理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜

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前後する告白

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手紙が来た次の日、朝食を取りに来るとユーゴーは食後のコーヒーを片手に新聞を読んでいた。



それ、私が頼んでいた王国新聞紙なんだけど。



目で訴えていると「細かいことは気にするな」と言いたげに息でコーヒーの湯気を揺らした。



「あなた、ここにいつまでいるつもり?もうすぐ一ヶ月だけど、仕事は大丈夫なの?」

「ご心配どうも。俺の部下は優秀だから、一ヶ月くらいなら俺がいなくても問題なく事業を回せるさ。それより、リリエル」

ユーゴーはコーヒーをおいて私に向き直る。いつになく真剣な眼差しが気になってつい私も背筋をしゃんと伸ばした。



意地悪ではなく、まっすぐと私を見据える時は決まってシリアスな話であることが多いから。



「単刀直入に言う。俺はおまえのことを愛している」

「本当にストレートだね。……でも、それはちょっと信じられない、かな」



ユーゴーとは軽口を叩き合えるくらいに気を許している仲だ。だからこそ、悪口を言い合っても、喧嘩をしても仲を保っていられる。



サイレーンが嫌がるから連絡を取ることを辞めた時、こうして会いに来てくれるとは思わなかったけど。離婚の話を聞いて、心配してくれて勇気づけるために一緒にいてくれたというのは本当にありがたいと思った。



余計なことを考えずに休暇を過ごせたし、学園時代の楽しい時間を思い出せた。



けれど、今の私は愛というものがわからなかった。



愛とは与えるものだと誰かが言った。



サイレーンのことを愛していたし、彼が入り婿として馬鹿にされないように、侯爵の名に恥じないように影で私なりに支えてきた。



彼が大人びた女性は生意気だから嫌いだといったので、小動物のような可愛らしい恰好と見た目を目指した。



少しむず痒かったけれど、私なりに彼に尽くしてきたつもりが、裏切りで私に返した。



彼は私と同じ気持ちだと信じていた。



愛に見返りを求めるものではないけど、期待して裏切られた時。私は愛というものを信じられなくなってきた。



だからこそ、目の前でユーゴーが「愛している」と口にしても、申し訳ないが信用することができなかった。



「過ごした時間は楽しかったし、あなたのことは好きだけれど、それは異性としてかといわれるとわからないし。そもそも私、離婚したばかりなのよ。今すぐあなたの告白の返事をするのは難しいわ」



傷つけないように、けれど本当のことだけを伝えた。すると、ユーゴーは唇を不安そうに緩ませた。しかし、グレーの瞳は肉食獣が獲物を捕らえるように、私を視線で釘付けにした。



「”今すぐ告白の返事をするのは難しい”ということは、考える余地はあるんだな。なら、今はそれでいい。嫌になるまででいい。少しだけ、俺の気持ちを伝える猶予をくれないか」



こんな、押しが強かったっけ。

私の計算だとここで遠慮して断ってくれてもいいのに、食い下がるユーゴー。申し出を断れば数少ない友達がまた1人いなくなる。ひんやりとした寂寞の空気が不安を掻き立てる。



友人と嫌な雰囲気になりたくなくて、気が付けば何回も私は首を縦に振っていた。



笑みは崩れなかったが、ユーゴーは安心したように肩を落とした。
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