守ってあげます、旦那さま!〜筋肉が正義の家系で育った僕が冷徹公爵に嫁ぐことになりました〜

松沢ナツオ

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1章

婚約式 2

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 グレゴリー兄さんのことまでバカにしているのをひしひしと感じ、闘争心に火がついた。

「ふむ、そうだな。その髪色、アイリス殿の色だな。オリヴィン、顔を見せよ」

 立ち上がり、ゆっくりと顔を上げる。僕の骨格は父のような強さはない。顔だって、がっしりした兄さんたちみたいにハンサムでもない。こんな貧弱な男が来たと笑われないか、それだけが心配だった。

「――そなたがオリヴィンだと? 養子ではないのか?」
「瞳以外、お父上には似なかったのね……」

 皇后にコンプレックスをズバリと指摘され、僕はちょっと泣きたくなった。父の子である証は紫色の瞳くらいだ。
 
「この子は間違いなく我が血を継いだ三男オリヴィンです。母親似でして、親バカですがこのような美しい息子が生まれるとは思いませんでした。まさしく、我が領の宝です」

 両陛下は、居心地が悪くなるくらい僕の顔をまじまじと見ている。これ以上見られたら穴が開きそうだ。

「まさか、絶世の美女と謳われた夫人とそっくりとは……驚いたぞ」

 皇帝も父のような屈強な男が来るとを想像していて、期待外れだったらしい。皇后に至っては、扇で顔の半分を隠しながら忌々しそうに僕を睨んでいる。
 どんなに頑張っても育たなかったんだから仕方ないだろ! と叫びたくなった。なんて惨めなんだろう。

「ごほん……まぁ、とにかく、婚約者と引き合わせよう。ヘリオドート公爵リオネル、こちらへ」
「はい」

 皇帝陛下から少し離れた位置にいた男が進み出てきた。

――え、ちょっと待って。あれは……

 衣装は落ち着いた色合いのグリーンの上着に、金色で刺繍されたベスト。年齢を考えると地味な色を着ていた。すらっとした体型だが、服の上からでもそれなりに鍛えているのがわかる。
 いや、問題はそこじゃない。あの顔は……。いやいや、世界には似た顔の人間が三人いるらしい。声は別人かも。
 進み出たリンは、父の隣に並ぶ僕に気づいて何度か瞬きした。表情は動いていないので感情は読めないけれど、この男も婚約者にがっかりした口だろう。

「閣下、お久しぶりでございます。ご壮健そうで何よりです」

 父に挨拶する穏やかな声音。よく通る声だ。気品もあり、リンとそっくりな声だ。でもでも、こんな話し方じゃなかった。リオネルだなんて信じたくない。

「ああ、貴公も変わりないようで安心した。この子が貴殿の婚約者になった我が息子、オリヴィンだ。以後、仲良くしてやってくれ。オリヴィン、挨拶を」
「……オリヴォン・ベニトアです。この度はヘリオドート卿とご縁があり光栄でございます。どうぞよろしくお願いいたします」

 動揺しつつも、母と考えたセリフがスラスラと出てきた自分に拍手喝采を送りたい。

「……リオネル・ヘリオドートだ。よろしく」
 
 リンは……リオネルは僕を冷たい目で睨んでいる。彼もこの結婚に不満なのだろう。それに、ジェフリーと僕が同一人物だと気づいていないみたいだ。ああ、でも、まだ信じられない。あれだけ大勢人がいるのに、リオネルと会っていただなんて!
 スパイのつもりではなかったが、変装してウロウロしていたなんて知られたら誤解されるかもしれない。

「年齢も近い二人だ。すぐに仲良くなれるだろう。二人とも、余の隣に来なさい。皆に紹介する」

 皇帝に手招きされたら断ることはできない。恐る恐る近寄り、リオネルの隣に立つ。それを確認した皇帝は、侍従に何か囁いた。

「只今から、陛下のお言葉を賜ります。ご注目ください!」

 わざわざ衆目を集め、見せ物にする気だ。本当にいい趣味をしているよ。リオネルはどう感じているのだろう。

「皆の者、本日の主役、リオネル・ヘリオドート公爵と、ベニトア家の三男、オリヴィンを紹介しよう。オリヴィンは初めて皇都に来たので、ほとんどの者は初対面だろう」

 皇帝が僕を手で示すと客がどよめいた。怪訝そうな顔をしている人もあるし、眉を顰めてヒソヒソと話している人もいる。また期待通りの男じゃないと言われるのだろう。それでも笑顔で一礼した。

「二人の結婚は準備が出来次第行うつもりだ。皆も、この婚約を大いに祝ってやってくれ」

 戸惑う貴族たちだったが、王に祝えと言われパラパラと拍手が起き始める。やがて、それが大きくなった。とりあえず祝っておかないと面倒になるものな。
 笑顔を固定したまま、妙に冷静な気持ちで彼らの顔を観察する。ほとんどが社交辞令で笑顔を浮かべているが、若い騎士が二人、取り繕うこともなく僕を睨みつけている。一人は茶色い髪の巻き毛の短髪でそばかすがあり、もう一人は金髪を肩まで伸ばしている。そういえば、窓から見た護衛に似ているような。主人の婚約者が僕なんて、そりゃあ憎いだろう。

「あとは、若い二人で親交を深めるといい。今宵は大いに楽しみなさい」

 ようやく皇帝から解放された。でも……

「少し、話せるか」

 リオネルは硬い声で誘う。

「はい」

 緊張しつつ彼の後ろについていくと、バルコニーの窓を開けてベランダに出て二人きりになった。彼は僕を真正面から見据えている。

「君を俺の事情に巻き込んでしまい申し訳ないと思っている。鉱山での盗掘や精錬所での警備を頼もうと思っていたが……」

 リオネルは僕の体を観察するように眺め、ため息をついた。

「流石に酷だろう。結婚してアファトナ領で暮らすことになったら、俺のことは気にせず自由に過ごして構わない」
「僕には警備を任せられないって意味ですか」
「兄上たちのようにはいかないだろう? 別に君を軽視しているんじゃない。金の窃盗団は屈強な集団だ。閣下の宝物を預かる身として、怪我をされては困る」

 僕には酷。預かり物。それらの言葉に、怒りよりも奮起する自分がいた。

「さて、それはどうでしょう。確かに僕を見て皆さん驚いていましたね。ただ……これでも部隊を任されていました。ベニトア家は、たとえ息子でも実力のない者に隊を任せたりしません」

 睨みつけると、反撃されると思っていなかったのかリオネルは少し驚いた顔をしている。僕は胸を張り右手で軽く心臓のあたりに触れた。

「ですが、見た目で判断する方には確かにピンとこないでしょう。ですから、ちゃんと実力を証明して見せます。それに、あなたにも色々と事情があるでしょう?」

 リンに扮していたリオネルを尾行していた男や、さっきの皇帝たちの態度。敵はそれだけじゃないかもしれない。町で会うことなく今の会話をしていたら、多分大嫌いになっていた。だけど、本当はちょっとだけ……本当に少~しだけ優しいのを知ってしまった。

「このオリヴィン・ベニトアが、未来の旦那様を守って差し上げますよ」

 にっこり笑うと、リオネルは嫌そうな顔をしている。

「旦那様だって……?」
「ええ。だって、このままいけば僕たち結婚するんでしょう?」

 リオネルは目を丸くしていて、なんだか面白くなってしまった。

「そこで、旦那様に提案です。僕らが嫌がっていたらあの人たちを喜ばせるだけです。ひとまず、友人として親交を深める気はありますか?」

 調子になってしまったかな。そう思いつつ返事を待っていると、わずかにリオネルの口元が緩んだ。

「そうだな。ここで喧嘩をしたら奴らの思う壺だ」

 リオネルの右手がスッと伸びてきた。

「お手をどうぞ、婚約者殿」

 僕は微笑んでその手を取る。そして、並んでホールへと戻っていった。



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