その「好き」はどこまで本気ですか？

恋人ごっこの夜

息が触れる距離

彼の腕に導かれるまま、私はベッドにうつ伏せになった。心臓が早鐘を打っているのを悟られないように、顔を枕に半分埋めた。

マッサージは、肩から始まった。その心地よさに、私の身体から少しずつ力が抜けていく。けれど、彼の指が背中から腰、そして脚へと移動するにつれて、その手つきは私を試すような熱を帯びていった。
太ももの内側を、彼が親指でぐっと押した瞬間。

「んっ……」

自分でも意識しないうちに、甘い声が喉から漏れた。
私の身体が、意思とは裏腹に、小さく擦り寄るように動いてしまった。その瞬間、彼の指が、ぴたりと止まる。

静寂が、部屋を支配する。
やがて、サイラスの低い声が、私の名前を呼んだ。

「朱音。……こっちを、向いて」

その声には、逆らえなかった。
私はゆっくりと身体を反転させ、彼と向き合う。熱に浮かされたような、真剣な瞳が、私を射抜いていた。
彼の視線が、私の目から、唇へと、ゆっくりと落ちる。

「……いつも、避けるだろう」

呟くような、少しだけ傷ついたような声。
そうだ。私は、ずっと彼から逃げてきた。この一線を越えるのが怖くて、彼が眉を下げて残念そうにするのを見ないふりをしてきた。

サイラスが、ゆっくりと顔を近づけてくる。
いつもの私なら、きっとまた、顔を背けていたはずだ。
けれど、彼の指先が私の肌に残した熱が、欲望が、私の臆病な理性を麻痺させていく。私は逃げもせず、されるがままに、ただ、ぎゅっと目を閉じた。

唇に、柔らかく、温かいものが触れる。
最初は、確かめるような優しいキス。それが、私の身体から力が抜けたのを察した途端、少しずつ深くなっていく。角度を変え、私の唇を食むように、彼の舌が侵入してきた。
息の仕方も忘れて、私はただ、彼の初めて与える快感に翻弄されていた。

長い、長いキスが終わる。
どちらからともなく唇が離れ、私たちは、ぜいぜいと浅い呼吸を繰り返した。
目の前のサイラスは、今まで見たことがないくらい、雄の顔をしていた。

最後の一線は、もう、越えてしまった。
もう、後戻りはできない。