理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜

文字の大きさ
2 / 9

美しかった思い出にさようなら

しおりを挟む
サイレーンとは王立学園で出会い、恋愛の末に結婚までたどり着いて4年が経過していた。最初の2年こそは仲睦まじい夫婦だったが、後の2年は夜のそういった行為はもちろん、サイレーンの態度がそっけなく、一度外に出ると夜遅くまで帰らないので屋敷内でも話す機会も合う機会も減ったのが大きな理由で関係は冷え切っていた。



サイレーンは明るく人見知りをせず、いつも周りは人であふれかえっていた。



地味で目立たない私のこともよく気にかけてくれて、気の良いサイレーンに惹かれていつのまにか彼しか見えなくなるくらい好きになっていた。



サイレーンの好みの華奢で弱弱しい女の子というものを勉強するために、少女向けの小説を読み込み、おとぎ話のお姫様のように砂糖水の中に砂糖菓子を混ぜ込んだような恰好を無理して笑う日々。



苦しかったけれど、サイレーンが「可愛いよ」と言葉を投げかけ、興味を持ってくれる度に私の中の寂しいと思う心が空のコップに水が注がれるように満たされた。



サイレーンは入り婿なので私の家でもあるフォンティーヌの家を継いでいるが、当主としてまだまだこなせない仕事も多いので彼にバレないようにほとんどの実務は私がこなしていた。サイレーンのことを思うと全てが頑張れた。



そのせいで会える機会は減って、彼と過ごす時間も無くなっていったけれど彼と笑いあって幸せに暮らせるのならそれでいいと思っていた。



もう2年は共に過ごしていない夜。私がいない間に親友と乳繰り合って、仕事している間によろしくやっていたのかと思うと私の努力は全て水の泡だったのだと思い知らされた。



※※※



一縷の望みをかけて、いつも以上に気合をいれて腰まで伸びたプラチナブロンドの髪を巻いてふたつに結んだ髪の毛が首筋に触れて擽ったい。



フリルとレースがふんだんにあしらわれた少女趣味のようなドレスとアクセサリーを全て剥いでのうのうと許しを請い、また新しい生活を手に入れようとしている2人に向けて投げつけてやりたい。



ユエルとは会おうとしても体調が悪いと断られてばかりで、見舞いに行こうとしても風邪がうつるといけないからと断られたのはお腹の赤ちゃんのことを隠す為だったのかと思うと、最初から裏切る気が満々だったのがわかって、沸騰したお湯のように腹のそこから怒りがこみ上げた。



初めてできた友達。恋人にして夫。大事にしたかった。嫌われたくなかったからこそ自分じゃない自分を演じて付き合ってきた。



それももう無駄なら我慢しなくていいよね。



ふぅ、と今までの思い出を捨てるように息を吐いて、新しい空気を肺に満たすように空気を吸い上げた。



弱みを見せたらこの人たちは骨の髄までしゃぶりつくそうとする。自己中心で物事を考えられないのなら、私も遠慮する必要がない。



――千年の恋も、友情も冷め切った。



ベルを鳴らしてフォンティーヌ家を二代渡って支えてくれている執事長と自慢の騎士隊を呼び寄せた。



「サイレーン様、いえ、サイレーン。あなたとは今日をもって離婚するわ。慰謝料は請求したいところだけど、あなたの家は裕福ではないし、その子を育てるためには何かと入り用でしょう?最後の情けとして、養育費代わりにあなたの趣味に合わせて買ったこのアクセサリーをあげる。こんなもの、私の黒歴史でしかないから……!!だから、二度と家の敷居を跨がないで!」



怒りを表現せんばかりの、喉からちぎれるほど声を張り上げるとフォンティーヌ家に忠誠を誓ってくれていた騎士たちが鬼の形相でサイレーンのスーツの首根っこを摘まみ上げる。



私は二人に向かってドレスに合うために誂えたルビーのクマモチーフのイヤリングとペンダント、腕輪とダイヤモンドの結婚指輪を乱暴に取り外して投げつける。



ユエルは鳩が豆鉄砲を食ったよう顔で私を見つめていると、両脇を抱えられ騎士たちによって屋敷から追い出された。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幸せな人生を送りたいなんて贅沢は言いませんわ。ただゆっくりお昼寝くらいは自由にしたいわね

りりん
恋愛
皇帝陛下に婚約破棄された侯爵令嬢ユーリアは、その後形ばかりの側妃として召し上げられた。公務の出来ない皇妃の代わりに公務を行うだけの為に。 皇帝に愛される事もなく、話す事すらなく、寝る時間も削ってただ公務だけを熟す日々。 そしてユーリアは、たった一人執務室の中で儚くなった。 もし生まれ変われるなら、お昼寝くらいは自由に出来るものに生まれ変わりたい。そう願いながら

侯爵様と婚約したと自慢する幼馴染にうんざりしていたら、幸せが舞い込んできた。

和泉鷹央
恋愛
「私、ロアン侯爵様と婚約したのよ。貴方のような無能で下賤な女にはこんな良縁来ないわよね、残念ー!」  同じ十七歳。もう、結婚をしていい年齢だった。  幼馴染のユーリアはそう言ってアグネスのことを蔑み、憐れみを込めた目で見下して自分の婚約を報告してきた。  外見の良さにプロポーションの対比も、それぞれの実家の爵位も天と地ほどの差があってユーリアには、いくつもの高得点が挙げられる。  しかし、中身の汚さ、性格の悪さときたらそれは正反対になるかもしれない。  人間、似た物同士が夫婦になるという。   その通り、ユーリアとオランは似た物同士だった。その家族や親せきも。  ただ一つ違うところといえば、彼の従兄弟になるレスターは外見よりも中身を愛する人だったということだ。  そして、外見にばかりこだわるユーリアたちは転落人生を迎えることになる。  一方、アグネスにはレスターとの婚約という幸せが舞い込んでくるのだった。  他の投稿サイトにも掲載しています。

幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい

和泉鷹央
恋愛
 王国でも指折りの名家の跡取り息子にして、高名な剣士がコンスタンスの幼馴染であり許嫁。  そんな彼は数代前に没落した実家にはなかなか戻らず、地元では遊び人として名高くてコンスタンスを困らせていた。 「クレイ様はまたお戻りにならないのですか……」 「ごめんなさいね、コンスタンス。クレイが結婚の時期を遅くさせてしまって」 「いいえおば様。でも、クレイ様……他に好きな方がおられるようですが?」 「えっ……!?」 「どうやら、色町で有名な踊り子と恋をしているようなんです」  しかし、彼はそんな噂はあり得ないと叫び、相手の男勝りな踊り子も否定する。  でも、コンスタンスは見てしまった。  朝方、二人が仲睦まじくホテルから出てくる姿を……  他の投稿サイトにも掲載しています。

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さくら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

処理中です...