その「好き」はどこまで本気ですか?

沙夜

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恋人ごっこの夜

お礼のマッサージ

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夜が更け、時計の針が十一時を指す頃、サイラスが「そろそろシャワーでも浴びるか」と立ち上がった。

「あ、うん。私はこの画集、キリがいいところまで読みたいから、お先にどうぞ」

彼の家だから、というもっともらしい理由をつけて、私は彼に先を譲った。本当は、心の準備が少しだけ必要だったのだ。
しばらくして、バスルームから出てきた彼の姿に、私は思わず心臓を掴まれる。ラフなスウェットから覗く濡れた髪と、ふわりと香る石鹸の匂い。あまりにも無防備で、あまりにも生々しいその色気に、私は慌てて視線を画集に落とした。

私もシャワーを浴び、少しだけゆとりのあるルームウェアに着替えてリビングに戻ると、彼が温かいココアを淹れて待っていてくれた。
ソファに並んで座り、今日一日の出来事を、とりとめもなく話す。

「久しぶりに泳いだから、明日あたり筋肉痛かもな」
「あ、それなら」

今日の完璧な一日のお礼がしたい、とずっと思っていた。ブレスレットをくれた彼に、私からも何かを返したかった。

「私、マッサージ得意なんだけど、しようか? 今日のお礼に」
「え、いいのか?」
「うん。家族によくやってたから、結構自信あるんだ」

ソファではやりにくいだろう、と私たちは彼の寝室へ移動した。シンプルで、けれど上質なもので整えられた、彼の最もプライベートな空間。大きなベッドに、ごくりと喉が鳴る。

うつ伏せになった彼の背中に触れ、私はできるだけ「お礼」に集中しようと試みた。凝り固まった肩、鍛えられた腕。その筋肉の動きを確かめるように、丁寧に、真剣に、指を滑らせていく。
やがて、私のマッサージが終わると、彼は上半身を起こして、感嘆のため息をついた。

「すごいな、朱音。店が開けるレベルだ」
「それならよかった」

達成感と満足感に、私がほっと微笑んだ、その時だった。
サイラスがくるりとこちらを向き、私の手を取った。その真剣な瞳に、心臓が跳ねる。

「今度は、俺の番」

そう言うと、彼は私の腕を優しく引き、抵抗する間もなく、私はベッドの上へと倒れ込んでいた。見上げる先にいる彼の表情は、もう読み取ることができなかった。
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