その「好き」はどこまで本気ですか?

沙夜

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恋人ごっこの夜

プールサイド

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サイラスに案内されたリビングは、彼のセンスが詰まった、洗練された空間だった。壁一面の本棚には、私が探していた本はもちろん、興味を惹かれる画集や専門書がずらりと並んでいる。

「すごい……」
「好きに見ていい。今日は朱音の日だ」

そう言って微笑む彼に、私は胸が高鳴るのを感じた。
午前中は、夢中になって本を読み耽り、彼が勧めてくれたフランス映画を観た。彼と肩を並べてソファに座り、同じ世界に没頭する時間は、信じられないほど穏やかで、満ち足りていた。

午後二時過ぎ。サイラスが「そろそろプールに入らないか」と声をかけてくる。

庭に出て、彼がTシャツを脱いだ瞬間、私は思わず息を呑んだ。以前、友人と川に行った時に見たことはあったが、改めて二人きりの空間で見る彼の身体は、無駄な肉が一切ない、しなやかな筋肉に覆われていた。
私がワンピースを脱ぎ、下に隠していた水着姿になるのを待って、彼は静かに水の中へと入っていく。

最初は、子供のようにはしゃいだ。水をかけ合ったり、他愛ない話をしながら、広いプールをゆったりと泳ぐ。
けれど、次第に、彼の振る舞いが変わってきたように感じた。

水中で、すれ違いざまに腰に添えられる手。プールサイドに上がろうとする私を、下から支える指先。服越しではない、素肌に直接触れる彼の体温に、心臓が大きく波打つ。
その触れ方は、どことなく意図的で、私を試すような熱を帯びているように感じられた。
(……気のせい、だよね)
私は自分の考えを振り払うように、わざと彼から距離を取った。

プールから上がった後は、またリビングでゆったりと過ごした。ソファで本を読んでいると、隣に座った彼が、私の髪に指を絡ませる。

「髪、いい匂いがする」

好きなんだ、と囁きながら、彼は慈しむように私の頭を撫でた。その優しい手つきに、私はまた、どうしようもなくドキドキしてしまう。

やがて、彼がキッチンから運んできたのは、レストランで出てくるような豪華な料理だった。食後には、見たこともないような美しいケーキ。そして、小さな箱を、照れたように私に差し出した。
中に入っていたのは、繊細な銀のブレスレットだった。

「サイラス、こんな……。私、お菓子くらいしか持ってきてないのに」
「俺があげたいんだ」

手首につけられたブレスレットが、照明を反射してきらりと光る。
楽しすぎて、幸せすぎて、まるで夢を見ているようだった。これは「友人」に対するもてなしの域を、明らかに超えている。
その事実に気づかないふりをしながら、私はただ、この夢のような一日が、少しでも長く続くことだけを願っていた。
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