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「あっ……」
安心したら腰が抜け、その場に尻もちをついてしまった。
足がガクガクと震えて一人では立てない。
ついさっきまで死ぬ意志を固めていたというのにいざこのような目にあうとこれだ。
結局私は生き恥をさらしながらもまだ生きたいのだろう。
「……大丈夫か? どこか怪我はしてないか」
しばらく呆けていると優しく声をかけられる。
例の男性が私を心配して来てくれたのだ。
「い、いえ平気です。どこの誰かは存じませんがありがとうございます」
「気にするな。俺はたまたま現場を通りがかっただけで、あのまま君を見過ごしたら朝の目覚めが悪くなるからそうしたまでだ。……立てるか?」
「ええ、なんとか」
そう言って男性から差し出された右手を借りて立ち上がり、改めてお礼を述べることにした。
「私はエリシュ――と申します。見ず知らずの私を暴漢の魔の手から助けてくださってありがとうございました」
危うくルドラーの家名までつい名乗ってしまうところだった。
私は勘当されたのだ、もうエリシュ・ルドラーではなくただのエリシュでしかないのに。
「……君の身なりを見る限りどこぞの貴族令嬢とお見受けするが、側に従者もいないその様子ではなんらかのトラブルに巻き込まれたのだろう? このような時間に女性を一人で帰らせるわけにもいくまい。俺で良ければ家に送っていこう」
なんて察しの良い人なのだろう。
貴人とは到底呼べないこのようなみすぼらしい格好にも関わらず、まさかそこまで見抜かれるとは思わなかった。
「……いいえ、それには及びません。私は本日父に勘当を告げられて実家からも追放されましたので、二度と帰ることはできません。ですから申し訳ないのですが、貴方になにか謝礼をしたくても私個人の力では残念ながら叶わないのです」
「そんなつもりで言ったわけではないのだがな……」
打算や恩を売るのが目的ではなくこちらを心配し、あくまで紳士としてそう申し出てくれたのは、彼の真面目な色を帯びた瞳を見ればわかる。
でもこちらの事情が事情なので、それだけは彼に伝えておかなければならなかった。
そして、これ以上甘えるわけにはいかないことも。
「では私はこれで。あの本当にありがとうございましたわ」
最後にもう一度お礼を述べてからそそくさとその場を去ろうとすると、「待て」と止められる。
「行くところがないのだろう? もし一人暮らし男の家に抵抗がないのであればウチにくるといい。簡易な雨のしのぎ場所くらいなら用意してやれる。そこまで君の事情を聞いておきながら見捨てるのはこちらとしても夢見が悪いのでな」
「ありがたい申し出ではあるのですが、そこまでご厄介になるわけには……」
「気にするな、あくまで俺の勝手な都合だ。それにもちろんタダではない。君に衣食住を定義する代わりにその体で返してもらう」
「か、体で?」
それってつまり、そういうこと?
「ああ、誤解するな。きちんと君にも出来る範囲で働いてもらうと言う意味だ。もちろん人買いに売るつもりもないから安心してほしい」
ホッ。どうやら自分の早とちりだったらしい。
同時にはしたない想像を抱いたことを恥じる。
「そういうことであれば……」
ただ、正直役に立てる自信はない。
せめて最低限身の回りのお世話くらいはできるだろうか。
「決まりだな。俺の名はマルクス。よろしく頼む」
「こ、こちらこそよろしくお願いいたします」
周囲から溺愛される妹とは対称的にこれまでのすべてを失った私は、こうして新たに彼――マルクスとの運命的な出会いを果たしたのだった。
安心したら腰が抜け、その場に尻もちをついてしまった。
足がガクガクと震えて一人では立てない。
ついさっきまで死ぬ意志を固めていたというのにいざこのような目にあうとこれだ。
結局私は生き恥をさらしながらもまだ生きたいのだろう。
「……大丈夫か? どこか怪我はしてないか」
しばらく呆けていると優しく声をかけられる。
例の男性が私を心配して来てくれたのだ。
「い、いえ平気です。どこの誰かは存じませんがありがとうございます」
「気にするな。俺はたまたま現場を通りがかっただけで、あのまま君を見過ごしたら朝の目覚めが悪くなるからそうしたまでだ。……立てるか?」
「ええ、なんとか」
そう言って男性から差し出された右手を借りて立ち上がり、改めてお礼を述べることにした。
「私はエリシュ――と申します。見ず知らずの私を暴漢の魔の手から助けてくださってありがとうございました」
危うくルドラーの家名までつい名乗ってしまうところだった。
私は勘当されたのだ、もうエリシュ・ルドラーではなくただのエリシュでしかないのに。
「……君の身なりを見る限りどこぞの貴族令嬢とお見受けするが、側に従者もいないその様子ではなんらかのトラブルに巻き込まれたのだろう? このような時間に女性を一人で帰らせるわけにもいくまい。俺で良ければ家に送っていこう」
なんて察しの良い人なのだろう。
貴人とは到底呼べないこのようなみすぼらしい格好にも関わらず、まさかそこまで見抜かれるとは思わなかった。
「……いいえ、それには及びません。私は本日父に勘当を告げられて実家からも追放されましたので、二度と帰ることはできません。ですから申し訳ないのですが、貴方になにか謝礼をしたくても私個人の力では残念ながら叶わないのです」
「そんなつもりで言ったわけではないのだがな……」
打算や恩を売るのが目的ではなくこちらを心配し、あくまで紳士としてそう申し出てくれたのは、彼の真面目な色を帯びた瞳を見ればわかる。
でもこちらの事情が事情なので、それだけは彼に伝えておかなければならなかった。
そして、これ以上甘えるわけにはいかないことも。
「では私はこれで。あの本当にありがとうございましたわ」
最後にもう一度お礼を述べてからそそくさとその場を去ろうとすると、「待て」と止められる。
「行くところがないのだろう? もし一人暮らし男の家に抵抗がないのであればウチにくるといい。簡易な雨のしのぎ場所くらいなら用意してやれる。そこまで君の事情を聞いておきながら見捨てるのはこちらとしても夢見が悪いのでな」
「ありがたい申し出ではあるのですが、そこまでご厄介になるわけには……」
「気にするな、あくまで俺の勝手な都合だ。それにもちろんタダではない。君に衣食住を定義する代わりにその体で返してもらう」
「か、体で?」
それってつまり、そういうこと?
「ああ、誤解するな。きちんと君にも出来る範囲で働いてもらうと言う意味だ。もちろん人買いに売るつもりもないから安心してほしい」
ホッ。どうやら自分の早とちりだったらしい。
同時にはしたない想像を抱いたことを恥じる。
「そういうことであれば……」
ただ、正直役に立てる自信はない。
せめて最低限身の回りのお世話くらいはできるだろうか。
「決まりだな。俺の名はマルクス。よろしく頼む」
「こ、こちらこそよろしくお願いいたします」
周囲から溺愛される妹とは対称的にこれまでのすべてを失った私は、こうして新たに彼――マルクスとの運命的な出会いを果たしたのだった。
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