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第5章
85,エリザベートの憂鬱
しおりを挟むテーブルに腰掛けて俯き加減にチラチラとこちらを盗み見るようにしているのは、いつも騒がしいくらいに元気なエリザベートさんではないように感じてしまう。
彼女のこんな様子は初めて見る。
それでもとにかく話を聞かないことには進まないので何度目になるかわからないが促してみる。
「えっとぉ~、とにかく何があったか教えてくれないと力にもなれないですし……」
「……うん……あ、あのね!」
なんとか今回の促しで覚悟を決めたのか、重くなってなかなか開けなかったエリザベートさんの口が開く。
「あ……アル君を貸して欲しいの!」
「……はい?」
意を決したように口を開いたエルフさんの言葉に思考が一瞬停止して何を言ってるのかわからなくなってしまった。
アルを貸す? え? どゆこと?
隣に控えているアルに一旦視線を向けるとアルも固まっている。非常に珍しい。というか始めてみた。びっくりしてるアル。
もう1つのテーブルで砂ノートに何かを書いていたネーシャも顔をこちらに向けて目をぱちくりしている。
「ぇ、えっと……どういうことでしょう?」
「あ、あのね……私……」
また俯いてしまったエリザベートさんだが、今回は静かに待ってみる。
指を忙しなく合わせては離し、組んでは離している珍しい状態のエルフさんを辛抱強く待っていると、覚悟を決めなおしたのか顔をあげて続きを話し始めた。
「発端はね……おじいちゃんとの……ギルドマスターとの約束で……。
私が120歳を過ぎたら結婚するっていう約束をしていたの……」
ちょっと今何かよくわからない数字が出てきたけれど、それよりも結婚?
まぁ確かにエリザベートさんは美人で色々と有名人で仕事も出来る人だと思う。色々と残念なところもあるけど、彼女の噂なんかは悪いものはほとんどないってエイド君もいってたし。
そんなエリザベートさんなら浮いた話の1つもありそうなものだけど、やはりこの残念なロリコン趣味が邪魔をしているのは確かだ。
そんなエリザベートさんだから結婚どころか相手がいないというのもわかる。いたとしても結婚できないだろう。
この世界――ウイユベールの結婚可能年齢がいくつなのかは知らないけど、明らかに幼児の類とは無理だろう。
でもそんな悲壮な顔をするほどのものなのだろうか。エリザベートさんのおじいさんがギルドマスターなのはこの間知ったけど、それほど話したわけではないからよくわからない。
「それでね……今度お見合いというか、おじいちゃんがおまえに相応しい相手を連れてくるって……」
「お見合いですか」
「そうなの……いつもは逃げ回ってたんだけど……今回はおじいちゃんも本気らしくて……」
またもやしょんぼりと俯いてしまったエリザベートさん。
その肩からはもう逃げられない、という思いがひしひしと伝わってきている。
「それでアルを貸してくれということだったんですね」
「そう! そうなの! アル君にその時だけでいいから恋人のふりをしてもらっておじいちゃんと相手の人に諦めてもらうの!」
俯いていた顔が一転真剣な、だが縋りつくような必死な顔になり熱弁を振るう。
言いたいことはわかった。
ギルド職員も、おそらくギルドマスターもアルとエリザベートさんの仲は見知っているはず。喧嘩ばかりしているとはいえ、本当に嫌いなら無視するはずだ。
好きの反対は嫌いではなく無関心なのだから。
つまり浮いた話のないロリコンエルフであるエリザベートさんが喧嘩するほどの仲の男であるアルならば実はそういう仲であっても不思議ではない、と。
「なるほど。よくわかりました」
「じゃ、じゃあ!」
「決めるのは私じゃありません。確かにアルは私の従者ですけど、貸し借りするような存在じゃありません。だから直接交渉してくださいね?」
「うっ……はい……」
一瞬チラっとアルを一瞥するエリザベートさんだったが、またオレに視線を戻した後がっくりと項垂れるようにして返事を返してきた。
そこまでがっくりするようなことでもないと思うんだけどなぁ。
オレから見たら2人はかなり仲がいいと思うのに。
「あ、アル君!」
「お断りいたします」
「そんなーッ!」
「アルぅ~もうちょっと考えてあげようよ~」
「そ、そうだよ! 私とアル君の仲でしょ!?」
「そんな仲は存在しません」
「そんなぁー!」
あ、あれ……。思ってたよりもアルのエリザベートさんに対する評価ってものすごく低い?
ものすごいあっさりと断られてるし、二の句も継がせないレベルでのきっぱりようだよ……。
「わ、ワタリちゃぁぁあん」
テーブルを挟んでいるので抱きつかれることはないけれど、両手を伸ばして涙目のエルフさんは濁流で必死に助けを求める溺れた人のように今にも力尽きそうだ。
これはオレが助け舟を出さないとだめなパターンだろう。
でもアルは嫌だときっぱりいったし……。それを無理強いするのもどうかと思うし……。
「あ、アルぅ~。ほらアレだよ。えっとぅ~」
「なるほど、わかりました。さすがワタリさまにございます」
説得の言葉が見つからず苦笑いしながら言葉を濁していたらなんとアルは理解したようだ。さすがすぎる。
オレも自分で何をいってるのかわからなかったのに出来る執事とはこうも万能なのかと感心するしかない。
「ではエリザベート。私の条件を飲んでいただけるのであれば協力しましょう」
「じょ、条件って……?」
首を縮めて上目遣いでびくびくと覗き見るエリザベートさんに向かって、容赦のないアルの瞳が襲い掛かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、いつもの空く時間帯に冒険者ギルドを訪れると白くて大きい人が掲示板の前で依頼を物色していた。
もちろんレーネさんだ。でも今日は依頼を受けることができないだろう。なので謝っておかなければいけない。
「レーネさん、おはようございます」
「おはようございます、レーネさま」
「ぁ……ぉはようございます」
声を掛けると振り返ったレーネさんが小さな声だが確かに挨拶を返してくれる。
今日は鍛冶修行がお休みのネーシャとオレはそれに笑顔で返し、すぐに近寄るとPT編成を使ってPTを組み事情を説明する。
【――というわけで今日は依頼を受けることができそうにありません】
【なるほどわかりました。大変ですね、エリザベートさんもアルさんも。私でお手伝いできることがありましたら遠慮なく仰ってください】
【ありがとうございます、レーネさん。でも多分大丈夫だと思いますよ】
【そうなんですか?
……あ、あの……よかったら私もご一緒させてもらってもいいですか?】
【いいですけど……私達はそれなりに距離を置いて見守るだけですよ?】
【はい、ワタリさんが依頼を受けないのでしたら私も暇になってしまいますし、もしよかったら】
【じゃあ一緒に暇つぶしに覗きと洒落込みましょうか!】
【の、覗きは……その……覗きですけど……そ、その……】
【あはは。冗談ですよ~。とりあえずまだ時間ありますから、ちょっと適当にぶらついてきますかー】
【ぁ……はい! お供します!】
エリザベートさんとアルの恋人偽装作戦をこっそり見守ろう会にレーネさんも参加し、そのまま3人でギルドを出ると時間までの暇つぶしにウィンドウショッピングと洒落込むのだった。
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