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本編
9話
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「婚約破棄とは何だ!? 私はクラーラと婚約破棄するつもりはないぞ!」
涙ながらに語るクラーラの話は半分も理解できなかったが、婚約破棄という言葉に一瞬、頭が真っ白になった。
僕にとってこれほど愛おしく、完璧な婚約者はいない。たとえ、クラーラの言葉でも愚か者や卑怯者だと貶めて欲しくない。そんなことは無いと否定したくて強くなりそうな言葉を一旦飲み込んで、一呼吸する。出来るだけ優しく……
「クラーラ、君は僕にとって代えの利かない存在だ。君には出来れば傷ついてほしくないんだ。だから、君自身であってもそんな悲しい言葉をかけないでほしい。」
「フランツ様……でも、私は悪役令嬢なのです」
「さっきも言っていたね。どうして君が悪役令嬢になるんだい?」
「……突然、こんな事を言うと頭が可笑しくなったと思われるかもしれません」
クラーラは悲痛な面持ちでフランツを見つめた。
フランツはそんなことは起き得ないと断言できる。たとえ、クラーラが自分の正体は女神なのだと言ったとして納得するだろう。むしろ、今まで女神だとしか思っていなかった。
そんな事を心中で思いながら微笑む。
「私がクラーラをそう思うはずがないだろう。たとえ君が何を言ったとしても信じるに決まっている」
クラーラは躊躇うように口をぱくぱくさせ、ギュッと目を瞑る。深呼吸をする。
決意を抱いた瞳がフランツを射貫く。
「フランツ様。私には前世の記憶があるのです。その世界はここより進んだ文化を築いていました。私は物語を読むのが好きな平凡な学生で、その中でも異世界の舞台にした恋愛ものが好きでした……」
クラーラは不安そうに一つ一つ語る。
その手は小刻みに震えていた。
「その物語には恋愛の主役の他に、邪魔をする悪役令嬢がいたんです。」
真剣に話を聞きながら、フランツは震えるクラーラを流れるようなエスコートでガゼボへと連れて、椅子に座らせる。
「最初は私、物語のヒロインに転生したと思ったんです。フランツ様から婚約を申し込まれて、穏やかで楽しい日々を過ごしていましたから……ただ、学園に入学して、マリーに会って思ったのです。彼女がヒロインで、私は悪役令嬢なのかもしれないと……」
「あのご令嬢がヒロインだとして。では、相手役は……?」
「多分、フランツ様だと思いますの。マリーもフランツ様に興味を抱いている様子でしたし……フランツ様の運命の相手はヒロインなのです。だから、私は身を引かなければいけなくて」
マリーという名に気分が悪くなる。こんな状態なのに彼女がヒロインだなんてあり得るのだろうか?
クラーラを信じると言った手前、否定などはしたくないが自分が彼女に恋に落ちる想像すら出来ない。
そんな可能性があるのだとしても完全に否定したい。
クラーラの手をそっと握る。
涙ながらに語るクラーラの話は半分も理解できなかったが、婚約破棄という言葉に一瞬、頭が真っ白になった。
僕にとってこれほど愛おしく、完璧な婚約者はいない。たとえ、クラーラの言葉でも愚か者や卑怯者だと貶めて欲しくない。そんなことは無いと否定したくて強くなりそうな言葉を一旦飲み込んで、一呼吸する。出来るだけ優しく……
「クラーラ、君は僕にとって代えの利かない存在だ。君には出来れば傷ついてほしくないんだ。だから、君自身であってもそんな悲しい言葉をかけないでほしい。」
「フランツ様……でも、私は悪役令嬢なのです」
「さっきも言っていたね。どうして君が悪役令嬢になるんだい?」
「……突然、こんな事を言うと頭が可笑しくなったと思われるかもしれません」
クラーラは悲痛な面持ちでフランツを見つめた。
フランツはそんなことは起き得ないと断言できる。たとえ、クラーラが自分の正体は女神なのだと言ったとして納得するだろう。むしろ、今まで女神だとしか思っていなかった。
そんな事を心中で思いながら微笑む。
「私がクラーラをそう思うはずがないだろう。たとえ君が何を言ったとしても信じるに決まっている」
クラーラは躊躇うように口をぱくぱくさせ、ギュッと目を瞑る。深呼吸をする。
決意を抱いた瞳がフランツを射貫く。
「フランツ様。私には前世の記憶があるのです。その世界はここより進んだ文化を築いていました。私は物語を読むのが好きな平凡な学生で、その中でも異世界の舞台にした恋愛ものが好きでした……」
クラーラは不安そうに一つ一つ語る。
その手は小刻みに震えていた。
「その物語には恋愛の主役の他に、邪魔をする悪役令嬢がいたんです。」
真剣に話を聞きながら、フランツは震えるクラーラを流れるようなエスコートでガゼボへと連れて、椅子に座らせる。
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「あのご令嬢がヒロインだとして。では、相手役は……?」
「多分、フランツ様だと思いますの。マリーもフランツ様に興味を抱いている様子でしたし……フランツ様の運命の相手はヒロインなのです。だから、私は身を引かなければいけなくて」
マリーという名に気分が悪くなる。こんな状態なのに彼女がヒロインだなんてあり得るのだろうか?
クラーラを信じると言った手前、否定などはしたくないが自分が彼女に恋に落ちる想像すら出来ない。
そんな可能性があるのだとしても完全に否定したい。
クラーラの手をそっと握る。
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