今さら戻ってこいと言われても、私なら幸せに暮らしてますのでお構いなく

日々埋没。

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 私は泥と自分の涙で薄汚れたドレスだけを唯一の持ち物に、行くあてもなく日が落ちるまでただ市井をぼんやりと歩いていた。

 帰る場所はもうなくなった。

 路銀もなく、日々の生活どころか今日泊まる宿すら確保できない。

 ぐー、とお腹がなった。

 そういえばずっとなにも食べてないことを思い出すが、もちろん食べ物を買うお金はない。

 もういっそのことこの身を投げてしまおうか。

 そうだ、それがいい、これからのことをなにも悩むずにすむし、色々と疲れてしまった……。

 そんな風に自らの死に場所を求めて歩き回っていると、たまたま酒場の前を通りがかった。

 するとタイミングが悪いことに、中から赤ら顔のお酒に酔ったであろう男たちが出てくる。

「ヒーック、あれぇ、おいねぇちゃんなんちゅうカッコしてんだ、誘ってんのかぁ?」

「見たところいいとこのお嬢様みたいだけどダメだなぁ、お嬢様がこんなところに護衛もつけずに一人で来ちゃあよ。下々の世界にゃ俺たちみたいなわるーい大人がたぁくさんいるんだからよ」

「見た目も悪かねぇし、娼館にでも売っちまうかぁ? 高く売れそうだ。でもその前にとりあえず一度ヤッてからにすっけどなぁ(笑)」

 男たちは下卑た笑い声をもらしながら、私の腕を掴んですぐ近くの路地裏に連れ出そうとする。

「い、いやっ、やめて! 離して!」

「げへへ大人しくしろって、そう心配しなくても気持ちいいことしかしないから安心しろって!」

「だ、誰か、誰か助けて!」

 震える声でなんとか周囲に助けを呼ぶ。
 
 でも誰も見てみぬふりで、私はこれから自分が男たちにされるであろうおぞましい行為に恐怖で身を固くし――。

「……おいお前ら、いい加減その汚い手を離せ」

 声のした方を見るとそこには、まるで月明かりのような金色の髪が目を引く美しい男性がいた。

「酒の席でチップを弾んだ給仕相手に絡むのならまだしも、外でまで他人に迷惑をかける様は傍から見ていて不愉快極まりない」

 その男性は私を手込めにしようとする男たちを軽蔑の目で睨みつけながら、こちらにゆっくりと近づいてくる。

「ああん? なんだてめぇ、これからいいところだってのに邪魔すんなよ。それともなに、ホントは俺らと一緒に混ざりてぇんじゃねぇのか?」

「大の男が揃いも揃っていたいけな女性を囲って情けなくないのか。それともまだ飲み足りないのなら俺が代わりに酌をしてやるが?」

「なんだこいつ、かっこつけやがって! そんなに痛い目みたいならお望み通りにしてやるよ!」

 そう言って男の一人が目の前の向かって男性に殴りかかる。

 私はその先の彼の未来を想像して目をそらそうとしたが、

「ぐあぁっ!」

「な、なんだこいつ強ぇぐへぁっ!?」

 相手との人数差にものともせず、男性はすぐに二人を倒してしまう。

「飲んでばかりで己を鍛え上げることも知らないゴロツキ如きに遅れを取るほど俺は弱くないぞ」

 ……なんて強さなの。一瞬なにが起こったのかまるで分からなかった。

「さあ残るはお前だけだがどうする? このまま大人しく引き下がるのなら特別に一人は見逃してやってもいいが」

「い、いやだなぁアニキ、ほ、ほんの冗談ですよははは」

 私を捕まえていた男は愛想笑いをしながらパッと両手を離し、その場から逃げ出そうとする――フリをして服の後ろからナイフを取り出した。

「危ない!」

 思わず私は男性に注意を促した。

 あの男がナイフを手にしたのは私の方からしか見えていないはず。

「もう遅えよ! 死ねやぁぁぁああっ!」

 男がナイフを振りかざした瞬間、今度こそ最悪の結末が脳裏をよぎり、目をギュッと閉じる。

 しかし――。

「これで完全に正当防衛成立だな」

 ボソッとそんなつぶやきが聞こえたと同時に、「ぐぇっ!」という短い悲鳴。

 そして、周囲の物音が静かになった。

 恐る恐る目を開けると、地面に倒れているのは金髪の男性ではなくナイフで襲いかかったあの男の姿だった。

 どうやら私は助かった、らしい。
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