185 / 290
法王依頼編 第七章 製作開始
再会・玉座の間にて 3
しおりを挟む
店主は自分が作った碁盤と碁石を法王ウルヴェスに、手に取ることが出来る距離から見てもらっている。
蓋を持ち上げ、碁盤の目が現れる。
しかし、誰の目から見ても、その線は歪んでいる。
五人は、その指摘をすることを互いに目で牽制している。
セレナとシエラは事前に店主から事前に説明を受けていて、その点ではドヤ顔をしたいところだろうが、いかんせん周囲の人物たちが持つ力に気圧されてそれどころではない。
「……線が歪んでいると思ったら……盤面がかすかに窪んでいるのか。あぁ、縦横が交わる点で歪んでおるの」
「碁石と碁盤、ともに宝石です。結局ぶつかり合いになります。衝撃を受ければどちらかが欠けます。ヒビも入るでしょう。そうならないように工夫をしました」
「それが窪みということか?」
「はい。セレナ、俺にその杖をつつけ。……ちょっと強ぇぞ? ご覧になられましたか? もっと強くなると出血するでしょう」
「それがどうした?」
「取っ手の方で俺をつつきな。うん、そう。これだとあまり出血することはないでしょうね。尖ってませんから」
「くどいな。どういうことだ?」
「接する面が少ないと、力がそこに集中します。だからこそ壊れやすい。そのために盤面に窪みをつけることで衝撃が和らげられて少しでも長持ちすることになります。それともう一つ」
店主は碁笥から碁石を鷲掴みにして碁盤の上に並べる。
すると
「……なるほど、窪みで固定されやすくなるから、適当においても線に沿って石が並べられるということだな?」
「実戦が終わり検討する時にざっと並べる。その時にどちらの列にその石が並ぶのかということもはっきり分かります。あと水平の面と窪みの曲面の境も角を滑らかにしてますのでそこで衝撃を強く受けることはないでしょう」
「なかなかの工夫ぶりだの。妾も一組欲しくなる一品だな」
「一品……そう、一品でなければなりません。大賞戦の賞品ですから。それとですね。盤と床の接点もきになりましたので、この蓋をひっくり返して床に置き、その蓋を台にして盤を置くようにしています。足がはまるように蓋の裏にも窪みがついてます」
解説の通りに蓋を裏側にする。
その上に碁盤を持ち上げ置こうとするが、店主はそこで動きを止める。
「……どうした? 置くのであろう?」
店主はそれに答えない。
じっと持ち上げたまま動こうとしない。
ただ蓋の裏を見ているだけ。
「何をしている? 蓋の裏に何かあるのか? ……まぁ窪みは確かに四か所あるが……何……」
突然ウルヴェスは仁王立ちになる。
店主以外はいきなりの動きに驚くが、店主は何かを察してウルヴェスを見上げるだけ。
「猊下! ……ご覧になられましたか? ……なられたのであれば、この言葉の意味が分かるはずです。一品である、と」
ウルヴェスはその言葉を噛みしめている様子。
「……よくぞ、このような……うむ、まさしくこれは唯一無二の一品である!」
「置かなくてもいいですよね?」
いたずらっ子のようなお茶目な表情になる店主に、もう十分とウルヴェスは頷く。
「まだどれにするか決めておられなければ、気を付けていただきたいことがあります」
「ふむ、聞こうか」
「この線は、ヴェーダーンと呼ばれる塗料を使われております」
「違うぞ。ヴェーダーンは樹木の名前。その樹液を使っておるということだな?」
やりこめてばかりではないぞと、些細なことを店主に教えるウルヴェス。しかし店主はやや大げさではあるが丁寧な態度で訂正する。
「その塗料、実は宝石と相性があまり良くないようです。ただ塗って乾燥させただけだと、宝石と塗料の密着性は決して高くはなく、つまんで持ち上げるとそのまますべて剥がれる恐れがあります。私のところから盗まれた物がそのまま出された場合、碁盤の目がすべて剥ぎ取られることもあります」
ふむ、とウルヴェスは立ち上がり、隣の献上品候補の碁盤の目をつまむ。
「げ、猊下! 私が献上する碁盤の質をお疑いになられるのですか?! かような者の言など信に」
「ナーダルよ。私に献上する物なら、長持ちしてくれる物であればあれこれ問わぬ。だが国主杯優勝者を称える証しとなるものぞ。血を吐くまで努力し続けた者がその結果手にした物。それがあっさりと壊れた、崩れた、品質が下がったという物を賞品とせよと……」
そこで言葉を切るウルヴェス。
「お前は妾に命じるのであれば、お主に玉座に座ってもらいたい。ナーダル。妾はお主にも声をかけたぞ? お主は拒否したではないか。それとも妾を陰から操るつもりか? なかなか面白い趣向ではないか……」
「い、いえ。そのような意図は……」
「努力し続けたばかりではなく、それを結果に結びつけた者への称賛。その思いが込められている物であると判断できる材料はどこにあるかの? 妾はそういうところにあると考える。それとも……闘石の競技者にはそこまでの価値はないと? それならそれで議論の余地はあるぞ?」
「……猊下、どうかこの品の吟味のし直しを」
ナーダルと呼ばれた人物は腹を決めて改めてウルヴェスの前に差し出す。
碁盤の目は剥がれなかったが、店主が作った物程の工夫が見られずすぐに隣の品の前に移動する。
その碁盤は所々剥がれてしまい、差し出した人物はがっくりとうなだれる。
「なかなか良い知識をいただけた。感謝するぞ」
ウルヴェスは顔だけ店主の方に向ける。
店主は片膝をつき頭を下げ謝意を表する。
「あんなまともな店主初めて見た」
「私も」
「後ろでこそこそしてんじゃねーぞ」
まるで店主節を出せずに貯まるうっ憤をまとめてぶつけているような顔を、そのままの体勢でセレナとシエラに向けている。
蓋を持ち上げ、碁盤の目が現れる。
しかし、誰の目から見ても、その線は歪んでいる。
五人は、その指摘をすることを互いに目で牽制している。
セレナとシエラは事前に店主から事前に説明を受けていて、その点ではドヤ顔をしたいところだろうが、いかんせん周囲の人物たちが持つ力に気圧されてそれどころではない。
「……線が歪んでいると思ったら……盤面がかすかに窪んでいるのか。あぁ、縦横が交わる点で歪んでおるの」
「碁石と碁盤、ともに宝石です。結局ぶつかり合いになります。衝撃を受ければどちらかが欠けます。ヒビも入るでしょう。そうならないように工夫をしました」
「それが窪みということか?」
「はい。セレナ、俺にその杖をつつけ。……ちょっと強ぇぞ? ご覧になられましたか? もっと強くなると出血するでしょう」
「それがどうした?」
「取っ手の方で俺をつつきな。うん、そう。これだとあまり出血することはないでしょうね。尖ってませんから」
「くどいな。どういうことだ?」
「接する面が少ないと、力がそこに集中します。だからこそ壊れやすい。そのために盤面に窪みをつけることで衝撃が和らげられて少しでも長持ちすることになります。それともう一つ」
店主は碁笥から碁石を鷲掴みにして碁盤の上に並べる。
すると
「……なるほど、窪みで固定されやすくなるから、適当においても線に沿って石が並べられるということだな?」
「実戦が終わり検討する時にざっと並べる。その時にどちらの列にその石が並ぶのかということもはっきり分かります。あと水平の面と窪みの曲面の境も角を滑らかにしてますのでそこで衝撃を強く受けることはないでしょう」
「なかなかの工夫ぶりだの。妾も一組欲しくなる一品だな」
「一品……そう、一品でなければなりません。大賞戦の賞品ですから。それとですね。盤と床の接点もきになりましたので、この蓋をひっくり返して床に置き、その蓋を台にして盤を置くようにしています。足がはまるように蓋の裏にも窪みがついてます」
解説の通りに蓋を裏側にする。
その上に碁盤を持ち上げ置こうとするが、店主はそこで動きを止める。
「……どうした? 置くのであろう?」
店主はそれに答えない。
じっと持ち上げたまま動こうとしない。
ただ蓋の裏を見ているだけ。
「何をしている? 蓋の裏に何かあるのか? ……まぁ窪みは確かに四か所あるが……何……」
突然ウルヴェスは仁王立ちになる。
店主以外はいきなりの動きに驚くが、店主は何かを察してウルヴェスを見上げるだけ。
「猊下! ……ご覧になられましたか? ……なられたのであれば、この言葉の意味が分かるはずです。一品である、と」
ウルヴェスはその言葉を噛みしめている様子。
「……よくぞ、このような……うむ、まさしくこれは唯一無二の一品である!」
「置かなくてもいいですよね?」
いたずらっ子のようなお茶目な表情になる店主に、もう十分とウルヴェスは頷く。
「まだどれにするか決めておられなければ、気を付けていただきたいことがあります」
「ふむ、聞こうか」
「この線は、ヴェーダーンと呼ばれる塗料を使われております」
「違うぞ。ヴェーダーンは樹木の名前。その樹液を使っておるということだな?」
やりこめてばかりではないぞと、些細なことを店主に教えるウルヴェス。しかし店主はやや大げさではあるが丁寧な態度で訂正する。
「その塗料、実は宝石と相性があまり良くないようです。ただ塗って乾燥させただけだと、宝石と塗料の密着性は決して高くはなく、つまんで持ち上げるとそのまますべて剥がれる恐れがあります。私のところから盗まれた物がそのまま出された場合、碁盤の目がすべて剥ぎ取られることもあります」
ふむ、とウルヴェスは立ち上がり、隣の献上品候補の碁盤の目をつまむ。
「げ、猊下! 私が献上する碁盤の質をお疑いになられるのですか?! かような者の言など信に」
「ナーダルよ。私に献上する物なら、長持ちしてくれる物であればあれこれ問わぬ。だが国主杯優勝者を称える証しとなるものぞ。血を吐くまで努力し続けた者がその結果手にした物。それがあっさりと壊れた、崩れた、品質が下がったという物を賞品とせよと……」
そこで言葉を切るウルヴェス。
「お前は妾に命じるのであれば、お主に玉座に座ってもらいたい。ナーダル。妾はお主にも声をかけたぞ? お主は拒否したではないか。それとも妾を陰から操るつもりか? なかなか面白い趣向ではないか……」
「い、いえ。そのような意図は……」
「努力し続けたばかりではなく、それを結果に結びつけた者への称賛。その思いが込められている物であると判断できる材料はどこにあるかの? 妾はそういうところにあると考える。それとも……闘石の競技者にはそこまでの価値はないと? それならそれで議論の余地はあるぞ?」
「……猊下、どうかこの品の吟味のし直しを」
ナーダルと呼ばれた人物は腹を決めて改めてウルヴェスの前に差し出す。
碁盤の目は剥がれなかったが、店主が作った物程の工夫が見られずすぐに隣の品の前に移動する。
その碁盤は所々剥がれてしまい、差し出した人物はがっくりとうなだれる。
「なかなか良い知識をいただけた。感謝するぞ」
ウルヴェスは顔だけ店主の方に向ける。
店主は片膝をつき頭を下げ謝意を表する。
「あんなまともな店主初めて見た」
「私も」
「後ろでこそこそしてんじゃねーぞ」
まるで店主節を出せずに貯まるうっ憤をまとめてぶつけているような顔を、そのままの体勢でセレナとシエラに向けている。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる