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ピクシー系エルフ種の少年、ジーゴ=トーリュ
囲碁の棋士 決別できないその競技の道に進む決心
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不完全燃焼。
気持ちが中途半端のまま、それが終わってしまった。
ほかの浮浪児達同様、まず大切なのは日常の糧を手に入れること。
そして日常を生き抜くための体力を身に付けること。
娯楽に耽る余裕など、これからの生涯の中にあるとは思えない。
だからこそ、この勝負をこの生の最後の贅沢にしようとし、全力を尽くそうとした。
だがしかし、結果は少年の願い通りにはならなかった。
店主はそんな風にもこの少年の思いを読んでいた。
「未練も残さないくらい燃え尽きることが出来る相手を探すにも手間がかかる。午後になりゃ、なぜかこいつで遊ぶ年寄りたちが集まってくるんだが、おそらくこいつの相手になりゃしねぇ」
「近所の人達ね。と言ってもここからは結構離れてるんだけど……」
ジーゴが全力を出せる相手は誰かいないかと、いろんな人を思い浮かべるシエラ。
しかし適当な相手が思い浮かばない。
「本職みたいに、真剣に仕事に取り組むときは命の危険も覚悟して取り組む。同じくらいの意気込みでこの勝負に臨んでも、私じゃ相手にならなかったでしょう」
「……そんな人、いるわけないじゃないか。店主さんは、俺より力があるのにそんな風に見えないし」
恨めしそうにジーゴは店主を睨む。
が、店主は怪訝そうにジーゴを見返している。
「な、なんだよ、店主さん」
ジーゴは、店主からすまなそうな顔で謝られることを期待していた。
それが当然とも思っていた。
しかし店主の反応はジーゴの予想外。
最初は道具を見るだけでよかった。しかしそれを目にすると、誰かと対戦できることをわずかながらに期待していた。
だが淡い期待だった。その競技の力量が分からなければ、対等に始めるべきかハンデをつけるべきか、開始時点でその進行の状況が変わってしまうのである。
そんな期待を店主が叶えてくれた。
本当は、叶えられなかった期待を叶えてくれた店主に感謝すべきだろう。
しかしそれが逆になってしまった。店主の言葉を借りれば、ジーゴの心の中には不完全燃焼の思いだけが残ってしまったのである。
「……こいつで生活している人はいるぞ? この競技を通して、別の仕事に就く者もいる。そんなことも知らないのに、大賞戦の名称知ってたのか? あべこべだろ、それ」
「え? 遊びで生活してる人がいるの?」
ジーゴの驚きの声は、全員から注目を集める。
そして沈黙の時間が少し流れた。
「……こんな年で、私よりも遥か上をいく実力です。店主との差はあるとしても、鍛えれば十年もしないうちに追い越すんじゃないですか?」
「なぁ、少年。今こいつで勝負したが、いつもこいつで遊んでたりしてたのか?」
店主と同じ種族の男が、ジーゴに目線を合わせるようにしゃがみながら問いかける。
「出来るわけないじゃないか。家を追い出されてから五年くらい……毎日無事に過ごすので精一杯だったってのに」
ジーゴからの返事を聞いて目を丸くするその男は振り返って店主を見る。
「場数踏まないでこいつを圧倒したんですよ? こりゃ……ひょっとして……」
「……ぷっ。ぷっ……。あはははは」
店主はこらえきれずに大笑いする。
その場にいた全員は、今度は店主に目を丸くした顔を向ける。
「ちょっとテンシュ! 笑い事じゃないでしょう?! こんな子供のこれからのこと考えたら……」
「だから可笑しいんじゃねぇかよ! なぁ、お前、将来騎士になりたいっつってたよな?」
顔を真っ赤にしながらジーゴは店主を責める。
夢を見ることくらい誰だって許されるはず。それを馬鹿にされたと思い込んだ。
「わ、悪ぃかよ! 魔力がなくても騎士になった人だっているだろ?!」
「騎士……騎士か……。キシはキシでも、プロキシに向いてるんじゃねぇのか? お前。シャレを実行できそうな奴、初めて見たぜ。ぶわはははは」
「プロキシ?」
怒りは消えないがジーゴには聞きなれないその言葉を聞きなおす。
「テンシュ……。それは……有り得るかもしれません」
勝負の相手をしたドワーフ族の男は、大笑いする店主に真剣な目を向けて同意する。
他の者達は、その男の言葉にまさかと驚くが、それぞれが考え込み、やはり二人に同意する。
「な、なんだよ、そのプロキシって! 騎士自体兵士のプロだろ?!」
そうじゃねぇよと笑いを収めた店主も、ジーゴに視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「俺に伝手はないんだが、プロになれたらそれで生活できる。しかも対局中も感情むき出しだ。その性格はプロ向きじゃねぇか? 礼儀正しさも必要な業界だが、きちんと教われば礼儀は身につくだろ」
「タイキョク?」
「試合のことだよ。お前、念のためにこれからも勉強会に参加しろ。どこで誰と繋がるか分かんねぇからな。おれも協力してやるよ。もっとも誰かにお前を託すことくらいまでしか出来ねぇがな」
「テンシュが誰かにそこまで気に掛けるって、明日槍とか降ってくるんじゃねぇか?」
「うるせぇよお前は。……なぁ、坊主。腹決めてその道に進んでみろ。どうせ相談する相手もいねぇだろ? 今の三番勝負の途中で湧き出た思いを絶対忘れなきゃ、プロになれるぜ、お前」
エルフ族の長身の男に文句を言った後、店主は本腰を入れてジーゴに勧める。
「で、でも、プロキシって……何のこと?」
「プロのキシ。この競技をする人達の事だな。特にそれで生計を立てている者のことを指す。こいつの名前は知ってるよな?」
ジーゴは思い切り頷く。
「この国のために、外敵や魔物から被害を受けないように守り、国の民のために戦う者達のことを軍人とか兵士とか言う。この五人のように、魔物討伐ばかりじゃなく、物作りの材料探しや人探しなんかの仕事をする人のことを冒険者って言う。そして……」
さっきまでドワーフの男と一緒に勝負をしていた道具に指をさす店主。
「こいつで真剣勝負をし続けて生計を立てる者達のことを棋士っつーんだ。アマチュア、つまり素人で強い奴もいるが、どうせならこの国で、世界で一番目指してみろよ」
その競技はこの世界ではいろんな名称があった。
別世界にも同じ競技が存在し、その世界から来た店主が、この国の王に提案しその名前が広まり、定着した。
競技の名前は「碁」、もしくは「囲碁」。
そしてこの時からジーゴの将来の夢が目標に変わり、それが騎士から棋士に変わった瞬間であった。
気持ちが中途半端のまま、それが終わってしまった。
ほかの浮浪児達同様、まず大切なのは日常の糧を手に入れること。
そして日常を生き抜くための体力を身に付けること。
娯楽に耽る余裕など、これからの生涯の中にあるとは思えない。
だからこそ、この勝負をこの生の最後の贅沢にしようとし、全力を尽くそうとした。
だがしかし、結果は少年の願い通りにはならなかった。
店主はそんな風にもこの少年の思いを読んでいた。
「未練も残さないくらい燃え尽きることが出来る相手を探すにも手間がかかる。午後になりゃ、なぜかこいつで遊ぶ年寄りたちが集まってくるんだが、おそらくこいつの相手になりゃしねぇ」
「近所の人達ね。と言ってもここからは結構離れてるんだけど……」
ジーゴが全力を出せる相手は誰かいないかと、いろんな人を思い浮かべるシエラ。
しかし適当な相手が思い浮かばない。
「本職みたいに、真剣に仕事に取り組むときは命の危険も覚悟して取り組む。同じくらいの意気込みでこの勝負に臨んでも、私じゃ相手にならなかったでしょう」
「……そんな人、いるわけないじゃないか。店主さんは、俺より力があるのにそんな風に見えないし」
恨めしそうにジーゴは店主を睨む。
が、店主は怪訝そうにジーゴを見返している。
「な、なんだよ、店主さん」
ジーゴは、店主からすまなそうな顔で謝られることを期待していた。
それが当然とも思っていた。
しかし店主の反応はジーゴの予想外。
最初は道具を見るだけでよかった。しかしそれを目にすると、誰かと対戦できることをわずかながらに期待していた。
だが淡い期待だった。その競技の力量が分からなければ、対等に始めるべきかハンデをつけるべきか、開始時点でその進行の状況が変わってしまうのである。
そんな期待を店主が叶えてくれた。
本当は、叶えられなかった期待を叶えてくれた店主に感謝すべきだろう。
しかしそれが逆になってしまった。店主の言葉を借りれば、ジーゴの心の中には不完全燃焼の思いだけが残ってしまったのである。
「……こいつで生活している人はいるぞ? この競技を通して、別の仕事に就く者もいる。そんなことも知らないのに、大賞戦の名称知ってたのか? あべこべだろ、それ」
「え? 遊びで生活してる人がいるの?」
ジーゴの驚きの声は、全員から注目を集める。
そして沈黙の時間が少し流れた。
「……こんな年で、私よりも遥か上をいく実力です。店主との差はあるとしても、鍛えれば十年もしないうちに追い越すんじゃないですか?」
「なぁ、少年。今こいつで勝負したが、いつもこいつで遊んでたりしてたのか?」
店主と同じ種族の男が、ジーゴに目線を合わせるようにしゃがみながら問いかける。
「出来るわけないじゃないか。家を追い出されてから五年くらい……毎日無事に過ごすので精一杯だったってのに」
ジーゴからの返事を聞いて目を丸くするその男は振り返って店主を見る。
「場数踏まないでこいつを圧倒したんですよ? こりゃ……ひょっとして……」
「……ぷっ。ぷっ……。あはははは」
店主はこらえきれずに大笑いする。
その場にいた全員は、今度は店主に目を丸くした顔を向ける。
「ちょっとテンシュ! 笑い事じゃないでしょう?! こんな子供のこれからのこと考えたら……」
「だから可笑しいんじゃねぇかよ! なぁ、お前、将来騎士になりたいっつってたよな?」
顔を真っ赤にしながらジーゴは店主を責める。
夢を見ることくらい誰だって許されるはず。それを馬鹿にされたと思い込んだ。
「わ、悪ぃかよ! 魔力がなくても騎士になった人だっているだろ?!」
「騎士……騎士か……。キシはキシでも、プロキシに向いてるんじゃねぇのか? お前。シャレを実行できそうな奴、初めて見たぜ。ぶわはははは」
「プロキシ?」
怒りは消えないがジーゴには聞きなれないその言葉を聞きなおす。
「テンシュ……。それは……有り得るかもしれません」
勝負の相手をしたドワーフ族の男は、大笑いする店主に真剣な目を向けて同意する。
他の者達は、その男の言葉にまさかと驚くが、それぞれが考え込み、やはり二人に同意する。
「な、なんだよ、そのプロキシって! 騎士自体兵士のプロだろ?!」
そうじゃねぇよと笑いを収めた店主も、ジーゴに視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「俺に伝手はないんだが、プロになれたらそれで生活できる。しかも対局中も感情むき出しだ。その性格はプロ向きじゃねぇか? 礼儀正しさも必要な業界だが、きちんと教われば礼儀は身につくだろ」
「タイキョク?」
「試合のことだよ。お前、念のためにこれからも勉強会に参加しろ。どこで誰と繋がるか分かんねぇからな。おれも協力してやるよ。もっとも誰かにお前を託すことくらいまでしか出来ねぇがな」
「テンシュが誰かにそこまで気に掛けるって、明日槍とか降ってくるんじゃねぇか?」
「うるせぇよお前は。……なぁ、坊主。腹決めてその道に進んでみろ。どうせ相談する相手もいねぇだろ? 今の三番勝負の途中で湧き出た思いを絶対忘れなきゃ、プロになれるぜ、お前」
エルフ族の長身の男に文句を言った後、店主は本腰を入れてジーゴに勧める。
「で、でも、プロキシって……何のこと?」
「プロのキシ。この競技をする人達の事だな。特にそれで生計を立てている者のことを指す。こいつの名前は知ってるよな?」
ジーゴは思い切り頷く。
「この国のために、外敵や魔物から被害を受けないように守り、国の民のために戦う者達のことを軍人とか兵士とか言う。この五人のように、魔物討伐ばかりじゃなく、物作りの材料探しや人探しなんかの仕事をする人のことを冒険者って言う。そして……」
さっきまでドワーフの男と一緒に勝負をしていた道具に指をさす店主。
「こいつで真剣勝負をし続けて生計を立てる者達のことを棋士っつーんだ。アマチュア、つまり素人で強い奴もいるが、どうせならこの国で、世界で一番目指してみろよ」
その競技はこの世界ではいろんな名称があった。
別世界にも同じ競技が存在し、その世界から来た店主が、この国の王に提案しその名前が広まり、定着した。
競技の名前は「碁」、もしくは「囲碁」。
そしてこの時からジーゴの将来の夢が目標に変わり、それが騎士から棋士に変わった瞬間であった。
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