時の情景

琉斗六

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3-1:辺境暮らし

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 追放という言葉に、俺はてっきり王宮への出入り禁止……ぐらいの話を考えていた。
 しかし、実際はそんなヌルイ話ではなく──。
 俺はほぼほぼ "護送車" にしか見えない竜車りゅうしゃに乗せられて、王国の外側、魔獣まじゅうの巣窟と言われる暗黒の森の中に置き去りにされた。

 転移の時に持っていた通勤に使っていたショルダーバッグだけは持って行くことを許されたが、それ以外は "王宮からの支給品" だからって理由で、携帯することは出来なかった。

 ショルダーバッグの中身は、転移の時に入っていた物……つまり、もう電源も入らないノートパソコンや、スマートフォン、プリントや教科書といった──いわばガラクタの山だ。
 とはいえ、レザー製のショルダーバッグを含めて、背広と腕時計は……いわば最後の "思い出の品" なので、どうしても手放す気になれなくて。
 もっとも、帰れない故郷への感傷ばかりではなく、こちらの世界にない概念とテクノロジーを手放していいものかどうか、悩んで隠し持っていたところもある。

 森の中、太陽の位置から方角を定め、如月に通訳をしながら学んだ王国の地理の知識を総動員し、俺は人里に向かって歩いた。
 残念なことに、市街地で公立中学の理科教諭なんかをしていた俺は、サバイバル能力は著しく低く。
 半日も歩いたところで、バテバテになり──。
 なんとか木の上で夜をやり過ごしはしたものの、川辺で動けなくなって倒れていた。

 そこに行き合ったのが、現在の家主であり、この村の薬師であるマダム・キャシーだった。

 大きな鍵鼻に深く刻まれた皺。
 絵本の魔女が、そのまま抜け出してきたような老婆だ。
 マダムは危険な森にしか生えない、特別な薬草やらキノコやらを採取しにきていた。

「ちょうど男手が欲しいと思ってたんだよ」

 出会った時から「イッヒッヒッ」と笑う変な婆さんだったが。
 村外れにある自分の家に、身元も知らない行き倒れを連れ帰り、世話をする程度にはおひとよしでもあった。

「働かざるもの食うべからずだよ」

 と言って、どうみても野良作業などしたことのない俺に、鋤鍬をもたせ、家の裏手にある薬草畑の世話をさせられた。
 最初は──死ぬかと思った。

 教師生活14年、体を動かすのは適度な運動だけ……ってな人生を送ってきていたのだ。
 一日いちにちで、全身がガタガタになり、手の皮は破れ、足腰が立たなくなった。

「ひよわなおっさんだねぇ!」

 笑いながら、マダムは煎じ薬を作ってくれた。
 これまた、殺しにきてるのかと思うような、すごい匂いと味のお茶だったが……。
 驚いたことに、それを飲んで一晩寝たら、翌日には気力も体力もスッキリと回復していた。

 そこでしばらくマダムの手伝いをしながら、俺はなにが失敗だったのかを反省し、そこで文字の読み書きをマダムから教わった。

 召喚時に得た、わずかながらに使える生活魔法。
 マダムの元で教わった読み書きと、辺境の村での暮らし方。
 それに、教師だった履歴のお陰で今は村の子供たちに読み書きと計算を教えられるまでになり、なんとか暮らしが成り立っている。
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