今さら戻ってこいと言われても、私なら幸せに暮らしてますのでお構いなく

日々埋没。

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 私にはファーラム様という婚約者がいる。

 リクロ伯爵家の次男で実はまだ一度しかお会いしたことがないが手紙のやり取りは続けており、近い内に向こうの家に嫁ぐことになっていた。

 ただ最近では彼との手紙を交わす回数は減っていて、内容もどんどん事務的なものになっているのは少し気になる。

 でもあとちょっとだけ我慢をすれば、今の辛い環境から抜け出せる。

 そしてようやくその日がやってきたが、嫁入りする前にやることができてしまった。

 交流のある貴族たちを招き、サプライズで私とファーラム様の婚約パーティーが行われることになったのだ。

 なぜ今更ではなくパーティーなのかは疑問だが、それでもあの息苦しい生活からは解放されるとあって朝から私の心は晴れやかだった。

(……今日でこの離れともお別れね。ここに来てからは嫌な想いしかしていないけれど、いざ去るとなると感慨深いわ)

 将来の嫁入り衣装にとルミナスから守り抜いたドレスをどうにか一人で着付けた私は、そのままパーティーが行われる時間まで孤独に過ごした。

(遅いわね。なにかあったのかしら?)

 しかし日が沈んで夜になってもファーラム様がエスコートにくる気配がなく、仕方なく自らの足でパーティー会場に出向くことにした。

 途中で行き交う来客に挨拶しようかとも思ったが、なぜかこちらを冷ややかな目で見てくる上にヒソヒソ話までしているので気後れしてしまう。

 おおかた本日のメインがパートナーも連れずに一人で歩いている姿を見て変に思ったのだろう。

(気にしない、気にしない……。今日は私が主役なのだから)

 自分にそう言い聞かせながら、なんとか乾いた笑顔を浮かべる。

 そうしながらパーティー会場にようやくたどり着いた私は、さっそく婚約者の姿を探した。

(ファーラム様は、いない。きっと衣装合わせに時間がかかっているんだわ。……まさかと一緒じゃないわよね?)

 嫌な想像が頭をよぎったが、ルドラー家の席を見るとルミナスの姿があったのでホッとする。

(少し神経が過敏になっていたみたい。あの子とファーラム様に接点なんてないはずなのに)

 それからしばらくするとファーラム様もその姿を見せ、新郎側の席に座った。

 だから私も新婦側の席に座ろうとして――。

(……えっ?)

 トトトとルミナスが小動物のように歩き出し、あろうことか私の代わりにそのまま新婦側の席に座ってしまったのだ。

「そこは私の――」

「挨拶の前に、本日この場にお集まりの皆さま方に大切なお知らせがあります!」

 思わず抗議の声を上げようとした私の声を遮るように、ファーラム様が鋭く言葉を発した。

 そして次の瞬間ファーラム様は私のことを親の敵のように睨みつけて、信じらないような宣言をした。

「まずはエリシュ、君とは婚約破棄だ! そして僕は新たにこちらのルミナス嬢と婚約する!」

 彼のすぐ隣で勝ち誇ったように笑みを浮かべるルミナス。

 突然のことに頭が真っ白になりそうだった。

「お待ちくださいファーラム様、急に婚約破棄だなんて……⁉ 納得のゆくご説明をください!」

 抗議の声を上げたのは私だけ。家族は誰一人として問いただすことはしなかった。

「最低だな、君は。どうやらこれまで自分がしてきたことをまだ理解できていないようだな」

 ファーラム様はそう冷たく吐き捨てると、嫌悪をまるで隠そうとせずに語った。

「しらを切るつもりなら教えてやろう。君は醜い嫉妬心からルミナス嬢に酷い虐めをしていたそうじゃないか。嫌がる彼女に無理やりマナー教育を押しつけ、貴族として振る舞えないなら邸宅から出ていけと言って脅しつけたと聞いている!」

「そのようなこと決していたしておりません!」

「ではルミナス嬢が嘘をついているとでも?」

「い、いえ、ですがきっと妹の誤解で――」

「見苦しい言い訳だな」

 事実無根の言い草に反論しても、ファーラム様の反応は変わらない。

 だから更に身の潔白を訴えようとすると。

「これ以上恥の上塗りを続けるな!」

 今度はお父様が額に青筋を立てながらまさかの怒鳴り声を上げた。

「エリシュ、前々から怪しいとは思っていたが、やはり貴様は可愛い妹にそのように卑劣なことをしていたのだな! もういい、貴様は今日限りで勘当だ! 我が家はルミナスをのみとし、貴様には今後二度とルドラーの名を名乗ることは許さん! 即刻出ていけ!」

「まさかお腹を痛めて産んだ娘がこんな親不孝者だったなんて、恥ずかしくて情けないわ! もう二度と私たちに顔を見せないで頂戴!」

「可哀想なルミナスの代わりに、お前があの森に捨てられていればよかったんだ!」

 私が勘当? なぜそのようなことをされないといけないの。

 なにも悪いことをしていないのに。

 どうしてみんな、そんな汚いものでも見るかのような目で私を見るの?

「待ってお父様、お母様お兄様、お願いどうか私の話を聞いて――」

「うるさい! おい誰かそこの不届き者をこの場から連れ出せ、せっかくのルミナスのめでたい席が台無しだ!」

 なんとか弁明をしようとした私は、しかし使用人たちによって羽交い締めにされ、有無を言わさずパーティー会場の外につまみ出される。

 そのまま使用人たちから口々に悪口を言われ、私は泣きながらその場を後にした。

「捨てられたゴミはゴミらしくせいぜい路地裏で野垂れ死ぬんだな、ハハハハハ! ルドラー家はもちろんのこと、くれぐれもルミナス様に迷惑はかけてくれるなよ⁉」

 逃げ出した背中になおも浴びせられる酷い言葉は容赦なく自分の心をえぐっていき。

 ――こうしていとも簡単に私の思い描いていた最後の希望を失ったのだった。
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