24 / 74
選手交代
しおりを挟む「……強さは?」
「今はSランクほどですが、どんどん力を増しています。いずれはSSランクにも到達するでしょう」
「……そうか」
リゼットの見立てを聞いて、自然と笑みが溢れる。
(――これ、ダメなやつだわ)
俺はBランクだぞ、無理に決まってる。
さっきは相手がAランクで最低限の実力差、油断とドン引きで勝つことができたが、SSランクは無理だ。
そもそも、人間形態ですら再現性ゼロ。
再戦すれば、俺は間違いなく地面にめり込んで骨になってる。
既にスキルの効果は切れてしまっているし、もう一度発動させようとしても、その前に瞬殺されて終わり。
つまり、俺にできることはないわけだ。
……と、なると。
「――俺を指名してくれたのに申し訳ないんだが、今日のシフトはもう終わったんだ」
「……なにを言っている?」
「適材適所って知ってるか?」
俺は声を張った。腹の奥にまだ鈍痛はあるが、リゼットの回復がしっかり効いている。いくらかマシだ。呼吸も、重心も安定してきた。
「適した材を適して所するんだよ! 要するに、お前の相手は俺じゃないってことだ!」
リゼットに視線を向けると、彼女はすぐに頷いた。全く恐れていない。
「今度こそ、確実に始末してみせます」
「うん、頼む」
そして、振り返ってラグナルに向ける。
「ラグナル、俺たちは下がるから、サポートを頼んでもいいか?」
「もぉちろんですともッ!」
ラグナルは地響きを立てるような音で胸を叩き、大地ごと揺るがす勢いで叫んだ。
「団長、レオンさん、イーリスさん、それにセラさん。皆さんの安全は、このラグナルが必ず――」
「――マスター」
その勢いを断ち切るように、透き通った声が届いた。
セラだった。
「私にも、戦わせてくれる?」
「セラも……って、大丈夫なのか?」
そう答えてしまった。
彼女がやる気なのは良いことだが、俺が見ている前では――そう思っていたが、セラの纏っている空気が普段と違う。
いつも甘えた調子で笑っていた彼女ではない。
俺に向ける視線すら、鋼のようにまっすぐだった。
「うん、今なら大丈夫」
その表情に、不思議と不安は感じなかった。
むしろ、どこか頼もしさすらあった。
「……わかった。頼んだ」
「ありがとう」
その言葉と共に、セラは静かに剣を抜いた。
細身の剣だが、その動きには一切の無駄がなかった。
ひゅ、と空気を裂く音。
彼女は俺から視線を外し、ソレの方をまっすぐに睨み据える。
月光が彼女の背に流れ、跳ねるように揺れるポニーテールが弧を描いた。
「――絶対に、あいつを殺すから」
セラが呟いた。背筋に冷たい何かが走る。
彼女の声があまりに静かだったからだ。
怒っているわけではなかった。叫んでいたわけでもなかった。
その声音は、まるで誓いのようだった。
「……へ?」
俺は思わず聞き返していた。
そんな風にセラが言ったことなんて、今まで一度もなかったからだ。
そして――リゼットは、ゆっくりと歩き出した。
「――フム。それなら、君を殺すのは最後にしよう。他の全員を殺した後に、泣き叫ぶ姿を見ながら、細かく刻んであげるよ」
残酷さを孕んだ声。
ソレの身体から、どろりとした音と共に黒い影が流れ出す。
液体に見えたそれらは、次の瞬間、意志を持ったようにうねり、宙に突き出された。
触手。いや、単なる触手ではない。
鋭く尖った槍のようなものが雨のように空を覆い、二人へと一斉に襲いかかる。
だが、リゼットは動じない。
スカートの裾がふわりと舞い上がり、優雅な舞踏のように回転する。
いくつもの影の槍がリゼットの周囲を通り過ぎ、一本たりとも彼女の身体に触れることはなかった。
メイドが来客に礼をするように、腰をわずかに折って回避するその姿には「余裕」があった。
一方で、セラは一歩一歩、進み続けている。
彼女が剣を振るうたび、俺の目では手元の動きを追うことが不可能になり、セラの身体を的確に狙っている槍が粉々に砕け散る。
攻撃による防御。
これが、二人の本来の力なのか。
「どうしてセラは……」
答えを求めていたわけではないが、口をついて出た疑問にラグナルが反応する。
「……おそらくセラさんは、夢中になっているのです」
「夢中?」
俺が眉を寄せると、ラグナルは静かに頷いた。
「はい。団長を傷つけた不届きものを始末するという目的。ただそれだけを遂行するために、他の全てを排除している」
かなり恐ろしいこと聞いてしまった。
「……まぁ、それはメイド長も、そして私も同じことですが」
ラグナルの言葉は、まるで冗談のように穏やかだった。
だが、その背中から立ちのぼる気配は、冗談とはほど遠いものだ。
「団長。私は脳筋だという自信がありますが……」
ラグナルはちらりと俺に視線を向ける。
「これでも、今はかなり自分を抑えているのです」
その言葉に、俺は一瞬言葉を失う。
彼の目は笑っていない。かと思えば、ふっと柔らかく微笑んで、こう続ける。
「……しかし、私の出番は来ないでしょう。二人が失敗するようには思えませんから」
聞いて、戦っている二人へと視線を戻す。
リゼットが舞い、セラが進む。
ふたりの動きは対照的でありながら、共に極まっている。
23
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる