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私の名前はエリシュ。
ルドラー伯爵家の長女として産まれた。
伯爵家のお父様と子爵家のお母様はあくまでも政略結婚だったけど、そうとは感じさせない仲の良さで私と、三つ年上のお兄様は愛情をたっぷり受けて育てられた。
また使用人たちとの関係も良好で、変わらない日々の幸せを噛みしめていたある日のこと。
家族で訪れた森の中で倒れていた女の子を私がたまたま発見した。
やがて目を覚ましたその女の子――ルミナスはどうやら捨て子らしかった。
こんなところで倒れていたのも、空腹で食べるものを探して歩き回っていたらいつの間にか意識を失っていたのだとか。
そのことを不憫に思った私はお父様をなんとか説得し、やっと慈善事業の一環として行くあてのないルミナスを我が家の養子に迎えてもらった。
でもそこからは苦労の連続で、ルミナスに貴族としての最低限のマナーを身につけさせる段階で彼女は何度となくつまづいた。
家庭教師もさじを投げる中、血の繋がらない姉として私は根気強くルミナスに付き添った。
ずっと妹が欲しかったので多少手がかかってもそれすら楽しく、愛おしかったから。
そうしている内に最初はルミナスを養子にすることに良い顔をしなかった私以外の家族も、少しずつ彼女に優しく接するようになっていった。
ただ優しさはやがて過保護へと変わり、次第にみんながルミナスを甘やかすようになった。
これには私も困惑した。
愛情を与えることと甘やかすことは違うとついルミナスに厳しくしていたら、家族全員から叱責された。
溺愛される妹に嫉妬しているのだろうと使用人たちから聞こえるように陰口を叩かれ、すれ違う度に白い目で見られるようにもなった。
あれだけ愛に包まれていた私の日常は一変し、味方がいなくなった今では周りの人間から嫌悪と敵意しか向けられない。
一体私がなにをしたというのだろう……。
「それじゃあ出かけようか、ルミナス。足元に気をつけて」
「はーい、お父様。気をつけまーす!」
少しだけ空けた窓の隙間から優しげなお父様の声が聴こえる。
それに元気一杯に答えるルミナスの返事も。
声のした方を見れば、邸宅の玄関口に私以外の家族が集まっていた。
おめかしもしているし、きっとこれからみんなでお出かけでもするのだろう。
(いつものことながら私は呼ばれないけれど)
「ねぇお兄様、ルミナスのこの格好ルドラー家の人間として恥ずかしくないでしょうか?」
よそ行きの綺麗なドレスを着込んだルミナスがその場でくるんと回ってみせる。
「うん、問題ないよ。可愛いし、どこかの誰かと違ってルミナスはどこに出しても恥ずかしくない僕の自慢の妹さ」
お兄様が口にしたどこかの誰かとは、おそらく私のことに違いない。
(そう、お兄様は私のことを恥ずかしくてとても自慢のできない存在だと思っていたのね)
「ルミナスちゃん、いつも頑張ってるから今日はたくさんドレスや宝石を買ってあげるわね。貴方だっていつまでも姉のお下がりは嫌でしょう?」
お母様が言うように、私に与えられたドレスや宝石のほとんどはルミナスに取られてしまった。
(部屋だって奪われて、こうして私は邸宅の離れに無理やり押しやられてしまったわ。まるで愛人みたい)
「いいえお母様、ルミナスはドレスや宝石なんて別に欲しくありません。それよりも家族みんなで一緒にお出かけできることの方が嬉しいです!」
「おお、そうかそうか!」
「僕たちも嬉しいよ、君が我が家にきてくれて」
「本当にルミナスちゃんは素直でいい子ね」
そんなルミナスのいじらしい言葉に、お父様もお兄様もお母様も温かい笑顔を浮かべた。
そのみんなに当然私は含まれていないことには誰一人、気にも留めず。
だからこれ以上あの光景を見ていたくなくて、静かに窓を閉めた。
悲しくて涙しそうになるのを必死で我慢する。
(……どうしてこうなってしまったの? あの日彼女を見つけてしまったから? それともあの子を養子に迎えてほしいと私がお願いしたから?)
いくら考えても分からない。
私は確かにみんなから愛されていた。
でもそれは過去の話。
今の私はルドラー家にとって邪魔な存在だ。
きっとこの家に居場所はもうないのだろう。
でも幸いなことに、私にはまだ希望がある。
だからその時が訪れるまで今は耐え忍ぶのよ、エリシュ。
ルドラー伯爵家の長女として産まれた。
伯爵家のお父様と子爵家のお母様はあくまでも政略結婚だったけど、そうとは感じさせない仲の良さで私と、三つ年上のお兄様は愛情をたっぷり受けて育てられた。
また使用人たちとの関係も良好で、変わらない日々の幸せを噛みしめていたある日のこと。
家族で訪れた森の中で倒れていた女の子を私がたまたま発見した。
やがて目を覚ましたその女の子――ルミナスはどうやら捨て子らしかった。
こんなところで倒れていたのも、空腹で食べるものを探して歩き回っていたらいつの間にか意識を失っていたのだとか。
そのことを不憫に思った私はお父様をなんとか説得し、やっと慈善事業の一環として行くあてのないルミナスを我が家の養子に迎えてもらった。
でもそこからは苦労の連続で、ルミナスに貴族としての最低限のマナーを身につけさせる段階で彼女は何度となくつまづいた。
家庭教師もさじを投げる中、血の繋がらない姉として私は根気強くルミナスに付き添った。
ずっと妹が欲しかったので多少手がかかってもそれすら楽しく、愛おしかったから。
そうしている内に最初はルミナスを養子にすることに良い顔をしなかった私以外の家族も、少しずつ彼女に優しく接するようになっていった。
ただ優しさはやがて過保護へと変わり、次第にみんながルミナスを甘やかすようになった。
これには私も困惑した。
愛情を与えることと甘やかすことは違うとついルミナスに厳しくしていたら、家族全員から叱責された。
溺愛される妹に嫉妬しているのだろうと使用人たちから聞こえるように陰口を叩かれ、すれ違う度に白い目で見られるようにもなった。
あれだけ愛に包まれていた私の日常は一変し、味方がいなくなった今では周りの人間から嫌悪と敵意しか向けられない。
一体私がなにをしたというのだろう……。
「それじゃあ出かけようか、ルミナス。足元に気をつけて」
「はーい、お父様。気をつけまーす!」
少しだけ空けた窓の隙間から優しげなお父様の声が聴こえる。
それに元気一杯に答えるルミナスの返事も。
声のした方を見れば、邸宅の玄関口に私以外の家族が集まっていた。
おめかしもしているし、きっとこれからみんなでお出かけでもするのだろう。
(いつものことながら私は呼ばれないけれど)
「ねぇお兄様、ルミナスのこの格好ルドラー家の人間として恥ずかしくないでしょうか?」
よそ行きの綺麗なドレスを着込んだルミナスがその場でくるんと回ってみせる。
「うん、問題ないよ。可愛いし、どこかの誰かと違ってルミナスはどこに出しても恥ずかしくない僕の自慢の妹さ」
お兄様が口にしたどこかの誰かとは、おそらく私のことに違いない。
(そう、お兄様は私のことを恥ずかしくてとても自慢のできない存在だと思っていたのね)
「ルミナスちゃん、いつも頑張ってるから今日はたくさんドレスや宝石を買ってあげるわね。貴方だっていつまでも姉のお下がりは嫌でしょう?」
お母様が言うように、私に与えられたドレスや宝石のほとんどはルミナスに取られてしまった。
(部屋だって奪われて、こうして私は邸宅の離れに無理やり押しやられてしまったわ。まるで愛人みたい)
「いいえお母様、ルミナスはドレスや宝石なんて別に欲しくありません。それよりも家族みんなで一緒にお出かけできることの方が嬉しいです!」
「おお、そうかそうか!」
「僕たちも嬉しいよ、君が我が家にきてくれて」
「本当にルミナスちゃんは素直でいい子ね」
そんなルミナスのいじらしい言葉に、お父様もお兄様もお母様も温かい笑顔を浮かべた。
そのみんなに当然私は含まれていないことには誰一人、気にも留めず。
だからこれ以上あの光景を見ていたくなくて、静かに窓を閉めた。
悲しくて涙しそうになるのを必死で我慢する。
(……どうしてこうなってしまったの? あの日彼女を見つけてしまったから? それともあの子を養子に迎えてほしいと私がお願いしたから?)
いくら考えても分からない。
私は確かにみんなから愛されていた。
でもそれは過去の話。
今の私はルドラー家にとって邪魔な存在だ。
きっとこの家に居場所はもうないのだろう。
でも幸いなことに、私にはまだ希望がある。
だからその時が訪れるまで今は耐え忍ぶのよ、エリシュ。
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