守ってあげます、旦那さま!〜筋肉が正義の家系で育った僕が冷徹公爵に嫁ぐことになりました〜

松沢ナツオ

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1章

リオネルの受難 1

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 一週間前から金の取引のため皇都のタウンハウスに滞在し、二階の執務室で書類の確認をしていた。ヘリオドート家が所有する金は、埋蔵量、産出量共に大陸一と言われていて、金貨やジュエリーの地金はほぼ我が領から採掘されている。鉄や銅も産出されるので、帝国へ大きな貢献をしている。
 俺が生まれる前は帝国一貧しいだった。領地が帝国どころか、大陸一豊富な資源を埋蔵していただなんて、誰が想像できただろう。

 当時皇太子だった父のアロイスは、母ソフィアをこよなく愛し結婚を望んだが、男爵家でもあまり家格のよろしくない家系だったため大反対された。皇帝は怒り狂い廃嫡すると宣言すると、父は批判を甘んじて受け入れ、一般市民になるとまで宣言した。
 皇帝も大臣たちも、そこまで覚悟していたことに驚いたのだろう。公爵の地位に据え、完全に縁が切れないように対策した。というのも、男子は父と弟王子の二人だけ。万が一ということもある。

 この件について父は何も語らなかったが、母が教えてくれた。一時は身を引こうとしたそうだが、自分のために皇太子の地位を捨て、市井に生きると言ってくれた父への裏切りになると考え、永遠の愛を誓い結婚したのだ、と。そして、非常に貧しかったアファトナ領のため、身を粉にして働いた。二人の努力は領民にも伝わり、団結し始めた時、金が採掘されるようになったのだ。
 そんな二人の間に生まれた俺は、両親にも領民にも愛されて、恵まれていたと思う。ただ、今思えば、父は笑顔を浮かべつつ、常に警戒をしていた。盗掘者を警戒していると思っていたが、それは俺の考えが甘かったのだ。

 ゴールドラッシュ自体は領民が潤うし悪いことではないが、父が運も味方につけていると踏んだ貴族は放っておいてくれなかった。採掘支援したり、事業拡大や王位継承権の復権を求められたりと、望みとはかけ離れた生活になっていた。きっと、父が王位に返り咲き、自分たちが利権を得ようとしていた。


 事故が起きたあの日……十一歳の誕生日、両親と砂金の採取場の視察に行っていたが、途中から明らかに御者も馬も体調が悪く見えた。
 激しく揺れる車内で、初めて父の目に憎悪を見た。何を察したのか、今では分かっている。馬車になった状態で川に転落し、脱出しようともがいた。最終的に、父が俺を持ち上げて強引に馬車の外に出してくれたが、その直後馬車が完全に水中に沈んだ。そこまでは覚えているが、俺は気を失ってしまった。
 近くにいた農民が川に飛び込んで蘇生してくれ、今は生きている。

 一人生き残ったものの、全身打撲と複数の骨折と生きているのが奇跡と言われた大怪我を負ったのが俺、リオネル・ヘリオドートだ。約一週間生死の境を彷徨い、目覚めた時には両親の葬儀は終わっていた。
 最愛の両親を見送ることさえできなかった情けなさに、いっそ一緒に逝きたかったと何度思っただろう。歩くこともままならず懸命なリハビリをしている時、皇后に当時の婚約者だったアンリエッタを皇太子ヴァンサンに譲れと迫られた。彼女は幼馴染で、何度も見舞いに来てくれていて心の支えだったのに。

「怪我をした幼いあなたにこんなことを言うのも酷だと思うけれど……また歩けるかも分からない男の子にアンリエッタは勿体ないわ。彼女は未来の皇后に相応しい令嬢でしょう?」

 全てを失った子供に、あの魔女は陰湿な笑みを浮かべ言い放った。ただ、未来のない俺に彼女を道連れにするわけにはいかない……そう考えていたのも事実で、了承する以外なかった。父上か母上がいてくれたら。考えても意味はない。それでも助けが欲しかった。
 考えを変えれば、あの女のお陰で負けるものかと踏ん張れた。二十二歳になった今でも、俺を殺すため手を替え品を替え攻撃してくる。全く、懲りないことだ。

 採掘された金は自領で加工しインゴットを作っていて、運搬は強盗などの危険があるため、騎士団を持つことが許されている。当然、俺も日々訓練をしている。今回のように、王家へ納税する際は自ら輸送する。強奪され、それを納税逃れと非難されては面倒だ。
 明日は皇帝に謁見があるが、きっと皇后も顔を出すだろう。納税を済ませたらさっさと王宮から退散したいものだ。
 うんざりしているとノックが聞こえた。

「なんだ?」
「リオネル様、エドモンです。王宮から近衛騎士が参っております。入ってもよろしいですか」

 エドモンは今年二十五歳になる補佐官だ。栗色の髪は肩の下まで伸ばしていて、後ろで一つに結んでいる。俺の乳母の息子で、俺が独り歩きし始めた頃から兄弟のように育てられた。事故の日は屋敷にいて無事だった彼は、子供とは思えない献身を捧げ看病してくれたそうだ。時には厳しく嗜めてくれる、心から信頼できる共であり部下である。
 彼と、近衛騎士が続いて入室する。当たり前だが、近衛騎士は王族の命令でしか動かない。嫌な予感がした。

「皇帝陛下及び皇后陛下より、ヘリオドート卿を王宮にお連れするよう命じられました。ご同行いただきます」

 有無を言わせぬ態度だ。皇帝の命ならどのみち断れないが。

「分かった。エドモン、馬車を」
「陛下が王族の馬車をご用くださいました。ご心配なく」
「それはありがたいことだ。補佐を連れて行ってもいいか」
「はい。従者の同行は許可されております」

 仮面のように表情を動かさない男は何を考えているのだろう。

「では、お言葉に甘えてお借りしよう。行くぞ」
「はい」

 王宮は魔窟。皇帝さえ信用できない、魔女の住処だ。エントランスホールを出ると、ゴテゴテと飾り立てた馬車が待っていた。正直趣味が悪く好みではない。

「では、参りましょう」

 近衛騎士がドアを開け乗車を促す。俺とエドモンが乗り込むとドアが閉まった。

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