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一匹狼も楽じゃない
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No side
下校時間の30分前になった頃、風紀室を訪問する者がいた。
都島煌牙。
少し目尻のつり上がった目。くすんだ金髪は短く、所々跳ねており、その両耳にはシルバーをベースにしたピアスがいくつか着いている。いつでも仏頂面を浮かべて歩いているのが普段の彼だ。
彼は1年生の間では有名な、いわゆる一匹狼である。
高等部進学とともにこの学園にやってきた外部生であり、クラスメイトの誰とも馴れ合わない独り者。釣り上がった目と恵まれた体格も相まって恐れられる彼はクラスメイトのみならず同じ学年の生徒達からも敬遠されている。
しかし、不良だと恐れられる反面、顔が整っているため密かにファンも多かったりする。
その都島は風紀室の扉に手を掛け──────直前でハッとして一度下がった。そして、扉から引っ込めた手を頭へ持っていき、いそいそと髪をいじって整える。よし、と小さく呟いて再度扉に手を掛けた。ノック無しで風紀室の扉を開けた都島は、中にいる人物を一番に見つけ先程までの仏頂面など嘘のように嬉しそうに頬を緩める。
「都島、おかえり」
ふっ、と中にいた人物、龍神瑚珀が微笑んだ。風紀室に温かい空気が流れる。
ああこれだ、と都島は目に見えない尻尾をブンブンと振った。この、龍神の安心感、包容力がなんとも都島を幸せにするのだ。
「都島君、ノックはして下さいね」
しかし完全に無視されていた亘がにっこりと黒い笑みを浮かべて一言注意したことで、場に流れていた優しい雰囲気は消し飛んだ。
「……す、みません」
都島はきまり悪そうに小さく返事して、龍神に向き直る。そして真剣な面持ちになると、徐に口を開いた。
「報告します」
「───以上です」
「ん、ご苦労だった」
都島が話し終えると龍神は彼を労い、そして片目を細めた。
「いつも悪いな。一緒に行動し続けるのは大変だろう」
「……まあ、そうっすね」
龍神の言葉に思い当たる節があるらしく、都島は少し顔を歪めた。
でも、と顔を上げる。
「委員長の為なんで……大丈夫、です」
そう言ってかあっと頬を染め上げる。言いながら恥ずかしくなったのか、後半はかなり小さい声になっていた。直視出来なくなった都島は龍神から目を逸らす。
すると何かがふわりと近づく気配がして、都島は顔を上げた。
「いつもありがとう、都島」
頭に優しく手が乗った。
「なっ……」
「ふっ、可愛いな」
目を見開いて驚く都島を見て、龍神はくすりと笑う。その顔は悪戯が成功した子供のように嬉しそうで、そのまま何度も手がぽんぽんと上下した。都島は思わず赤面する。
可愛いのはあんただよ。
可愛いのはあなたです。
これまでで初めて、風紀室にいた都島と亘の心情が一致した瞬間だった。
ここまでで多くの人はもう分かるだろうが、都島煌牙は風紀委員である。
彼は入学早々、その見た目から二、三年の不良に絡まれて返り討ちにした所を龍神に見られ、入学三日目にしてスカウトで風紀委員会入りした風紀委員会期待の新人だ。少し素っ気ないが、唯一の一年という事で風紀委員の中では可愛がられている。一般的には、彼が風紀委員に入っていることは風紀委員と一部の生徒しか知らない。
そして現在、都島は風紀として転校生である藍野純の監視及び行動の抑制を担当している。
龍神とて、転校生相手に何もしなかった訳では無い。当初は支援ということで彼と同じクラスの都島に気にかけてやってくれと指示を出していたのだが、予想以上に藍野が色々やらかすので暴走しないように側についてやってくれないかと急遽指示内容を変更して頼んでいた。
その指示を承諾した都島は、藍野が転校してきた翌日に彼に心酔────したように見せかけて彼の側に常に控える事にした。
……最近は都島一人で転校生を制御することが難しくなっているが。
こうして日々転校生と行動を共にすることとなった都島は、毎日放課後に龍神の元へ報告に来ている。
誰とも馴れ合わないとされていた都島が転校生にべったりになったので、一部の生徒はかなりショックを受けているようだった。だから、
「都島煌牙が転校生に惚れたらしい」
という噂が生徒の間に広がるのにそう時間は掛からず、今では皆が共通の話として信じている。
当然、事実はまるで異なる。
都島は龍神を強く慕っている。そこには彼の立場や優れた能力も理由に含まれているが、ただのいち後輩が先輩に向ける感情以上のものが含まれている事もまた確かだ。
なお、都島本人に自覚はない。
しかし、転校生といることで龍神になかなか会えず密かに沈んだ気分になっていることが何よりの証拠とも言えるだろう。それこそ遠距離恋愛で中々彼氏に会えない彼女のようだったと近くにいた風紀委員は証言した。
おまけに相手は天下の風紀委員長。都島にとっては雲の上の存在だ。
かくして。
一匹狼、都島煌牙の受難はまだまだ続きそうだった。
因みに余談だが、龍神、亘、都島の3人は風紀委員達に陰でお父さん、お母さん、息子、などと呼ばれている事を本人達は知らないのだが、それはまた別の話。
下校時間の30分前になった頃、風紀室を訪問する者がいた。
都島煌牙。
少し目尻のつり上がった目。くすんだ金髪は短く、所々跳ねており、その両耳にはシルバーをベースにしたピアスがいくつか着いている。いつでも仏頂面を浮かべて歩いているのが普段の彼だ。
彼は1年生の間では有名な、いわゆる一匹狼である。
高等部進学とともにこの学園にやってきた外部生であり、クラスメイトの誰とも馴れ合わない独り者。釣り上がった目と恵まれた体格も相まって恐れられる彼はクラスメイトのみならず同じ学年の生徒達からも敬遠されている。
しかし、不良だと恐れられる反面、顔が整っているため密かにファンも多かったりする。
その都島は風紀室の扉に手を掛け──────直前でハッとして一度下がった。そして、扉から引っ込めた手を頭へ持っていき、いそいそと髪をいじって整える。よし、と小さく呟いて再度扉に手を掛けた。ノック無しで風紀室の扉を開けた都島は、中にいる人物を一番に見つけ先程までの仏頂面など嘘のように嬉しそうに頬を緩める。
「都島、おかえり」
ふっ、と中にいた人物、龍神瑚珀が微笑んだ。風紀室に温かい空気が流れる。
ああこれだ、と都島は目に見えない尻尾をブンブンと振った。この、龍神の安心感、包容力がなんとも都島を幸せにするのだ。
「都島君、ノックはして下さいね」
しかし完全に無視されていた亘がにっこりと黒い笑みを浮かべて一言注意したことで、場に流れていた優しい雰囲気は消し飛んだ。
「……す、みません」
都島はきまり悪そうに小さく返事して、龍神に向き直る。そして真剣な面持ちになると、徐に口を開いた。
「報告します」
「───以上です」
「ん、ご苦労だった」
都島が話し終えると龍神は彼を労い、そして片目を細めた。
「いつも悪いな。一緒に行動し続けるのは大変だろう」
「……まあ、そうっすね」
龍神の言葉に思い当たる節があるらしく、都島は少し顔を歪めた。
でも、と顔を上げる。
「委員長の為なんで……大丈夫、です」
そう言ってかあっと頬を染め上げる。言いながら恥ずかしくなったのか、後半はかなり小さい声になっていた。直視出来なくなった都島は龍神から目を逸らす。
すると何かがふわりと近づく気配がして、都島は顔を上げた。
「いつもありがとう、都島」
頭に優しく手が乗った。
「なっ……」
「ふっ、可愛いな」
目を見開いて驚く都島を見て、龍神はくすりと笑う。その顔は悪戯が成功した子供のように嬉しそうで、そのまま何度も手がぽんぽんと上下した。都島は思わず赤面する。
可愛いのはあんただよ。
可愛いのはあなたです。
これまでで初めて、風紀室にいた都島と亘の心情が一致した瞬間だった。
ここまでで多くの人はもう分かるだろうが、都島煌牙は風紀委員である。
彼は入学早々、その見た目から二、三年の不良に絡まれて返り討ちにした所を龍神に見られ、入学三日目にしてスカウトで風紀委員会入りした風紀委員会期待の新人だ。少し素っ気ないが、唯一の一年という事で風紀委員の中では可愛がられている。一般的には、彼が風紀委員に入っていることは風紀委員と一部の生徒しか知らない。
そして現在、都島は風紀として転校生である藍野純の監視及び行動の抑制を担当している。
龍神とて、転校生相手に何もしなかった訳では無い。当初は支援ということで彼と同じクラスの都島に気にかけてやってくれと指示を出していたのだが、予想以上に藍野が色々やらかすので暴走しないように側についてやってくれないかと急遽指示内容を変更して頼んでいた。
その指示を承諾した都島は、藍野が転校してきた翌日に彼に心酔────したように見せかけて彼の側に常に控える事にした。
……最近は都島一人で転校生を制御することが難しくなっているが。
こうして日々転校生と行動を共にすることとなった都島は、毎日放課後に龍神の元へ報告に来ている。
誰とも馴れ合わないとされていた都島が転校生にべったりになったので、一部の生徒はかなりショックを受けているようだった。だから、
「都島煌牙が転校生に惚れたらしい」
という噂が生徒の間に広がるのにそう時間は掛からず、今では皆が共通の話として信じている。
当然、事実はまるで異なる。
都島は龍神を強く慕っている。そこには彼の立場や優れた能力も理由に含まれているが、ただのいち後輩が先輩に向ける感情以上のものが含まれている事もまた確かだ。
なお、都島本人に自覚はない。
しかし、転校生といることで龍神になかなか会えず密かに沈んだ気分になっていることが何よりの証拠とも言えるだろう。それこそ遠距離恋愛で中々彼氏に会えない彼女のようだったと近くにいた風紀委員は証言した。
おまけに相手は天下の風紀委員長。都島にとっては雲の上の存在だ。
かくして。
一匹狼、都島煌牙の受難はまだまだ続きそうだった。
因みに余談だが、龍神、亘、都島の3人は風紀委員達に陰でお父さん、お母さん、息子、などと呼ばれている事を本人達は知らないのだが、それはまた別の話。
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