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第7章
152,震……真なるチート
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アイギスの盾を装備したアルは今までも使っていた超一流の防御技術を余すことなく使っている。尚且つ防御技術の延長上にある攻撃であれば防御という判定が行われるらしいので、攻撃ができないアルでも魔物を死に至らしめることが出来る。
今までは相手の力を利用したり、反射したりして倒していたが、アイギスの盾の震爆も防御の延長であると判定されているために積極果敢に使えていたりする。
それでも完全に相手の出方待ちになってしまうのは防御特化のアルとしては変わらない。
しかし1度攻撃されれば攻撃が接触した時点で生身やその延長上にあるものなら位置を指定して爆破。
遠距離攻撃や魔法になると弾いたり反射したりする。
アイギスの盾を装備したアルは今や1番魔物を倒しているといっても過言ではない。
次いでレーネさん。最後にオレといった順だ。
その上探索に欠かせない重要な事も全部やってくれるし、アルに負担ばかりかかっている気がする。
それを本人に言ってみると労わってもらえるのが嬉しいと感激の涙を流す始末。
仕方ないので無理は絶対にしない事を約束させて続行させる事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
現在の到達階層は58階層。
あと2階層進むとボスの階層になるそうだ。
今回の相手は巨大な一つ目の巨人――ジャイアントグロッカスだ。
完全武装の一つ目巨人で、巨大な戦斧をもっている。
魔法に対する耐性が高く、装備している防具もフルプレートアーマーでかなり防御力も高い。
つまるところかなりの強敵。
……入手した情報ではそうなっている。
ただオレ達の場合、51階層の魔物も強敵という情報を入手して来ているのにハイキング気分である。
正直ボスもそうなるのではないかとちょっと不安だ。
……いや強すぎて進めないよりはマシだと思うけどね。
それにこのカトルゼは最高到達階層が98階層なのですでにそこは通った人がいる領域でもある。まぁだからこそそういう情報があるわけだが。
とにもかくにも恐らく順調なら明日くらいには60階層に到達するだろう。
もし本当に強敵だった場合に備えて作戦なんかを練りながら今日も襲ってくる魔物の進路上に魔法を設置したり、アルに爆破されたりしながら進んでいく。
ちなみにアイギスの盾の震爆がちょっと気になったのでオレも使わせてもらった事がある。
結論から言うとコレ無理。
まず使い方は至って簡単。接触部に対して念じるだけ。
しかし任意の位置を指定する場合極端に難易度が上昇する。
接触部に念じる場合は簡単なのだが、震爆によって引き起こされる爆発で自分が吹っ飛ぶ。
この爆発、思った以上に強力でとんでもない。
盾と魔物の接触部で爆発させると衝撃波で吹っ飛ばされてしまい後ろで待ち構えていたアルに見事キャッチされた。
……いや確かに爆発の衝撃はかなり大きいのでご注意ください、と言われたけどさ……。
そして接触部ではなく、任意の場所での震爆を試して見たのだが一向にうまくいかない。
何度吹っ飛ばされてアルにキャッチされたかわからない。
ちなみに震爆の爆発を喰らって生き残った魔物は1匹もいないし、複数来てもレーネさんが残りを片付けてくれるので何の問題もない。
器用の問題かと思ってスキルを変更して試してみたが多少マシになった程度で成功率は2割程度だった。
器用を70くらいに上げてコレである。
アルは一体どうやってコレを使いこなしているのだろうか。
というか器用70で2割の成功率って相当鬼畜な能力だと思う。
まぁ基本は盾なのだし、その性能も信じられないほど高いのだから仕方ないのだろう。
というわけで震爆を使いこなすのは早々に諦めてアルに返した。
改めてアルのすごさがわかる出来事だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
予定通り……とは行かなかったが3日後に60階層に到達した。
59階層で思いのほかはずれを引きまくったので時間がかかったが、それでも結構早い方だ。
何せ戦闘がほぼ一瞬で終わるのだから、赤いクリスタル探しをするだけといっても過言じゃない。
51階層から60階層までは所謂宝箱的なものはほとんどない。
あっても伸び放題成長し放題の草木に隠れて埋もれてしまうので見つかる気がしない。
アルもこういった財宝発見能力的なものは持っていないらしく、見つけられた宝箱的なものはたった1つだけだった。
ちなみに50階層以前の階層で発見した宝箱――卵状の宝玉みたいなもの――にはゴミしか入ってなかった。
具体的にはポーション類。ちょっとだけ市販品よりも高品質な程度だった。
ぶっちゃけオレ達は怪我なんてほとんどしないし、回復魔法もあるのでまったく必要ない。
それにポーション類は最高品質の物をアルが常備しているし。
出来れば回復系でもスタミナ回復ポーションが欲しかった。出てきたのは総合的な回復が行える体力回復系ばっかりだったけど。
スタミナ回復ポーションは王族の不文律を連発する際には必需品なのでいくらあってもいい。
市販品も数が多いとまではいえないのでなかなか溜まらない。
それでもラッシュの街で手に入る分は5割くらいはオレがかき集めているけど。
51階層以降での宝箱――卵状の宝玉――にはポーション類ではなく、宝石や武具が入っている事が多いそうだ。
見つけたやつにも入っていたのは宝石だった。
小さなサファイアみたいな宝石で原石だったので加工するともっと小さくなるだろう。
ぶっちゃけ大した値段にはならなさそう。
コレもネーシャの練習用になるだろう。
鍛冶神の御手を取得したネーシャは不思議空間で数年分の修行もしてきたので腕がすごい上がっている。
治癒の女神様に癒してもらえてトラウマも大分よくなったみたいで大きな声程度では普通に対応できるようにもなった。
まぁ今までも気をつけて怒鳴らないようにしてくれていたゴーシュさんは慣れもあってかネーシャには怒鳴らないけどね。
「さてアレが例の一つ目巨人か」
「情報通りの完全武装ですね。では作戦通りに接近前にワタリさんの魔法で先制攻撃ということでお願いします」
「了解でっす」
対ボス戦の必勝パターンは遠距離からの超火力によるごり押しである。
迷宮のボスというのは大抵距離が開いた状態からスタートとなる。
ダークシュナイダーのような非実体系は出現するまでダメージの通りが悪かったりするが、それ以外の実体を持つボスは普通に遠距離からの攻撃でダメージを受ける。まぁ当たり前だ。
だが大抵の場合オレの超長距離からの魔法攻撃ほどの射程を持ち合わせているものはいない。
ほとんどの場合オレほどの射程をもっている攻撃はダメージの期待が持てない。
必要とされるMPが距離を稼ぐ事に集中してしまうためにダメージ部分に割ける量が極端に少なくなってしまうからだ。
両立するには十分なMPを注ぎ込む必要性があり、そんなことをしてまで遠距離から魔法をぶつけるくらいなら通常の射程まで接近して戦った方が効率的だ。
まぁそれは一般的な話。
オレは到底そんな一般的な部類にはあてはまらないので遠距離超火力のごり押し戦法が使えてしまう。
今回もお誂え向きにボス――ジャイアントグロッカスとの距離は400mくらいは離れている。
オレの射程はすでに1kmくらいは余裕である。
もちろん王族の不文律併用時だが。
作り出されるのは過剰なまでのMPを注ぎ込まれた数十本の氷の螺旋槍。
凝縮された氷が高い密度で構築され、風魔法による爆発的な推進力を得て目標へと高速で進んでいく。
マッハには届かないがソレに近いほどの速度で進んでいく螺旋槍は着弾すれば分厚い鋼鉄の塊であるジャイアントグロッカスの装着するフルプレートアーマーすら貫通するだろう。
しかしジャイアントグロッカスは情報とはまったく違う動きを見せた。
ヤツは向かってくる氷の螺旋槍に巨大な――ジャイアントグロッカスの巨体を隠すほどの――カイトシールドを空中から出現させて構えたのだ。
それなりに集めた情報ではそんな盾を使ったということは1度もなかった。
ちょっと驚いて片眉をピクリ、と上げたが驚嘆すべきはソレではなかった。
この攻撃だけで殲滅するつもりだったほどのMPを注ぎ込んだ氷の螺旋槍数十本をそのカイトシールドでほとんど防ぎきったのだ。
もちろんカイトシールドはボロボロになり、幾本かは着弾した。
しかしカイトシールドにより阻まれ、減速させられた螺旋槍ではヤツの分厚い装甲を突破することは叶わなかったようだ。
着弾の衝撃で元居た位置からかなり後退させられた程度で済んでいる。
今回の攻撃を防ぎきったとはいえ、カイトシールドはすでにボロボロで用を成していない。
なのですぐさま第2波を射出。
しかし本当に驚愕すべきは次の瞬間に起こった。
またしても何もないところから先ほどと同じカイトシールドが出現したのだ。
しかも今回は全て完璧に防ぎきりやがった。
カイトシールドは1回目同様にボロボロだが、その奥にある本体に着弾した槍は1つもない。
ちょっとイラッとしたので続けざまに氷の螺旋槍を次々放ち、波状攻撃に移る。
距離があるので直線的になりがちな軌道を大量のMPにものをいわせて複雑怪奇な動作に変更して、1枚のカイトシールドだけでは防ぎきれないようにする。
防御範囲は正面だけ。アルのような超高等技術でもない限り、ほぼ同時に着弾するように調整した数百本の螺旋槍を回避することは難しい。
例え相手が分厚い装甲を纏っていても。
しかしまたしてもヤツは驚きの行動をしてきた。
カイトシールド1枚では防ぎきれないと判断したのか、空中から合計18枚ものカイトシールドを一気に出現させ……その全てを操って見せた。
確信した。
こいつは普通じゃない。
情報では盾なんて一切使わずそのとんでもない大きさの戦斧と分厚い装甲のフルプレートアーマーによる防御力だけで戦う魔物だった。
しかし今目の前でオレの数百本の螺旋槍を防ぎきったあいつは情報にない盾を使い、あまつさえ合計18枚にも及ぶソレらを見事に操ってみせた。
「……ワタリさん」
「えぇ……。どうやら気を引き締めないとダメみたいですね」
「はいっ」
レーネさんの瞳もすでに楽観ムードからは程遠い本気の瞳になっている。
オレもすでに本気も本気だ。
オレの螺旋槍をあれだけ受けて未だ生きているどころか、ほとんど負傷もしていない魔物など特殊進化個体でもいなかった。
最低でも魔結晶4つ持ち、もしかしたら8つ持ちクラスの実力があるのではないだろうか。
気を引き締めなおし、アイテムボックスを開いてスタミナ回復ポーションを使用する。
すでに王族の不文律は解除して通常戦闘――つまりは短期決戦ではなく中、長期的戦闘――を視野に入れた状態になっている。
複数のボロボロになったカイトシールドを轟音を響かせて投げ捨てたジャイアントグロッカスが巨体を揺らしながら近づいてくる。
どうやら重すぎる装甲により走れないようだ。だが攻撃速度まで遅いという話ではない。
まぁその情報自体もう意味を成していないと思われるが。
「行きます!」
先陣を切るのはレーネさん。
次いでアルがオレを守りながら続く。
中、長期戦時はMP量を考えて魔法を使わなければいけない。
初手で放ったような無尽蔵なMPにものをいわせたやり方は使えない。
先陣を切るレーネさんを追い越して飛来する氷の槍は速度、威力共に先ほどとは比べ物にならないが、それでも十分な火力を誇る。
それをカイトシールドではなく、分厚い装甲と巨大な戦斧で防ぐジャイアントグロッカス。
衝撃で後退させることはできないが、足は止まった。
そこに流れるようなレーネさんの斬撃が数度閃く。
瞬きの間に繰り出される攻撃は分厚い装甲をどんどん削っていく。
螺旋槍のダメージよりも圧倒的に装甲にダメージを与えているようにみえる。
これは魔法防御的な何かが高いことを意味している。
あの分厚い装甲は物理よりも魔法特化という情報はあっているらしい。
しかしレーネさんの数度の斬撃でも分厚い装甲を削り飛ばすことは叶わず、巨大な戦斧が真上から振り下ろされる。
唸りを上げて迫る戦斧だが、レーネさんは攻撃の手を緩めることはない。
なぜならすでにアルによるカバーが入っているからだ。
巨大な戦斧が振り下ろされ、全てを破壊せんとするがアルの防御技術の前にはどうということもなかった。
それどころか防御と共に発動した震爆が思わぬ威力を発揮してしまった。
パン、という風船が割れたような音が響く。
振り下ろされた巨大な戦斧はアルの防御技術の前に一切の音を上げることを許されなかったのでレーネさんの斬撃が刻む音と共に聞こえた。
「えぇ……?」
「……すごい」
大きく揺らいだ巨体が轟音と共にそのまま横倒しになるとその動きを止める。
なんとアルの震爆の一撃で倒してしまったようだ。
「アル、もしかして脳みそか心臓を破壊した?」
「答えは是。このアイギスの盾は驚異的な性能をもっています故」
いやいやいや、アイギスの盾の性能は疑う余地はないけど、実際にソレを扱えるかどうかが問題だと思う。
オレは10cmも先に震爆を起こすことすら出来なかったんだぞ?
それをジャイアントグロッカスの巨体の先――心臓の位置まで10mはある――にピンポイントで炸裂させるなんてどんな神業だよ。
しかもオレは知っている。
体内で何かしらの干渉を起こす事は殊更に難しい。それをあっさりと成し遂げてしまっているというのは驚嘆以上に奇跡としかいえないほどの技術だ。
しかもその直前に巨大な戦斧が振り下ろされるのを一切の音もなく吸収する防御技術を行使した上で、だ。
アイギスの盾という超性能な盾とアルというこれまた超優秀な子が合わさって初めて成し遂げられる事だろう。
だがしかし……それにしたってすごすぎだろう……コレは。
オレの超火力によるごり押しを完全に防ぎきるような相手をいともたやすく葬りさってしまったアルにはもう呆れるしかない。
オレも大概なチートだと思うけど……アルは最早ソレ以上だと確信した。
今までは相手の力を利用したり、反射したりして倒していたが、アイギスの盾の震爆も防御の延長であると判定されているために積極果敢に使えていたりする。
それでも完全に相手の出方待ちになってしまうのは防御特化のアルとしては変わらない。
しかし1度攻撃されれば攻撃が接触した時点で生身やその延長上にあるものなら位置を指定して爆破。
遠距離攻撃や魔法になると弾いたり反射したりする。
アイギスの盾を装備したアルは今や1番魔物を倒しているといっても過言ではない。
次いでレーネさん。最後にオレといった順だ。
その上探索に欠かせない重要な事も全部やってくれるし、アルに負担ばかりかかっている気がする。
それを本人に言ってみると労わってもらえるのが嬉しいと感激の涙を流す始末。
仕方ないので無理は絶対にしない事を約束させて続行させる事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
現在の到達階層は58階層。
あと2階層進むとボスの階層になるそうだ。
今回の相手は巨大な一つ目の巨人――ジャイアントグロッカスだ。
完全武装の一つ目巨人で、巨大な戦斧をもっている。
魔法に対する耐性が高く、装備している防具もフルプレートアーマーでかなり防御力も高い。
つまるところかなりの強敵。
……入手した情報ではそうなっている。
ただオレ達の場合、51階層の魔物も強敵という情報を入手して来ているのにハイキング気分である。
正直ボスもそうなるのではないかとちょっと不安だ。
……いや強すぎて進めないよりはマシだと思うけどね。
それにこのカトルゼは最高到達階層が98階層なのですでにそこは通った人がいる領域でもある。まぁだからこそそういう情報があるわけだが。
とにもかくにも恐らく順調なら明日くらいには60階層に到達するだろう。
もし本当に強敵だった場合に備えて作戦なんかを練りながら今日も襲ってくる魔物の進路上に魔法を設置したり、アルに爆破されたりしながら進んでいく。
ちなみにアイギスの盾の震爆がちょっと気になったのでオレも使わせてもらった事がある。
結論から言うとコレ無理。
まず使い方は至って簡単。接触部に対して念じるだけ。
しかし任意の位置を指定する場合極端に難易度が上昇する。
接触部に念じる場合は簡単なのだが、震爆によって引き起こされる爆発で自分が吹っ飛ぶ。
この爆発、思った以上に強力でとんでもない。
盾と魔物の接触部で爆発させると衝撃波で吹っ飛ばされてしまい後ろで待ち構えていたアルに見事キャッチされた。
……いや確かに爆発の衝撃はかなり大きいのでご注意ください、と言われたけどさ……。
そして接触部ではなく、任意の場所での震爆を試して見たのだが一向にうまくいかない。
何度吹っ飛ばされてアルにキャッチされたかわからない。
ちなみに震爆の爆発を喰らって生き残った魔物は1匹もいないし、複数来てもレーネさんが残りを片付けてくれるので何の問題もない。
器用の問題かと思ってスキルを変更して試してみたが多少マシになった程度で成功率は2割程度だった。
器用を70くらいに上げてコレである。
アルは一体どうやってコレを使いこなしているのだろうか。
というか器用70で2割の成功率って相当鬼畜な能力だと思う。
まぁ基本は盾なのだし、その性能も信じられないほど高いのだから仕方ないのだろう。
というわけで震爆を使いこなすのは早々に諦めてアルに返した。
改めてアルのすごさがわかる出来事だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
予定通り……とは行かなかったが3日後に60階層に到達した。
59階層で思いのほかはずれを引きまくったので時間がかかったが、それでも結構早い方だ。
何せ戦闘がほぼ一瞬で終わるのだから、赤いクリスタル探しをするだけといっても過言じゃない。
51階層から60階層までは所謂宝箱的なものはほとんどない。
あっても伸び放題成長し放題の草木に隠れて埋もれてしまうので見つかる気がしない。
アルもこういった財宝発見能力的なものは持っていないらしく、見つけられた宝箱的なものはたった1つだけだった。
ちなみに50階層以前の階層で発見した宝箱――卵状の宝玉みたいなもの――にはゴミしか入ってなかった。
具体的にはポーション類。ちょっとだけ市販品よりも高品質な程度だった。
ぶっちゃけオレ達は怪我なんてほとんどしないし、回復魔法もあるのでまったく必要ない。
それにポーション類は最高品質の物をアルが常備しているし。
出来れば回復系でもスタミナ回復ポーションが欲しかった。出てきたのは総合的な回復が行える体力回復系ばっかりだったけど。
スタミナ回復ポーションは王族の不文律を連発する際には必需品なのでいくらあってもいい。
市販品も数が多いとまではいえないのでなかなか溜まらない。
それでもラッシュの街で手に入る分は5割くらいはオレがかき集めているけど。
51階層以降での宝箱――卵状の宝玉――にはポーション類ではなく、宝石や武具が入っている事が多いそうだ。
見つけたやつにも入っていたのは宝石だった。
小さなサファイアみたいな宝石で原石だったので加工するともっと小さくなるだろう。
ぶっちゃけ大した値段にはならなさそう。
コレもネーシャの練習用になるだろう。
鍛冶神の御手を取得したネーシャは不思議空間で数年分の修行もしてきたので腕がすごい上がっている。
治癒の女神様に癒してもらえてトラウマも大分よくなったみたいで大きな声程度では普通に対応できるようにもなった。
まぁ今までも気をつけて怒鳴らないようにしてくれていたゴーシュさんは慣れもあってかネーシャには怒鳴らないけどね。
「さてアレが例の一つ目巨人か」
「情報通りの完全武装ですね。では作戦通りに接近前にワタリさんの魔法で先制攻撃ということでお願いします」
「了解でっす」
対ボス戦の必勝パターンは遠距離からの超火力によるごり押しである。
迷宮のボスというのは大抵距離が開いた状態からスタートとなる。
ダークシュナイダーのような非実体系は出現するまでダメージの通りが悪かったりするが、それ以外の実体を持つボスは普通に遠距離からの攻撃でダメージを受ける。まぁ当たり前だ。
だが大抵の場合オレの超長距離からの魔法攻撃ほどの射程を持ち合わせているものはいない。
ほとんどの場合オレほどの射程をもっている攻撃はダメージの期待が持てない。
必要とされるMPが距離を稼ぐ事に集中してしまうためにダメージ部分に割ける量が極端に少なくなってしまうからだ。
両立するには十分なMPを注ぎ込む必要性があり、そんなことをしてまで遠距離から魔法をぶつけるくらいなら通常の射程まで接近して戦った方が効率的だ。
まぁそれは一般的な話。
オレは到底そんな一般的な部類にはあてはまらないので遠距離超火力のごり押し戦法が使えてしまう。
今回もお誂え向きにボス――ジャイアントグロッカスとの距離は400mくらいは離れている。
オレの射程はすでに1kmくらいは余裕である。
もちろん王族の不文律併用時だが。
作り出されるのは過剰なまでのMPを注ぎ込まれた数十本の氷の螺旋槍。
凝縮された氷が高い密度で構築され、風魔法による爆発的な推進力を得て目標へと高速で進んでいく。
マッハには届かないがソレに近いほどの速度で進んでいく螺旋槍は着弾すれば分厚い鋼鉄の塊であるジャイアントグロッカスの装着するフルプレートアーマーすら貫通するだろう。
しかしジャイアントグロッカスは情報とはまったく違う動きを見せた。
ヤツは向かってくる氷の螺旋槍に巨大な――ジャイアントグロッカスの巨体を隠すほどの――カイトシールドを空中から出現させて構えたのだ。
それなりに集めた情報ではそんな盾を使ったということは1度もなかった。
ちょっと驚いて片眉をピクリ、と上げたが驚嘆すべきはソレではなかった。
この攻撃だけで殲滅するつもりだったほどのMPを注ぎ込んだ氷の螺旋槍数十本をそのカイトシールドでほとんど防ぎきったのだ。
もちろんカイトシールドはボロボロになり、幾本かは着弾した。
しかしカイトシールドにより阻まれ、減速させられた螺旋槍ではヤツの分厚い装甲を突破することは叶わなかったようだ。
着弾の衝撃で元居た位置からかなり後退させられた程度で済んでいる。
今回の攻撃を防ぎきったとはいえ、カイトシールドはすでにボロボロで用を成していない。
なのですぐさま第2波を射出。
しかし本当に驚愕すべきは次の瞬間に起こった。
またしても何もないところから先ほどと同じカイトシールドが出現したのだ。
しかも今回は全て完璧に防ぎきりやがった。
カイトシールドは1回目同様にボロボロだが、その奥にある本体に着弾した槍は1つもない。
ちょっとイラッとしたので続けざまに氷の螺旋槍を次々放ち、波状攻撃に移る。
距離があるので直線的になりがちな軌道を大量のMPにものをいわせて複雑怪奇な動作に変更して、1枚のカイトシールドだけでは防ぎきれないようにする。
防御範囲は正面だけ。アルのような超高等技術でもない限り、ほぼ同時に着弾するように調整した数百本の螺旋槍を回避することは難しい。
例え相手が分厚い装甲を纏っていても。
しかしまたしてもヤツは驚きの行動をしてきた。
カイトシールド1枚では防ぎきれないと判断したのか、空中から合計18枚ものカイトシールドを一気に出現させ……その全てを操って見せた。
確信した。
こいつは普通じゃない。
情報では盾なんて一切使わずそのとんでもない大きさの戦斧と分厚い装甲のフルプレートアーマーによる防御力だけで戦う魔物だった。
しかし今目の前でオレの数百本の螺旋槍を防ぎきったあいつは情報にない盾を使い、あまつさえ合計18枚にも及ぶソレらを見事に操ってみせた。
「……ワタリさん」
「えぇ……。どうやら気を引き締めないとダメみたいですね」
「はいっ」
レーネさんの瞳もすでに楽観ムードからは程遠い本気の瞳になっている。
オレもすでに本気も本気だ。
オレの螺旋槍をあれだけ受けて未だ生きているどころか、ほとんど負傷もしていない魔物など特殊進化個体でもいなかった。
最低でも魔結晶4つ持ち、もしかしたら8つ持ちクラスの実力があるのではないだろうか。
気を引き締めなおし、アイテムボックスを開いてスタミナ回復ポーションを使用する。
すでに王族の不文律は解除して通常戦闘――つまりは短期決戦ではなく中、長期的戦闘――を視野に入れた状態になっている。
複数のボロボロになったカイトシールドを轟音を響かせて投げ捨てたジャイアントグロッカスが巨体を揺らしながら近づいてくる。
どうやら重すぎる装甲により走れないようだ。だが攻撃速度まで遅いという話ではない。
まぁその情報自体もう意味を成していないと思われるが。
「行きます!」
先陣を切るのはレーネさん。
次いでアルがオレを守りながら続く。
中、長期戦時はMP量を考えて魔法を使わなければいけない。
初手で放ったような無尽蔵なMPにものをいわせたやり方は使えない。
先陣を切るレーネさんを追い越して飛来する氷の槍は速度、威力共に先ほどとは比べ物にならないが、それでも十分な火力を誇る。
それをカイトシールドではなく、分厚い装甲と巨大な戦斧で防ぐジャイアントグロッカス。
衝撃で後退させることはできないが、足は止まった。
そこに流れるようなレーネさんの斬撃が数度閃く。
瞬きの間に繰り出される攻撃は分厚い装甲をどんどん削っていく。
螺旋槍のダメージよりも圧倒的に装甲にダメージを与えているようにみえる。
これは魔法防御的な何かが高いことを意味している。
あの分厚い装甲は物理よりも魔法特化という情報はあっているらしい。
しかしレーネさんの数度の斬撃でも分厚い装甲を削り飛ばすことは叶わず、巨大な戦斧が真上から振り下ろされる。
唸りを上げて迫る戦斧だが、レーネさんは攻撃の手を緩めることはない。
なぜならすでにアルによるカバーが入っているからだ。
巨大な戦斧が振り下ろされ、全てを破壊せんとするがアルの防御技術の前にはどうということもなかった。
それどころか防御と共に発動した震爆が思わぬ威力を発揮してしまった。
パン、という風船が割れたような音が響く。
振り下ろされた巨大な戦斧はアルの防御技術の前に一切の音を上げることを許されなかったのでレーネさんの斬撃が刻む音と共に聞こえた。
「えぇ……?」
「……すごい」
大きく揺らいだ巨体が轟音と共にそのまま横倒しになるとその動きを止める。
なんとアルの震爆の一撃で倒してしまったようだ。
「アル、もしかして脳みそか心臓を破壊した?」
「答えは是。このアイギスの盾は驚異的な性能をもっています故」
いやいやいや、アイギスの盾の性能は疑う余地はないけど、実際にソレを扱えるかどうかが問題だと思う。
オレは10cmも先に震爆を起こすことすら出来なかったんだぞ?
それをジャイアントグロッカスの巨体の先――心臓の位置まで10mはある――にピンポイントで炸裂させるなんてどんな神業だよ。
しかもオレは知っている。
体内で何かしらの干渉を起こす事は殊更に難しい。それをあっさりと成し遂げてしまっているというのは驚嘆以上に奇跡としかいえないほどの技術だ。
しかもその直前に巨大な戦斧が振り下ろされるのを一切の音もなく吸収する防御技術を行使した上で、だ。
アイギスの盾という超性能な盾とアルというこれまた超優秀な子が合わさって初めて成し遂げられる事だろう。
だがしかし……それにしたってすごすぎだろう……コレは。
オレの超火力によるごり押しを完全に防ぎきるような相手をいともたやすく葬りさってしまったアルにはもう呆れるしかない。
オレも大概なチートだと思うけど……アルは最早ソレ以上だと確信した。
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