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10-1.王都へ
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辺境伯の竜車は、見た目はさほど豪華ではなかったが、造りは鋼鉄と魔導砲を備えた重武装だった。
「すごいな。……こりゃ、王族の竜車より値が張るんじゃないか?」
「確実に、こちらのほうが費用が高いですよ」
テオがこそりと耳打ちする。
しかも乗って驚いたが、揺れがさほどない。
さすがに日本製の自動車と舗装路のコンビネーションからしたら揺れるが、行きに乗せられた護送車のことを思い返すと、静かと言っていいレベルだ。
「護送車と一緒にしちゃいかんのはわかってるが、こんなに揺れないもんなのか?」
「聖女様のご加護ですよ」
「あー、あれか……」
如月が初めて竜車に乗った時に、「尻がよっつに割れる!」と泣きついてきたので、サスペンションを取り付けたのだ。
「こちらにお招きした時に、聖女様が乗っていらした竜車に同乗させて頂きましたが、あれは実にいい! トキオミ殿が考案されたとか?」
「いえ、知識で知ってるだけで考案はしてません」
豪快に笑う辺境伯に、俺は恐縮する。
「そうだ。これだけは伝えておこう。昨夜の襲撃者だがな」
辺境伯のその一言に、テオの顔がシリアスにキュッと引き締まる。
「残念ながら、なにも出なかった」
「なにも……ですか?」
「ああ。分かったことは、奴らのナイフには鎮静効果の高い毒が塗られていたこと。それと "存命" の術が込められていたことだな」
「その存命って、なんですか?」
「決して殺さず捕らえるための術だな。致命傷を与えるような──例えば心臓を一突きしたとしても、死なぬ。最も、やられたほうは死ぬより苦しむがな」
最後の一言に、俺はゾッとした。
「やはり、レオン殿下の配下が、トキオミさんの捕縛を狙っているのかと」
「儂もそう思う。トキオミ殿を盾に、聖女様に結婚を迫るつもりだろう」
「一教師に、政治は重すぎます……」
げんなりと答えると、辺境伯は豪快に笑った。
「まぁ、ゆるりと行こう」
車列は、比較的整った道を進む。
途中は、辺境伯の迎賓館と狩猟小屋で一泊ずつ過ごし、三日目に王都に到着する旅程と告げられた。
「そういえば、トキオミ殿は料理をされるとか?」
「料理というほどのものは……。如月がホームシックになった時に、故郷の味っぽいものを再現しただけです」
「トキオミさんのポップコーン、懐かしいですね」
夕食の席で、そんな話題が出た。
「ほう、ポップコーンとは?」
「辺境伯様のお口に合うかどうか……。ここら辺りじゃ、馬の飼料にするトウモロコシで作りますから」
「面白いな。馬の飼料が人の口に合うなら、救荒植物として使える」
「いや、人が食って旨いトウモロコシは、肥料を使うので、救荒植物には向かんでしょう。やはり、一番強いのはさつまいもじゃないですかね」
「ふむ、トキオミ殿は、ずいぶん造詣が深いご様子ですな」
「いや、俺のは……机上のナントカですね。教師ですから、過去の歴史を生徒に教えるために、自分も知ってるってだけです」
聖女の結界で守られたノルヴェリオ王国であっても、天候や天災で作物の出来は左右される。
魔獣の侵入を阻んでいても、獣の被害はある。
辺境は言葉通り、結界の端っこにあるから割りを食う地域な分、領主は領民の声に耳を傾ける必要がある……ってことなんだろう。
夕食後、部屋に戻ったところで、俺は大きなため息を吐いた。
「つ……疲れた……」
「辺境伯様は、トキオミさんを随分気に入った様子ですね」
「いやもう……、いつ化けの皮が剥がれるかと、ヒヤヒヤした」
「トキオミさんの知識は本物です。化けの皮はないでしょう」
クスクス笑いながら、テオがすうっと顔を寄せてくる
「な……なんだよ……」
長いまつ毛の奥の、青い瞳。
整いすぎている顔が間近に迫ってきて、意味も無くどぎまぎしてしまう。
「なんか、話をしたら食べたくなっちゃいました。トキオミさんのポップコーン」
「はあ?」
「これから二人で、厨房に潜り込みませんか?」
いたずらっぽくニッコリと笑われて、俺は脱力した。
「莫迦、寝ろ! こんな時間にポップコーンなんか食ったら、胸焼けしちまうぞっ!」
「残念です」
ただでさえ、寝室を一緒にされてアレだと言うのに。
冗談もほどほどにして欲しい。
「すごいな。……こりゃ、王族の竜車より値が張るんじゃないか?」
「確実に、こちらのほうが費用が高いですよ」
テオがこそりと耳打ちする。
しかも乗って驚いたが、揺れがさほどない。
さすがに日本製の自動車と舗装路のコンビネーションからしたら揺れるが、行きに乗せられた護送車のことを思い返すと、静かと言っていいレベルだ。
「護送車と一緒にしちゃいかんのはわかってるが、こんなに揺れないもんなのか?」
「聖女様のご加護ですよ」
「あー、あれか……」
如月が初めて竜車に乗った時に、「尻がよっつに割れる!」と泣きついてきたので、サスペンションを取り付けたのだ。
「こちらにお招きした時に、聖女様が乗っていらした竜車に同乗させて頂きましたが、あれは実にいい! トキオミ殿が考案されたとか?」
「いえ、知識で知ってるだけで考案はしてません」
豪快に笑う辺境伯に、俺は恐縮する。
「そうだ。これだけは伝えておこう。昨夜の襲撃者だがな」
辺境伯のその一言に、テオの顔がシリアスにキュッと引き締まる。
「残念ながら、なにも出なかった」
「なにも……ですか?」
「ああ。分かったことは、奴らのナイフには鎮静効果の高い毒が塗られていたこと。それと "存命" の術が込められていたことだな」
「その存命って、なんですか?」
「決して殺さず捕らえるための術だな。致命傷を与えるような──例えば心臓を一突きしたとしても、死なぬ。最も、やられたほうは死ぬより苦しむがな」
最後の一言に、俺はゾッとした。
「やはり、レオン殿下の配下が、トキオミさんの捕縛を狙っているのかと」
「儂もそう思う。トキオミ殿を盾に、聖女様に結婚を迫るつもりだろう」
「一教師に、政治は重すぎます……」
げんなりと答えると、辺境伯は豪快に笑った。
「まぁ、ゆるりと行こう」
車列は、比較的整った道を進む。
途中は、辺境伯の迎賓館と狩猟小屋で一泊ずつ過ごし、三日目に王都に到着する旅程と告げられた。
「そういえば、トキオミ殿は料理をされるとか?」
「料理というほどのものは……。如月がホームシックになった時に、故郷の味っぽいものを再現しただけです」
「トキオミさんのポップコーン、懐かしいですね」
夕食の席で、そんな話題が出た。
「ほう、ポップコーンとは?」
「辺境伯様のお口に合うかどうか……。ここら辺りじゃ、馬の飼料にするトウモロコシで作りますから」
「面白いな。馬の飼料が人の口に合うなら、救荒植物として使える」
「いや、人が食って旨いトウモロコシは、肥料を使うので、救荒植物には向かんでしょう。やはり、一番強いのはさつまいもじゃないですかね」
「ふむ、トキオミ殿は、ずいぶん造詣が深いご様子ですな」
「いや、俺のは……机上のナントカですね。教師ですから、過去の歴史を生徒に教えるために、自分も知ってるってだけです」
聖女の結界で守られたノルヴェリオ王国であっても、天候や天災で作物の出来は左右される。
魔獣の侵入を阻んでいても、獣の被害はある。
辺境は言葉通り、結界の端っこにあるから割りを食う地域な分、領主は領民の声に耳を傾ける必要がある……ってことなんだろう。
夕食後、部屋に戻ったところで、俺は大きなため息を吐いた。
「つ……疲れた……」
「辺境伯様は、トキオミさんを随分気に入った様子ですね」
「いやもう……、いつ化けの皮が剥がれるかと、ヒヤヒヤした」
「トキオミさんの知識は本物です。化けの皮はないでしょう」
クスクス笑いながら、テオがすうっと顔を寄せてくる
「な……なんだよ……」
長いまつ毛の奥の、青い瞳。
整いすぎている顔が間近に迫ってきて、意味も無くどぎまぎしてしまう。
「なんか、話をしたら食べたくなっちゃいました。トキオミさんのポップコーン」
「はあ?」
「これから二人で、厨房に潜り込みませんか?」
いたずらっぽくニッコリと笑われて、俺は脱力した。
「莫迦、寝ろ! こんな時間にポップコーンなんか食ったら、胸焼けしちまうぞっ!」
「残念です」
ただでさえ、寝室を一緒にされてアレだと言うのに。
冗談もほどほどにして欲しい。
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