趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚

文字の大きさ
28 / 74

悪い考え

しおりを挟む

 ノランさんとのやり取りから、さらに数日。
 猫――もとい、ヒーリングゴーレムが机の上で丸くなって寝ていて、俺も特にやることがなかったので、お茶を淹れて、ぼんやりと空を見ていた。
 そんな中――事件は、何の前触れもなく始まった。

「団長ッ!」

 扉が思いっきり開かれて、ラグナルの雄叫びと共に、何か大荷物を持った影が入ってくる。

「レオンさんとイーリスさんのギルド加入、誠にッ! おめでとうございますッ!」

 両手いっぱいに持っていたのは、花束と――なんか、謎に重そうな酒樽。

「こ、こんな大層に……恐れ多いです」

 ラグナルの勢いに押され気味に、後ろからレオンが現れる。

「……何持ってるの?」
「お祝いですともッ! 団長の回復祝いでもありますッ!」

 まだ痛いけどね。
 止める間もなく、テーブルの上で勝手にパーティー準備が始まる。
 それに釣られたのかセラもやってきた。
 すぐ後に、イーリスも。

「シンさん見てください、お菓子焼いてみました!」

 イーリスが照れながら、真っ白なエプロン姿でキッチンから現れる。

「わっ、いい匂い……!」

 セラの目が輝き、どこからともなくリゼットが現れる。

「これは……シン様の胃袋を狙った策略ですか?」
「ち、ちがっ……! で、でも胃袋は狙ってるかも……」

 焦るイーリス。だが、セラの目は獣のように鋭くなる。

「イーリス、いいですか? シン様の栄養管理は私の専売特許です!」
「そんなことないです」

 俺が言葉を差し込むと、リゼットが勢いよくこちらを見た。目が怖いです。
 リゼットが軽く咳払いをして、場の空気を整える。

「とてもいい香りですが……使用した食材、衛生管理、調理環境、確認してもよろしいですか?」
「も、もちろんですっ!」

 イーリスは慌てて背筋を伸ばし、手を拭く仕草をした。

「リゼット、そんなに本気で審査しなくても……」

 俺が小声で突っ込むと、リゼットはちらりとこちらを見た。

「シン様の口に入るものです。厳しくして当然でしょう?」
「えぇ……」

 セラはすでに椅子を引いてテーブルに座っていた。
 俺はクッキーをじっと見つめ、リゼットにバレないように手を伸ばそうとしたその瞬間――。

「――まだです」

 リゼットの一言で、ぴたりと手が止まる。

「私が味見します」

 リゼットがクッキーを取り上げ、慎重にひと口。数秒の静寂。

「……問題ありません。美味しいです」
「本当ですか!?」

 イーリスが嬉しそうに微笑み、セラもすかさずクッキーにかぶりついた。

「んっ……おいしい!」

 その笑顔につられるように、俺も一枚つまみ、口に入れる。

「うん、普通に美味しいな」

「……普通?」

 イーリスの眉がぴくりと動いた気がしたけど、俺の気のせいだと思いたい。

「団長ッ! これは茶が欲しくなる味ですねッ!」

 ラグナルがすかさず自前のティーポットを持ち出して、お湯を沸かそうとする。

「まぁ待て……ラグナルよ。持ってきてくれた酒があるだろう?」

 俺が言うと、ラグナルの眉が跳ね上がる。

「団長……まさか、今この昼下がりにッ!?」
「……飲もうとしたのお前だろ。お茶を淹れる前に思い出したんだよ」
「むぅ、それもそうでしたッ!」

 ラグナルは気を取り直すと、ドン、と樽をテーブルの横に置いた。
 中身が微かに揺れて、かすかに芳醇な香りが広がる。

「かの東方の山岳地帯で取れる香烈葡萄から作られた逸品ッ! 深いコクと芳香、そして燃えるような後味が――」
「ラグナルさん、それ飲み比べして確認したんですか?」

 イーリスがやんわりと首をかしげて尋ねると、ラグナルは誇らしげに鼻を鳴らした。

「店のものを全て飲み、一番良さそうなものを買ってきましたッ!」

 だからいつも以上に上機嫌なのか。
 むしろお前が飲みたかっただけだろ。
 思っているた、セラがふとこちらを見て、小さく口を開いた。

「マスター、お酒飲めるの?」
「たしなむ程度にな」
「そうなんだ! マスターと一緒に飲めるなんてうれしいな!」
 
 彼女は俺の隣にちょこんと座った。
 その仕草が妙に自然で、距離が近い。
 肩がちょっと触れてるんだけど。
 そんな俺の戸惑いをよそに、リゼットが静かにグラスを用意していき、ラグナルはすでに酒を注ぎ始めていた。

「ふっ……乾杯の音頭、よろしいでしょうか団長ッ!」
「なんの乾杯だよ」
「新たな仲間に、ですともッ!」
「……そうだな」

 俺はグラスを取り上げて、兄妹の方を向いた。

「……レオン、イーリス。改めて、ようこそ《白灯》へ」

 俺の言葉に、レオンが静かに頷き、イーリスは柔らかく笑う。


 ――彼らが正式にギルドに加わったのは、数日前のことだった。
 あの戦いのあと、ギルドに顔を出したレオンとイーリスは、まっすぐな目で俺に頭を下げた。

『シンさん、お願いします! 俺たちを《白灯》に入れてください!』
『私たち……これからは、ちゃんと守れるようになりたいんです! シンさんみたいに!』

 俺からすれば、もう十分頑張ったと思っていたが……二人はそれでは足りなかったらしい。
 正直、悩んだ。
 ギルド活動を積極的にする気のない俺にとって、新人を迎えるのはあまりにも重荷だ。
 それに、あの兄妹にはもっと活動的な、大きなギルドの方が合っていると思って、説得もした。

『君たちなら、もっと適した場所があるはずだ。うちは……あまり、動かないギルドだからな』

 それでも彼らは首を縦に振らなかった。
 
『そんな、俺たちはシンさんの元で強くなりたいんです! あなたのような強い男に!』
『そうです! シンさんは私たちを救ってくれた――命の恩人なんですよ?』

 若者の熱量に、さすがの俺も押し切られた。
 村の人たちにまで「お願いします、あの子たちの居場所を……」と頭を下げられた日には、もう無理だった。断れるわけがない。
 こうして、レオンとイーリスは正式に《白灯》の一員となった。
 もっとも――。

(……これで、雑用を頼めるな)

 俺にとって、悪い話ばかりでもない。
 二人はギルド所属経験がないため、加入時に適正ランクの判定試験を受けさせられた。
 その結果はまだ届いていないが……十中八九、俺よりも下だろう。
 つまり、命令しやすい。
 リゼットやラグナルには怖くて頼めないことでも、レオンとイーリスになら――。

「……シンさん? 今、何か悪いこと考えてました?」
「え、いや、別に?」

 イーリスが、にこにこと笑いながら俺を見つめていた。
 なんで読まれた? この子、ちょっと怖いんだよな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

処理中です...