趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚

文字の大きさ
38 / 74

青春は心臓に悪すぎる2

しおりを挟む
「なっ……でけぇ……」

 全長三メートルはある巨躯の魔物。
 黒毛に覆われた熊。
 いや、牙が異様に発達した……名付けるならキラーベアーだ。
 こんな魔物、ここいらにはいないはずだぞ。
 初めて見る種だから正確な強さは分からないが、このデカさでBランク未満はあり得ない。Aクラスだっておかしくない。
 ただの前脚の一撃ですら即死級。
 骨が粉砕され、肉が潰れる光景が容易に想像できる。
 思わず後退る俺。一人なら恰好の状況だが、イーリスがいる。
 彼女はまだ戦闘経験が浅い。ランクが俺より高いとはいえ、初っ端から戦うには分が悪すぎる。

「……イーリス、下がれ」

 キラーベアーから目を離さないまま、俺は言った。
 まず、機動力に優れる俺が、コイツを撹乱する。
 その間にイーリスを逃し、頃合いを見計らって俺も逃げる。
 ギルドに帰り、リゼットなりラグナルなりを連れてきて、シバいてもらう。完璧な作戦だ。

「今から俺が囮になるから、イーリスは先に逃げてくれ」

 これが最適解だ。これしかない。

「……いやです」

 だが、隣のイーリスが小さく首を横に振り――俺の言葉を踏み潰すように、一歩。前へ出た。

「ッッ!? おい、何やってんだ!」

 俺の手が咄嗟に伸びる。
 同時に、キラーベアーが威嚇のために唸り声を上げ、巨腕を誇示するように挙げる。
 ただの前脚じゃない。丸太のような腕だ。
 鋭い鉤爪が陽を反射し、振り下ろされれば地面ごと抉れるだろう。
 そして、狙いを少女へと定めた時――シュッと空気を裂く音。
 イーリスの光の矢が、的確に熊の関節へと突き刺さった。

「――ルクス・バインド!」

 イーリスの口から紡がれた詠唱が、白く輝く鎖となって顕現する。
 鎖は蛇のように熊の四肢へ絡みつき、その巨体をぎりぎりと締め上げた。
 地を割るように踏み込もうとした脚が、膝の途中で止まる。
 金属を叩くような軋みと共に、魔物の動きが完全に縫い留められた。

「――ルクス・アロー!」

 矢が次々と形を取り、三本の閃光が矢継ぎ早に放たれた。
 鈍い呻き声とともに、巨体が仰向けに倒れ込む。
 地響きが森を揺らし、舞い上がった砂埃の中で、怪物は動かなくなった。

「……ふぅ」

 額にかかる前髪を指先で払うイーリス。
 呼吸は少しだけ乱れているが、表情は清々しい。
 まるで「想定内」と言わんばかりに。
 対する俺は、口を開けたまま、呆然と立ち尽くしていた。

(……やべぇ、瞬殺だよ……)

 思考が追いつかない俺を横目に、イーリスは熊の亡骸へと歩み寄る。
 矢が刺さった箇所を確認しながら、さらりと口にした。

「熊型の魔物は、肩の関節が弱点なんです。あそこを射抜けば、いくら膂力があっても体重を支えきれなくなります」

 彼女の声は落ち着いていて、教科書を読み上げるみたいに淡々としていた。

「……どこでそんなの勉強したんだ?」
「兄さんと森を巡っていた時に観察しました。後は、この魔物の特徴に当てはまるかを考えて、ですね!」
「あ、そうなんですね……」
 
 観察眼ありまくりじゃねぇか。
 俺が命の危険を感じていた時、イーリスは「弱点を突けば倒せる」と冷静に見抜いて実行していたわけだ。
 
「よしっ。それじゃあシンさん――もう一回、お願いします!」

 キラーベアーの死骸を背に、イーリスが駆け寄ってくる。
 もう一回って多分、また撫でろって言ってるんだよな。
 
(……可愛いんだけど、後ろを見ると思ってられないんだよ……)

 ビビりながらも、俺はおそるおそる手を伸ばし、彼女の頭に触れる。
 指の下でさらさらとした髪が揺れ、イーリスは気持ちよさそうに目を閉じる。

「……えへへ」

 可愛い。とても可愛い。
 背後でぶっ倒れている生物さえ目に入らなければ。
 よし、もう十分だろ。
 そう思って手を離そうとすると――。

「ッ!?」

 手首をがっちり掴まれた。
 細いはずの腕に、なんでこんな力があるんだ。

「……まだですっ!」

 音符がついてそうな声色とは裏腹に、手の力がすんごい。
 骨がミシミシいってる気がする。
 
「ひいっ! もちろんです!」

 即答した。命が惜しいからな。
 にこにこと目を閉じている彼女の表情と、手首を砕かんばかりの力のギャップ。
 ラブコメとサスペンスの境界線というやつだ。

「……んー! ひとまず満足しました! ありがとうございます!」

 ようやく力が緩み、俺は心底安堵の息を吐いた。
 するとイーリスは、少し照れたように目を伏せてから――。

「また次も、お願いしますね、シンさん!」

 そう言った。

「は、はは……機会があればね……」
 
 今度は誰か連れてきて、守ってもらうとしよう。
 とりあえず、忘れることにした。今日は熊鍋だ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

処理中です...