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同調
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通りに出たセレスだったが、人影はもうまばらだった。
惨状の残滓を吹き飛ばすように強い風が吹き抜ける。
じいは周辺の様子を探っていて、ここにはセレスしかいない。
大通りの中央。左右には瓦礫と、焼け落ちた屋根。
その中で、セレスは優雅に立っていた。ドレスの裾は汚れているが、姿勢だけは一分の乱れもない。
「……まぁ」
小さく呟いたのは、その風の向こうから足音が聞こえてきたからだった。
ラフなロングコート。前を開けて、ブーツの音を響かせながら歩いてくるのは、一人の若い女性。
「……へぇ。まだ誰かいたんだ」
女はセレスを見るなり、わずかに眉を上げた。
あなたこそ、と言葉を発しかけたセレスは、その異質な雰囲気に警戒を強める。
「貴族様? それとも避難しそこねた市民?」
あくまでも普通の会話。声に敵意はなかった。
ただ、面倒くさそうな退屈を感じさせる響きがあった。
「わたくしは、ギルド《白灯》のメンバーですの」
セレスがスカートの裾を掴み、小さく一礼する。
それを見て、女は目を細めた。
「ふぅん。やっぱり貴族って感じ。言葉の端々がそういう匂いするよね。当たってるんじゃない?」
どこか悪びれたような、甘えるような声色。
だが、その軽薄さの奥に、セレスは何か冷たいものを感じ取っていた。
「あなたは……この混乱の元凶に属する者ですの?」
「ん~……そうだね。私は《同調》の名を冠する者。まぁ、名前なんてどうでもいいけどね。そう思うよね」
軽く肩をすくめながら、同調は道の真ん中まで歩いてくる。
距離、約十メートル。
セレスは小さく息を吸い、胸を張った。
「わたくしは、セレス・オーギュスト・ド・モンフォール・エルミナリエと申します。人々を傷つける者には、何人であろうと退場していただきますわ」
「ふーん……長い名前。三つ目くらいから、もう頭に入ってこなかったけど、貴族ってやっぱり自己紹介にも気合い入れるの?」
言葉とは裏腹に、ミラの手は自然な動作で腰へと伸びていた。
柄の短い、湾曲した短剣。
黒く染められた刃が、金の装飾と不釣り合いに光を跳ね返す。
「何事も気合いが不可欠でしてよ?」
「なら、私にも気合いで勝てるかもね。試してみる?」
ぴ、と短剣の先で空気を裂くように切り上げて見せた。
それが、開戦の合図だった。
「どうぞどうぞ、正面からお受けいたしましてよ」
セレスの瞳に、わずかな火が宿る。
だが身構えはしない。
ドレスのまま、背筋を伸ばしてその場を動かずに待つ。
「そう。まずは……」
ミラが地を蹴った。
その動きは、迷いなく速い。直線的ではあるが、無駄のない最短距離を突いてくる。
第一撃、右手の短剣がセレスの肩口を狙って振り下ろされる。
セレスは一歩、足を滑らせるようにして左へ。
直撃こそ避けたものの、ドレスの袖が切り裂かれ、布が宙に舞った。
「ん~、惜しいね。次いってみよう」
追撃。足を止めずにミラが滑り込んでくる。
二撃目は逆手に持った短剣で、脇腹を切り裂くような低い軌道。
(――刃筋、甘い!)
セレスはその刃を見極め、ステップを踏む代わりに前に出る。
刃が届く前に懐へと入ることで、有効範囲を潰す。
そして、そのまま――。
「んぶッ!?」
拳が鳩尾にめり込んだ。
ミラの身体が軽く浮き、二歩ほど後退する。
「お、おなか……え、普通に殴ってくるの?」
信じられないという顔で腹を押さえながら、ミラがセレスを見上げた。
「ええ。わたくし、握りこぶしには自信がありますのよ」
そう言って、小さく握った拳を口元に添えて微笑む。
「いやいや、マジで? え、素手? 素手で来るの? 貴族ってそういう戦い方なの? ちょっと意外。びっくり。……でも、悪くないかも」
「わたくしにはこれが一番しっくりきますの。重みのある言葉は、重みのある拳から生まれると心得ておりますから」
「……やだ、ちょっと好きかも、そういうの」
同調が笑う。腹を押さえながらも、体勢は崩れていない。
そして、もう一度短剣を構える。
「でも殺すけど。もう一回、試させてもらうね? 見極めたいし、あなたの動き」
「ええ。好きなだけどうぞ。その代わり、こちらも遠慮はいたしませんわ」
鋼のようなやりとりが、大通りに響く。
再び交錯する二人の影。
ミラの刃が舞い、セレスの拳が風を切る。
切っ先がセレスの狙うも、ギリギリで手首を払い落とし、今度は肘で押し返す。
ミラも反撃の踏み込みを試みるが、セレスの逆足の蹴りで体勢が崩れる。
(速い。動きも綺麗。ですが単調で、力の抜き差しも未熟……)
セレスは気づいていた。
同調の戦い方は無駄がなく機敏だが、どこか機械的だ。
その刃の軌道は的確で、殺意はある。
だが感情が乗っていない。
「……ずいぶん冷めた戦い方ですのね」
「何それ、褒めてるの? 貶してるの? どっちなのかな」
「どちらでもありませんわ。ただ、あなたの刃では、わたくしの心は動かされませんの」
「――なら、そろそろ動かしてみようかな?」
同調の笑みが、僅かに変わった。
空気の膜のような何かが、瞬時に張り巡らされたように感じる。
そしえ、彼女が右足を一歩引くと同時に――セレスの右足が、まったく同じ動きをした。
「これは……なにが起こっていますの?」
「さぁ、『合わせて』いこう。あなたとわたし、息ぴったりになれると思わない?」
惨状の残滓を吹き飛ばすように強い風が吹き抜ける。
じいは周辺の様子を探っていて、ここにはセレスしかいない。
大通りの中央。左右には瓦礫と、焼け落ちた屋根。
その中で、セレスは優雅に立っていた。ドレスの裾は汚れているが、姿勢だけは一分の乱れもない。
「……まぁ」
小さく呟いたのは、その風の向こうから足音が聞こえてきたからだった。
ラフなロングコート。前を開けて、ブーツの音を響かせながら歩いてくるのは、一人の若い女性。
「……へぇ。まだ誰かいたんだ」
女はセレスを見るなり、わずかに眉を上げた。
あなたこそ、と言葉を発しかけたセレスは、その異質な雰囲気に警戒を強める。
「貴族様? それとも避難しそこねた市民?」
あくまでも普通の会話。声に敵意はなかった。
ただ、面倒くさそうな退屈を感じさせる響きがあった。
「わたくしは、ギルド《白灯》のメンバーですの」
セレスがスカートの裾を掴み、小さく一礼する。
それを見て、女は目を細めた。
「ふぅん。やっぱり貴族って感じ。言葉の端々がそういう匂いするよね。当たってるんじゃない?」
どこか悪びれたような、甘えるような声色。
だが、その軽薄さの奥に、セレスは何か冷たいものを感じ取っていた。
「あなたは……この混乱の元凶に属する者ですの?」
「ん~……そうだね。私は《同調》の名を冠する者。まぁ、名前なんてどうでもいいけどね。そう思うよね」
軽く肩をすくめながら、同調は道の真ん中まで歩いてくる。
距離、約十メートル。
セレスは小さく息を吸い、胸を張った。
「わたくしは、セレス・オーギュスト・ド・モンフォール・エルミナリエと申します。人々を傷つける者には、何人であろうと退場していただきますわ」
「ふーん……長い名前。三つ目くらいから、もう頭に入ってこなかったけど、貴族ってやっぱり自己紹介にも気合い入れるの?」
言葉とは裏腹に、ミラの手は自然な動作で腰へと伸びていた。
柄の短い、湾曲した短剣。
黒く染められた刃が、金の装飾と不釣り合いに光を跳ね返す。
「何事も気合いが不可欠でしてよ?」
「なら、私にも気合いで勝てるかもね。試してみる?」
ぴ、と短剣の先で空気を裂くように切り上げて見せた。
それが、開戦の合図だった。
「どうぞどうぞ、正面からお受けいたしましてよ」
セレスの瞳に、わずかな火が宿る。
だが身構えはしない。
ドレスのまま、背筋を伸ばしてその場を動かずに待つ。
「そう。まずは……」
ミラが地を蹴った。
その動きは、迷いなく速い。直線的ではあるが、無駄のない最短距離を突いてくる。
第一撃、右手の短剣がセレスの肩口を狙って振り下ろされる。
セレスは一歩、足を滑らせるようにして左へ。
直撃こそ避けたものの、ドレスの袖が切り裂かれ、布が宙に舞った。
「ん~、惜しいね。次いってみよう」
追撃。足を止めずにミラが滑り込んでくる。
二撃目は逆手に持った短剣で、脇腹を切り裂くような低い軌道。
(――刃筋、甘い!)
セレスはその刃を見極め、ステップを踏む代わりに前に出る。
刃が届く前に懐へと入ることで、有効範囲を潰す。
そして、そのまま――。
「んぶッ!?」
拳が鳩尾にめり込んだ。
ミラの身体が軽く浮き、二歩ほど後退する。
「お、おなか……え、普通に殴ってくるの?」
信じられないという顔で腹を押さえながら、ミラがセレスを見上げた。
「ええ。わたくし、握りこぶしには自信がありますのよ」
そう言って、小さく握った拳を口元に添えて微笑む。
「いやいや、マジで? え、素手? 素手で来るの? 貴族ってそういう戦い方なの? ちょっと意外。びっくり。……でも、悪くないかも」
「わたくしにはこれが一番しっくりきますの。重みのある言葉は、重みのある拳から生まれると心得ておりますから」
「……やだ、ちょっと好きかも、そういうの」
同調が笑う。腹を押さえながらも、体勢は崩れていない。
そして、もう一度短剣を構える。
「でも殺すけど。もう一回、試させてもらうね? 見極めたいし、あなたの動き」
「ええ。好きなだけどうぞ。その代わり、こちらも遠慮はいたしませんわ」
鋼のようなやりとりが、大通りに響く。
再び交錯する二人の影。
ミラの刃が舞い、セレスの拳が風を切る。
切っ先がセレスの狙うも、ギリギリで手首を払い落とし、今度は肘で押し返す。
ミラも反撃の踏み込みを試みるが、セレスの逆足の蹴りで体勢が崩れる。
(速い。動きも綺麗。ですが単調で、力の抜き差しも未熟……)
セレスは気づいていた。
同調の戦い方は無駄がなく機敏だが、どこか機械的だ。
その刃の軌道は的確で、殺意はある。
だが感情が乗っていない。
「……ずいぶん冷めた戦い方ですのね」
「何それ、褒めてるの? 貶してるの? どっちなのかな」
「どちらでもありませんわ。ただ、あなたの刃では、わたくしの心は動かされませんの」
「――なら、そろそろ動かしてみようかな?」
同調の笑みが、僅かに変わった。
空気の膜のような何かが、瞬時に張り巡らされたように感じる。
そしえ、彼女が右足を一歩引くと同時に――セレスの右足が、まったく同じ動きをした。
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