最近、婚約者の様子がおかしい〜「運命の相手はヒロインなの」と別の娘をすすめてくるのですが?〜

笹本茜

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本編

10話

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「何故クラーラは、前世の物語通りになると思うのかい? 確かにもしかしたら本の数ミリのあり得ない確率で、彼女に興味を持ったかもしれない。でも、今ここにいる私は彼女に対してそんな感情は抱いていない。私のヒロインは君だよ」

 目の下に溜まっていた涙が決壊して頬に流れ落ちる。涙を流すクラーラは僕の手を握り返してくれた。

「それにその物語のヒロインが彼女で、相手が私だという確証はないのだろう?」
「はい、でも、フランツ様は素敵ですもの、主役のはずだと思いまして」

 少し恥ずかしそうに俯きながらそう零すクラーラが可愛らしく、久々に浴びたクラーラ成分でくらくらと理性が溶けそうになる。抱きしめたいという想いを歯を食いしばり堪える。

「クラーラ、君がどんなにお願いしても私は君と婚約破棄はしない。君はどう足掻いても私の花嫁になるんだよ」

 少し脅す様に心にある本音の欠片を伝える。怖がらせてしまうと躊躇う気持ちもあるが、クラーラの頭の片隅にもなどという忌々しい言葉を存在させたくない。なので、強めに言った。クラーラの反応に不安を抱きながら様子を伺う。

「……本当ですか?」

 色々と考えていた頭はクラーラのうるうるな上目遣いで吹き飛んでしまった。ドキドキと煩い心臓が聞こえてしまうのではないか。
 必死に隠していたカッコつけが崩れそうで声も出せずに、コクコクと頷く。

 クラーラが嬉しそうに笑う。
 ああ、学園に入学して久しぶりに見た笑顔。

 僕は彼女の笑ったその美しい表情に心を奪われたのだ。

 初めて会ったとき、そして、婚約を正式に結んだときの事を思い出す。
 僕はその時からクラーラ一筋だ。

 クラーラの目の前で跪き手を取る。

「改めて言わせてくれ。クラーラ・バルテル伯爵令嬢、私と生涯を共にしてくれないだろうか。私は物語のヒロインに興味はない。私のヒロインは君だけだ。君が他に不安に思う事は私が解決してみせる。だから、私を選んでくれ。」


 婚約を申し込んだときは慣れない言葉にたどたどしく求婚をした。
 初めて会った時なんて、格好をつけていただけで中身はおこちゃま。ボロが出ないように頑張っただけ。
 婚約した後はクラーラにカッコいいと思われるためだけに必死に勉強をしたんだ。

 その努力はクラーラだけに受け取る権利がある。

「愛している、クラーラ」

 愛しい漆黒の瞳を見つめ希う。
 赤く染まっていく頬に返事への期待が増す。カラカラと渇く喉。静かに息を飲み込む。
 クラーラはフランツの胸に飛び込んだ。驚きつつもしっかりと受け止める。
 首に顔を埋めながら言葉を返してくれる。

「私も愛していますわ。貴方の隣は生涯、私だけのものです!」

 勢いよく断言したクラーラは首に埋めていた顔をあげるとフランツの頬にキスをした。

「……あっ、えっ、く、クラーラ……?」

 初めてのキス。ほっぺたに羽を撫でるように軽く唇を当てただけ。
 しかし、クラーラにゾッコンで免疫も経験もないフランツには劇薬で、刺激が強すぎた。

 頭がマグマの様に沸騰し、意識がフッと遠のく。フランツはクラーラの胸に倒れ込むように意識を失った。

「フランツ様ー!?!?」

 クラーラの大きな声が学園の庭園に響き渡った。


 ふたりの関係が進展するのはまだまだ先になるだろう。
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