時の情景

琉斗六

文字の大きさ
21 / 31

9-1:領都

しおりを挟む
 その後、辺境伯の領都まで、襲撃はなかった。

「森の中での襲撃は、捜索していたものが独断で襲ってきたのかもしれませんね」
「だがそれなら、ここにも目が光ってるんじゃないのか?」
「はい。辺境伯様は聖女派の筆頭なので大丈夫ですが、身の危険はあると思います。警戒して行きましょう」

 辺境伯の領都は、頑丈な石壁で囲まれた武装都市だ。
 ノルヴェリオ王国は、聖女の結界によって守られている国だが、その結界も絶対ではない。

 げんに聖女が失われたのち、如月を召喚するまでの間、結界はしばらく維持されていた。
 如月が魔力でコントロールが出来ると結論付けたのも、つまりは聖女の "気合い" 次第で、結界の強度や維持される時間がどうにか出来ると考えたからだろう。

「しかし、結界の端っこに位置するなら、むしろこの辺りの領主は聖女と敵対しそうだけどな」

 綻びが生じた時に、最初に被害を受けるのは端っこと相場は決まってる。
 故に結界の端になる辺境域の貴族は、結界に頼らず武力を磨いているのだ。

「聖女様が、辺境域に手厚いサポートを考えてくださいました。なにかがあった時に、被害が出た地域に援助金をすぐに出せる法案や、日頃から冒険者や武芸に秀でたものを育成するための助成金じょせいきんなどです」
「国王は、クーデターを心配して、辺境域が武力を持つことを嫌がってなかったっけ?」

 少なくとも、俺たちが召喚された直後、辺境域の貴族たちにいい顔をされた記憶はない。

「しかし聖女様は、もし本当にクーデターが起きたとしても、それに対処ができるように結界を工夫する方法を考えたのです」
「どんな?」
「結界の綻び事件のあと、聖女様は結界のコントロールをずいぶん思案されておりました」

 辺境伯の居城は、入口に兵が立っていたが。
 テオが所持する "イージス" の家紋が入った剣を提示すると、すんなりと通してもらえた。

「テオは騎士爵を弟に譲ったんだろう? その剣は?」
「この剣は現当主ではなく、一度でもイージスを名乗ったものが持つ証です」
「あー、ご隠居様の印籠いんろうか……」
「インロー?」
「なんでもない。行こう」

 俺たちは、応接室なんだか待合室なんだかわからんが、とにかく豪勢だが生活感のまるでない部屋に通された。

「凛様は現在、結界を複数張っておられます」
「なんのために?」
「結界の内側でクーデターの計画を立てられてしまうと、悪意あるものを寄せ付けない効果が意味をなしません。けれど、辺境から王都までに結界が複数あれば……」
「辺境でクーデターを企んでも、王都にはハイれないってわけか。なるほど、それで王は、辺境への支援金を断れなくなったんだな」
「そうです」

 話しているところに、文官が入ってくる。

「失礼いたします」

 テオが立ち上がり、文官と話をしてから俺に手招きをした。

「トキオミさん、お部屋一緒でいいですか?」
「はぁ? 騎竜を借りて、すぐに出るんじゃなかったのか?」
「日が暮れかけているから、危険ですし。今日はお忙しいので、辺境伯様にご挨拶ができませんが、一言もなしに素通りはできませんから」

 そう言われては仕方がない。

「分かった。……でもなんで、同じ部屋?」
「昨日のこともありますし、トキオミさんを一人にしておくのが心配です。護衛としても、当然の選択かと……」
「むしろ、野営の翌日だから、一人でぐっすり眠りたい」
「そこまで拒絶されると、ちょっと傷つきます。……昔は一緒に寝た仲なのに……」
「語弊のある言い方をするなよ」

 ふふっと、テオが笑う。

「とにかく、俺は個室を要求する!」
「お気持ちはわかりますが、却下します」

 ニッコリと笑うテオに、俺はただもう不満な顔をするほかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】自称ワンコに異世界でも執着されている

水市 宇和香
BL
「たとえ異世界に逃げたとしたって、もう二度と逃さないよ」 アザミが高校二年生のときに、異世界・トルバート王国へ転移して早二年。 この国で二十代半ばの美形の知り合いなどいないはずだったが、 「キスしたら思いだしてくれる? 鳥居 薊くん」 その言葉で、彼が日本にいたころ、一度だけキスした同級生の十千万堂 巴波だと気づいた。 同い年だったはずのハナミは、自分より七つも年上になっていた。彼は王都から辺境の地ーーニーナ市まではるばる、四年間もアザミを探す旅をしていたらしい。 キスをした過去はなかったこととして、二人はふたたび友人として過ごすようになった。 辺境の地で地味に生きていたアザミの日常は、ハナミとの再会によって一変し始める。 そしてこの再会はやがて、ニーナ市を揺るがす事件へと発展するのだった…! ★執着美形攻め×内弁慶な地味平凡 ※完結まで毎日更新予定です!(現在エピローグ手前まで書き終わってます!おたのしみに!) ※感想や誤字脱字のご指摘等々、ご意見なんでもお待ちしてます! 美形×平凡、異世界、転移、執着、溺愛、傍若無人攻め、内弁慶受け、内気受け、同い年だけど年の差

ヒメ様が賊にさらわれました!

はやしかわともえ
BL
BLです。 11月のBL大賞用の作品です。 10/31に全話公開予定です。 宜しくお願いします。

悪魔はかわいい先生を娶りたい

ユーリ
BL
天界にて子供達の教師を勤める天使のスミレは、一人だけ毎日お弁当を持ってこない悪魔のシエルという生徒を心配していた。ちゃんと養育されているのだろうかと気になって突撃家庭訪問をすると…?? 「スミレ先生、俺の奥さんになってくれ」一人きりの養育者×天使な教師「いくらでも助けるとは言いましたけど…」ふたりの中を取り持つのは、小さなかわいい悪魔!

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

処理中です...