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本編
8話
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僕は昼食も一人だった。
いつもクラーラがいる中庭まで来たのだが、クラーラはいなかった。
来る気配もない。
僕はアーベル家の料理長が作ったお弁当を一人もそもそと食べる。
授業の合間にクラーラのクラスを訪ねてみたが、教室にはいなかった。
あの令嬢との事は誤解なのだと説明したいのに、当の本人がいないのでは誤解の解きようがない。
◼︎
生徒会の終わり、僕は辺りがオレンジに染まった庭園の側の廊下で立ち止まっていた。
ボーッと見つめるのはいつもクラーラがお茶会を開くあたりだ。
ここのところ、クラーラを見ていない。遠目からも見れずにいる。
クラーラ不足でそろそろ倒れそうだ。
一目でいい。遠くからでもいいからその髪の一房でもチラリと見えたなら。
そう願いながら過ごすが、神は残酷で僕に希望すらも与えてくれない。
フランツは心ここに在らずの状態で、いつもは遠くで見るだけだった庭園のガゼボに近づいていく。
これでクラーラとの縁は終わりなのだろうか?
そんなの許せるはずないだろう…悲しみを湛えながらすぐ側に佇むガゼボを見つめる。
すると、腰ほどの大きさの植木の奥から物音が聞こえた。
確認しようとそっと覗き込むと生い茂る葉っぱの奥からサラサラと輝く菫色が現れた。
なんと! 神は慈愛に満ちていた。
僕が渇望するクラーラへと導いてくれたのだと、密かに罵っていた神に感謝の祈りを捧げる。
小さな頭が物音を立てないように息を潜めながら、ふるふると震えている。
久々に会う婚約者になんと声をかけていいものか。
普段だったら気楽に話しかけていたはずなのに、こんなにも間をあけると怖気付いてしまう。
あんなにも会いたくて、話したくて、誤解を解きたかったはずなのに喉が詰まったかのように声が出せない。
いい加減、話しかけなければ、と少し息を吐き出し、吸い込む。
「誤解だと言っても納得してくれないかもしれない。あのご令嬢とカフェテリアでお茶をしたのは彼女がお詫びと言って拒否をしても納得してくれなかったからだ。その他の関わりは挨拶を交わすぐらいしかない。君が嫌だと言うなら今後は挨拶だって交わさない。だから、どうか私を拒絶しないでくれ」
捲し立てるような早口で一気に伝える。
拒絶されるかもしれない恐怖で声が震える。
最後まで聞き終え、そっと振り返ったクラーラの漆黒の瞳には涙が浮かんでいた。
「……フランツ様、私は愚か者なのです。自分が悪役令嬢だと察しながら貴方の側にいる為に婚約破棄も出来ない卑怯者。貴方に優しくされていい人間ではないのです」
いつもクラーラがいる中庭まで来たのだが、クラーラはいなかった。
来る気配もない。
僕はアーベル家の料理長が作ったお弁当を一人もそもそと食べる。
授業の合間にクラーラのクラスを訪ねてみたが、教室にはいなかった。
あの令嬢との事は誤解なのだと説明したいのに、当の本人がいないのでは誤解の解きようがない。
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生徒会の終わり、僕は辺りがオレンジに染まった庭園の側の廊下で立ち止まっていた。
ボーッと見つめるのはいつもクラーラがお茶会を開くあたりだ。
ここのところ、クラーラを見ていない。遠目からも見れずにいる。
クラーラ不足でそろそろ倒れそうだ。
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フランツは心ここに在らずの状態で、いつもは遠くで見るだけだった庭園のガゼボに近づいていく。
これでクラーラとの縁は終わりなのだろうか?
そんなの許せるはずないだろう…悲しみを湛えながらすぐ側に佇むガゼボを見つめる。
すると、腰ほどの大きさの植木の奥から物音が聞こえた。
確認しようとそっと覗き込むと生い茂る葉っぱの奥からサラサラと輝く菫色が現れた。
なんと! 神は慈愛に満ちていた。
僕が渇望するクラーラへと導いてくれたのだと、密かに罵っていた神に感謝の祈りを捧げる。
小さな頭が物音を立てないように息を潜めながら、ふるふると震えている。
久々に会う婚約者になんと声をかけていいものか。
普段だったら気楽に話しかけていたはずなのに、こんなにも間をあけると怖気付いてしまう。
あんなにも会いたくて、話したくて、誤解を解きたかったはずなのに喉が詰まったかのように声が出せない。
いい加減、話しかけなければ、と少し息を吐き出し、吸い込む。
「誤解だと言っても納得してくれないかもしれない。あのご令嬢とカフェテリアでお茶をしたのは彼女がお詫びと言って拒否をしても納得してくれなかったからだ。その他の関わりは挨拶を交わすぐらいしかない。君が嫌だと言うなら今後は挨拶だって交わさない。だから、どうか私を拒絶しないでくれ」
捲し立てるような早口で一気に伝える。
拒絶されるかもしれない恐怖で声が震える。
最後まで聞き終え、そっと振り返ったクラーラの漆黒の瞳には涙が浮かんでいた。
「……フランツ様、私は愚か者なのです。自分が悪役令嬢だと察しながら貴方の側にいる為に婚約破棄も出来ない卑怯者。貴方に優しくされていい人間ではないのです」
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