趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚

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エピローグ

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 完璧だと思っていた作戦が、たった二枚の紙切れによって粉々にされた。
 そのなんとも言えない虚脱感を引きずったまま宴会の場へ戻ると――。
 
「団長ッ! 戻られましたかッ!」
「シン様、お帰りなさいませ」

 酒気を帯びた声が飛んでくる。
 見れば、ラグナルが満面の笑みで酒を掲げ、リゼットはすでに二杯目らしいグラスを傾けていた。
 どうやら俺が席を外している間も、着々と宴は進行していたようだ。

「マスター、おかえりっ!」
 
 セラが勢いよく飛びついてきて、俺の腕をがっちりホールドする。柔らかい。

「マスターがいない間に、誰かが酔いつぶれちゃったら大変だもん。ちゃんと見張ってたんだよ?」
「見張るって、危ないやつ――いるか」
 
 ちらりとラグナルを見る。
 
「……団長ッ!? なぜそこで私を見るのですッ!?」

 苦笑いでごまかした瞬間、リゼットが氷のように冷たい視線をセラに向けながら、すっと間合いを詰めてきた。

「……セラ。あまりシン様に密着なさらないように」
「えっ、やだよ。マスターは私のなんだもん」

 違いますよ。
 
「所有権を主張するのはやめていただけますか?」
「やめなーい」
「……そうですか。では、力ずくで」

 やばい、このままだと本気のバトルが始まる。
 俺は慌ててセラの腕を外し、場を収めるために空いたグラスを手に取った。

「ほら、せっかくの酒だ。乾杯しようぜ。乾杯は何回やったっていいからな」

 無理やり話を戻すと、ノリ良く全員がグラスを掲げる。
 ぱちん、と軽やかな音。
 その瞬間だけは、笑顔がそろった――が。

「シン様、今晩のご予定はいかがでしょうか。よろしければ、私が全身マッサージを――」
「ちょっと言い方がいかがわしいから遠慮しておくよ」

 リゼットが俺の身体をまさぐりながら誘惑してくるし。
 
「団長ッ! 次の一杯は私が注ぎますッ!」
「あ、あぁ……もうそろそろ、やめたいんだけど……」
「なにをおっしゃいますか! 今回の――いや今回もッ! 団長の活躍で若者が救われたのですッ! 盛大に祝わなければッ!」
「俺の力じゃないよ。リゼット、セラ、ラグナル。みんながいてくれたから助かってる。いやぁ、本当に、強い奴がいると頼りになるなぁ、ははは」
「――なるほどッ! その謙虚さもまた、団長の魅力ですねッ! 参考にさせていただきますッ!」

 ひたすら酒を飲ませようとしてくるラグナル。注ぐ手を止めてくれ。
 
「ねぇマスター! はやく隣に座ってよー!」
「今行くよ。っていうかセラ、結構飲んでない? もしかして酔っ払――」
「そんなわけないじゃーん! ほらマスター来て来て! それで私から一生離れないで!」

 いつも通りに見せかけて、ちょっと目の奥が真剣そうなセラ。
 うん、どいつもこいつも一筋縄ではいかなさそうだ。
 これに加えて、俺より強い奴があと二人も加入したんだから、平和な生活はしばらくお預けになりそうだ。
 ――そう思っていたが、これがさらに悪化することになるとは、この時の俺は知る由もなかった。


(……つまり、つまりはこういうことか)

 俺は、昨日の宴会での一件――レオンとイーリスのランクについて、朝から延々と思考を巡らせていた。
 まだ寝ぼけた頭でも、嫌な予感は十分に組み立てられる。
 
『……俺がしっかりしていれば魔物を、男を倒せたのに。イーリスを危険に晒さなかったのに……』

 目覚めたばかりのレオンが言っていたこと。
 あの時は、強がりや責任感での言葉だとばかり思っていたが……そもそも、レオンはあの男と自分が互角だと感じていたのかもしれない。
 しかし、襲いかかってきた魔物に初見殺しのような物理無効能力があったから負けてしまった。
 または、俺のように相手が魔術師だと勘違いして突っ込み、ボコボコにされていた可能性もある。

(いや、こういう時は普通、冒険者に毛が生えたくらいの強さだと思うじゃん……)

 兄妹が周辺の治安に貢献していたっていうのも、過大評価じゃないのだろう。

(あの二人、これ以上強くなる必要なんてないだろ……)

 今回みたいな特殊ケースはそうそう起きない。
 特別な訓練もせずAランクを叩き出したなら、伸び代も保証されている。
 のんびり平和な生活を送っても余裕で生き残れるはず、羨ましい限りだ。
 なのに、本人たちはやけに謙虚で、「シンさんの元で強くなりたい」なんてテンプレ台詞まで口にしてくるもんだから……俺は自分より強い奴を二人もギルドに入れてしまったわけだ。

「あーあ、時間を戻すチートスキルとか習得しないかなぁ……するわけないか」

 もちろん、そんな都合のいいことは起こらない。
 俺の持ってるスキルなんて、性癖を満たす範囲を広げる程度のものだし。

「……こんなこと考えてても仕方ないな」

 時計を見る。そろそろ全員が集まってくる頃だ。
  今日は妙に熱気を感じるし、見ていない間に、セラやラグナルが余計なことをやらかす可能性は大いにある。
 俺は大きく伸びをしてから立ち上がり、自室の扉を開けて階段を降り――。

「――う、うおおおおおおおっ!?」

 階下から、割れんばかりの人の声と椅子の軋む音が押し寄せてきた。
 いや、外からもか!?
 部屋に戻り、急いで窓際に向かう。カーテンを引くと防音魔術が解除され、人々のざわつきが耳に入る。
 続いて視界に飛び込んできたのは――ギルドの入り口を埋め尽くさんとする冒険者たちだった。


 
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