
碁盤には浅い蓋がかかっている。
「……色はアムベスが持ってきた物と同じようだな。足もほぼ似たような物。ふむ」
アムベスと呼ばれた者は、一番最初に店主に怒鳴り声を上げた人物。
下半身はタコの足が巨大化したような形。上半身は常に形状が変化する粘液体のよう。
体格は幅、奥行き、高さともに店主の四倍くらいの大きさ。
他の四人の体格も似たようなもの。しかし力の大きさを判別するとその体からわずかにはみ出すくらいで、ウルヴェスよりははるかに下回る。
もっともウルヴェスを上回る力の持ち主は存在しないし、体格と力の大きさを比べても、セレナと比べても桁違いではあるが、想像を超えるほどではないため畏れるほどでもない。
ウルヴェスが近寄って来る。
老人と妖女、店と玉座。
この違いだけで、近寄るだけで命の保証がなく生きた心地はしない店主。
しかし自分の仕事の誇りがかかっている。
「側面に何か模様があると思ったら、オルデン王国、そして天流法国ホウロンの花を象っておるのか。……彫刻をくっつけたりはめ込んだりしたのではないな。碁盤に直接彫り込んで、花の形に盛り上げたのか。これは流石に近くで見ないと気付かなかった。うむ、素晴らしいな」
「お褒めに預かり光栄です。いくらか細工を施しておりまして、どうかご照覧ください」
店主はゆっくりとふたを開ける。
誰から見ても、目に入った線は決まった間隔で歪んでいた。
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