趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚

文字の大きさ
9 / 74

大男の忠誠心が厚すぎる2

しおりを挟む
「……はい。闘技場の柵が上がり、そこには凶暴な魔獣がいました。噛み付く以外にも、口内から槍のような物体を放ち、肉の鎧など容易に貫いてしまう」

 マジでなんだったんだあの魔物。
 新手の寄生生物みたいな構造をしていた。

「それを見て、はなから死を望んでいた私だけでなく、他の奴隷たちも絶望していました。……ですが、ただ一人、一人の奴隷だけは、魔獣に立ち向かっていったのです」

 ラグナルは目を輝かせ、拳を強く握り、俺を見た。

「それこそが――シン団長だったのです!」

 その言葉に合わせて、リゼットが魔術か何かで小さな花火のようなエフェクトを弾かせた。勝手に演出すんな。

「団長は魔獣の攻撃を躱し、逃げ惑う奴隷たちを助け、血に濡れた顔で言いました。『お前たちは戦わないのか? お前たちの誇りは、武器を掴まなきゃ見せられないのか?』と……」

 背後で鼻をすする音が聞こえる。
 振り返ると、鉄仮面のリゼットの瞳から一筋の涙が溢れていた。
 確かに、確かにラグナルの語りは上手い。
 騎士として戦っていたころも、こうやって部下を鼓舞していたのだろう。
 しかし……しかしだ。実際には、これは美しい話ではない。

 ある日……俺はただ、ダンジョン探索中に偶然「転移結晶」なる代物を拾っただけだった。
 それは触れると、持ち主があらかじめ登録していた場所へ転送されるアイテム。
 ファストトラベルってやつだ。
 所有者が任意の場所を設定する必要があるため、元の持ち主がいたはずなのだが、何故か周囲に人はおらず、どうしたものかと軽く小突いたのが運の尽き。
 なぜか、下着を含む全ての装備を置いて転移してしまった。
 そうして飛ばされた先は、まったく知らない土地。
 俺はどうにかしてフェルナスへと帰還するべく、己の身体一つで興奮しながら突き進む。
 だが、やがて俺はある国の領土に踏み込んでしまい、ほぼ即座に捕らえられた。
 抵抗したかったが、全裸では説得力ゼロ。
 俺は魔術も使えず、武器も持たず、闘技場に放り込まれた。

 円形の石造りの闘技場。
 奴隷たちは怯えきって壁際に固まり、開かれたゲートの向こうからは、常軌を逸した化物が現れた。
 粘液に濡れた四肢、蠢く触手、口から飛び出す骨の槍。
 死闘とかのレベルじゃない。余裕でぶっ殺される。
 だが、俺はここで生を終えるつもりはない。
 どうにかしてモンスターを倒して、その上で脱出する必要があるのだ。
 俺の頭はフル回転していた。
 武器も魔術もないこの状況で、どうやって生き残るか。
 敵は一体。対するこちらは十数人。怯えきった奴隷たちではあるが――数の暴力ならいけるか?
 正面からぶつかれば即死確定。だが、十人が一斉に殴ればどうか。
 あいつの触手を抑える者、足を引く者、後ろからかかとを蹴る者……。
 見てみれば、ちらほらゴツいやつもいる。
 だが、問題は誰が先陣を切るかだ。
 奴隷たちは恐怖で固まり、完全に沈黙していた。
 誰かが叫び、動かなければ、全員そのまま殺される。
 ならば、ここは俺が煽るしかない。
 そうして告げたのが「お前たちは戦わないのか? お前たちの誇りは、武器を掴まなきゃ見せられないのか?」という、前世で観た映画の名言だったんだが……。
 ともあれ、絶望に屈していた者たちが、歯を食いしばって武器らしき木片や石を握り、俺の周囲に集まりはじめる。
 その後は全員で魔物を袋叩きにした。
 俺はモブに混ざって背後から飛び蹴りをかますことで、死なずに生き延びた。

「……我らはシン団長の元に一つの生命になり、彼の一撃によって魔物を撃破しました」

 いや、最後の一撃はラグナルだった。
 魔物が十メートルくらい吹っ飛んでったぞ。

「まさかと言える結果に人々は言葉を失い、我らは好機とみて脱走。そして、団長は追手を撹乱するために、一人だけ違う道を選び――私たちは自由を手にしたのです」

 実際には、国からの距離的に追いつかれる可能性が低く、自分の正体がバレるのを防ぐために別行動を取ったのだ。

「私は……私は衝撃を受けました。己の言葉と肉体で人々を鼓舞するシン団長の姿に。……あの時の私に必要だったのは、折れずに戦うことだったのかと」

 否定したいが、ラグナルサイドの話が重すぎて何も言えん。

「同時に、一つの願いが生まれました。私は彼を仰ぎ見たい。どうか、彼に人々の上に立ってほしいと。この世の全てを……総べてほしいと」

 あまりに飛躍しすぎじゃないか?
 俺が総べたいのはメンバー0人のギルドだ。

「その後、私は団長を探す旅に出ました。ですが、無能な私は彼を見つけることができず……ある日、『孤高で名を馳せる冒険者リゼットが、名もなき新興ギルドに加入した』という噂を耳にしたのです」

 おい、なんだその噂。初耳だぞ。
 
「そして私は白灯を訪れ……団長の声を聞いた瞬間、確信しました。この方こそ、あの闘技場で光を見せてくださった方だ、と」
 
 パチパチと手を叩くリゼット。
 とりあえず、彼女がギルドに加入したという噂を流したやつはシバいておこう。

「ちなみに、その噂は私が流しました。雑用係が欲しかったので」

 やっぱりやめておこう。瞬きのうちに病院送りだ。

「……さて、次はメイド長の番ではッ!? まだうかがっていないことに気がつきました! ぜひ、シン団長との出会いを聞かせていただければッ!」
「仕方ありませんね。特別に話してあげましょう」

 もうやめてくれ。俺はさっき聞いたんだよ。

「私がまだリゼット・カディナという名の貴族の娘だった頃――」
「貴族だったのですか!?」
 
 流れるように始まった回想を右から左に受け流しつつ、俺は思考を巡らせる。
 残念ながら、今さら三人の加入を取り消すことはできない。
 SSランクのメイド、Sランクの剣、冒険者の上澄みと並ぶであろう元騎士団長。
 誰に楯突いても転生人生終了だ。
 つまり、これからの俺にできることは出来るだけ目立たず、加入希望者を出さない、見つからないことだ。

「でも、あのとき――初めて、誰かにとっての道具ではなく、人として扱われたと感じたのです」
「な、なんて……なんて寛大なお方だ……ぐすっ」

 よし、そうなればやることは一つ、何もしないことだ。
 ギルド単位の依頼をこなすなどもってのほか。
 毎月一体ずつヒーリングゴーレムを増やすことを楽しみに生きていこう。生きていこう……そう思っていたのに、一週間後に持ち込まれた依頼と行動によって、俺の静かなギルマス生活は終わりを迎えたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

処理中です...