44 / 74
この依頼は受けたすぎる2
しおりを挟む依頼書を受け取った俺は、自分のギルドへと戻り、ロビーでくつろいでいるメンバーに依頼書を突き出した。
「――というわけで、依頼を受けてきた」
最初に食いついたのはセラだった。
「珍しいね、マスターが自分から依頼を受けるなんて」
「まぁな」
どこかのおばちゃんに脅されでもしない限り、俺が依頼を受けるのは金のためだ。
ギルド開設資金を貯めるため、面倒な採取依頼やら雑務やらを数多く受注してきたのは記憶に新しい。
しかし今回は例外。純粋に、俺の興味を惹いた依頼なのだ。
「今回の行き先は――古都ヴェスティア。年に一度の『千灯祭』に合わせて、出展品の運搬と納品だ。希少鉱石、魔力薬草、ちょっと珍しい小動物が一匹。割のいい護衛依頼だな」
依頼内容を聞いて、空気がぱっと明るくなる。
「まぁっ! ヴェスティアといえば、石畳と回廊、歴史と芸術の都ですわね! 社交界でも、人生に一度は訪れるべき古都と讃えられておりますの!」
セレスが扇子をぱたぱたと扇ぐ。目が星みたいに輝いてる。
「千灯祭……! 橋にずらーって灯籠が並ぶやつですよね?」
イーリスが胸の前で手を組み、憧れの眼差しを向けてきた。
「あと、掘り出し物の剣が売ってるって聞いたことが……」
レオンは少し遠慮がちに口を挟む。かなり気になっていそうだな。
兄妹の住む村にも噂が届いていたようだし、流石の知名度である。
「……千灯祭か」
ローヴァンさんが低く唸るように言った。酒を置き、じろりと依頼書を睨む。
「観光気分で行ける場所じゃねぇぞ。昔から、盗賊団が根城にしてるって噂があるからな。財布と命が同じくらい軽くなる街だ。……それはそうと、美味い地酒があるんだよな」
あんたも行きたいんじゃねぇか。
渋い顔をしておきながら、最後の一言で全てが台無しだ。
「とはいて、まずは仕事。荷を無傷で届けて、受領印をもらうのが最優先だ」
口では釘を刺しつつも――実のところ、俺の胸の内はメンバーとそう変わらない。
観光気分、というより「観光そのもの」が目的だった。
ギルドを立ち上げてからというもの、俺の生活は一変した。
以前は、好きな時間に飛び出して、血塗れになって心を満たし、ひっそりと帰宅する最高の日々。
だが今は、朝から晩まで誰かしらがロビーにいて、深夜でも誰かが作業していることが多い。主にリゼットが。
仲間が増えたのは……頼もしさという面では良いことだ。
しかし、常に誰かの視線を感じる生活は――その視線が重いものだということもあって――息苦しいものだった。
古都ヴェスティア。芸術と歴史の街。
俺の脳裏には、祭りの夜に橋一面を照らす灯籠の光景が浮かんでいた。
そこを一人で歩く。屋台で何かを食べる。人混みに紛れて、誰の目も気にせず過ごす。
思わず頬が緩みかけたところで、目の前にいたセレスが勢いよく立ち上がる。
「決まりですわね! わたくし、社交界に先んじてヴェスティアの知識を取り入れますわよ~っ!」
「素晴らしい心がけです、お嬢様」
「そうでしょう! そして、シン様とご一緒できれば、さらに幸せなこと間違いなしですの!」
やめてくれ、爺。俺を見るな。
続いてラグナルが腕を組み、筋肉を隆起させながら大声を上げる。
「団長ッ! このラグナル、実は芸術に興味があるのですッ! 共に鑑賞しましょうッ!」
さらにイーリスが恥ずかしそうに手を挙げる。
「あのっ……私、お弁当作ってもいいですか? ……シンさんに食べてもらえたら……」
視線を逸らしながら、頬をほんのり染める。
あぁ、青春が胸を締め付ける。
最後にローヴァンさんが、どっかり椅子に腰かけたまま口を開く。
「……祭りに紛れて盗賊も動く。俺が目を光らせといてやる」
格好いい台詞だが、左手にはすでに酒瓶。
どう考えても、見張りより飲む気だ。
――これで分かった。俺が静かに過ごせる可能性は、ごく僅か。
作戦を遂行する隙は一瞬だということだ。
「……ちなみに、今回は俺、ラグナル、レオン、イーリス、セレス、ローヴァンさんで行こうと思う」
ラグナルには馬車の見張り、兄妹は小回りの利く戦いができ、セレスには……小遣いをねだろうという算段。
ローヴァンさんに関しては、彼をギルドに残しても事務などを行ってくれなさそうだし、保険という形で連れて行くことにした。
セラを連れて行かないのは、単純に人数の問題。
もちろん、留守の時に核になるのはリゼットだ。
彼女はというと……。
「……まさかとは思いましたが、やはり私を置いて行くのですね」
声色は平坦、感情の起伏はない。
だが、ジトッした視線が俺に突き刺さる。
「……シン様との観光、楽しみにしていたのですが……」
「い、いや、その……リゼットは留守番をしてくれた方が……」
俺が口ごもりながら理由を並べ立てようとすると、横からセラがひそひそ声で囁く。
「マスター……目が笑ってないよ」
「し、知ってる……」
かなり良くない流れだ。俺は慌ててフォローを重ねる。
「ほ、ほら! リゼットが残ってくれないと、ギルドの受付も財務も誰もできないだろ? 大事な役割なんだ」
「……そうですね」
こっち方面での説得は、もはや意味をなしていない。
俺は喉をゴクリと鳴らし、意を決して言った。
「……じゃ、じゃあさ。今回帰ってきたら……その……デート、でも行こうか」
空気が止まった。リゼットの長いまつ毛がぴくりと震え、じっと俺を見つめてくる。
「……本当ですか?」
「も、もちろん。ほら、働き詰めじゃ疲れるだろ? たまには休養も必要だし」
場当たり的な言い訳を重ねる俺を、彼女は数秒黙って見ていた。
そして――ほんの少しだけ、表情が和らぐ。
「……分かりました。では、シン様。無事に戻ってきてください」
その声音はやっぱり平坦だ。
だが、耳まで赤く染まっているのは俺の目にもはっきり分かった。
(……助かった)
胸を撫で下ろした瞬間、横から勢いよく肩を掴まれる。
視線を向けると、セラが満面の笑みを浮かべていた。
「マスター、私も行けないんだよね?」
「あ、うん……そう、だね……?」
「――私ともデート、してくれるよね?」
「…………もちろんです」
力なく答える。
セラは「やったぁ!」と子供みたいに飛び跳ね、ぎゅっと俺の腕に抱きついてきた。
「マスターとデート~! ふふっ、何着ていこうかなぁ~」
墓穴を一つ掘ったつもりが、二つに増えていた。
「まぁ! デート! なんて素敵な響きですの! もちろん、わたくしも順番をいただけますわよね?」
「ちょ、ちょっと待っ――」
「団長ッ! 私ともデートをッ!」
なぜだろう。このメンバーの中で安全そうなのはラグナルだ。
こうして、俺たちは古都ヴェスティア行きの依頼を正式に受けることになった……が、しかし。
よく分からん事件に巻き込まれることになるとは、この時の俺は思いもしなかった。
12
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる