異世界きしものがたり ~魔力体力なくても知力で勝負~

網野ホウ

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ピクシー系エルフ種の少年、ジーゴ=トーリュ

勝負は勝てばいいというものではなく

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 心が体を凌駕する。
 そんなことはよくある話。
 冒険者である、今エルフ族の少年と真剣勝負に臨んでいるドワーフ族の男も、そんなことは数多く体験してきた。
 そして、体ばかりではなく苦しい状況を一変させる力もあることも知っている。

 しかし、一変させられる立場に立ったことは、彼ばかりではなくその勝負事を見守る四人の仲間も見たことも体験したこともない。

 二回目の勝負は進行の途中から、ドワーフの男が脂汗を流し始めた。

 一回目の勝負は、この少年の心の乱れからきた見るも無残な敗戦の様相を描いた。結果、少年の途中放棄。

 店主から喝を入れられ、相手のドワーフの男から諭され、真剣勝負の続行を選んだ少年。
 過去に囚われたことにより生まれる雑念を追い払い、一回目のお返しとばかりに、中盤になってからドワーフの男を劣勢に追い込む。

 しかし少年ジーゴの表情には余裕はない。かといって切羽詰まった焦りの表情もない。
 二人はその勝負の競技に、生まれてから今までずっと浸かりっぱなしだったわけではないが、それでもおそらく競技の経験数は、四百年以上の年齢差があるドワーフの男の方が間違いなく多い。
 そんなドワーフの男が既に敗戦に追い込まれつつある。

「……これではもう挽回は無理です……。まいりました」

 ドワーフの男が敗戦を宣言し頭を下げ挨拶をする。ジーゴはそれに合わせて頭を下げる。
 頭をあげたジーゴの目には、再び涙が浮かび始める。
 しかしその顔には、一回目の勝負が終わった時のような情けない表情は見当たらない。
 歯を食いしばって、怒りを抑えているような顔をしている。
 そのまま声を出すジーゴ。はっきりとは聞き取れないが何を言ってるのかは皆判断できた。

「……最後の、三回目ですね」

 ジーゴは静かに目を閉じる。
 そして深く深呼吸。
 ドワーフの男は上半身をゆっくり前後左右に動かし、軽く回す。
 そして同じように深呼吸。

「「お願いします」」

 ドワーフの男の様子は、一回目から変わらない。
 ジーゴは二回目の勝負が終わった後、そんな心の乱れがわずかにあったように思えるが、三回目の勝負が始める前には二回目同様、心をすっかり落ち着かせていた。

 しかしジーゴは再びその途中から感情を露わになっていく。
 その勝負を見守る五人とその彼らをも見ている店主全員から見ても、中盤に差し掛かる前から勝負の行方はジーゴが相手を圧倒し始めている。

 彼の口からは「どうして」とか、「こんなんじゃ」という言葉が交互に呟きとして発せられる。

 そして訪れる勝負の終わり。
 それはドワーフの男から、「まいりました」という言葉とともに訪れた。
 そしてジーゴは再び声をあげずに泣き出した。

「こんなんじゃ……。したかったことは、こんなんじゃ……」

「我儘にもほどがある。って言うか、自分で何をしたかったのかも分からなかったんじゃないのか?」

 ジーゴを責める店主には、今度は怒りの感情はない。
 彼を諭すような物言いである。

「最後の最後まで進めたかったんでしょう。ですが、こればかりは申し訳ないとしか言いようがありませんね。私ではハンデなしで彼の相手は務まらなかった。それだけのことでしたが……」

 ドワーフの男は、少しでも少年の力になれたらという思いで名乗りを上げたものの、結果としては彼にとってはあまり意味がない好意であった。

「お前が気にするこっちゃねぇよ。かといって俺とやったらもっと早くケリつけちまうしな」

 過去を捨て去り未練を断ち切る。
 その目的でその道具を使った勝負をしたがったジーゴ。
 しかしその勝負はどうありたかったのかまでは彼自身ですら分からなかった。
 だから勝っても駄々をこねるような気持ちのままだった。

「じゃあ何をしたかったの? この子は」

「燃え尽きたかったんだろ? 真っ白になるまでな。自分の持ってる力すべてを出し尽くしてさ。そして相手に叩きのめされる。俺の力はこんなもんだったんだなって自分の力を見限ってさ。未練を断ち切るにゃこれがベストな成り行きだ。それがこれだもんな」


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