笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

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好意の矛先

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龍神side


「瑚珀ー!!来てやったぞっ!!!!」




 …意味が分からない。何でこうなるんだ。



「……亘」


「委員長、これは現実なので逃避するのはやめてください」



 これは夢か何かなのかと思い隣を見ると、疲れたような笑みを浮かべた亘に一瞬で希望を摘み取られる。どうやらこれは夢でも、俺だけに見える幻覚でもないらしい。

 仕方なく、現実と向き合うことにした。

 
「…………俺に何か用か?──藍野」


 
「純って呼べよ!!!俺だって瑚珀って呼んでるだろっ!!」

 
 用件を尋ねたが会話にならず逆ギレされる。どういう理論なんだ、それは。
 そしてそもそも俺は、下の名前で呼んで欲しいなんて頼んでいないんだがな…。

 ため息を堪えながら書類をまとめ、机の端に置いた。なるべく穏やかに、だが簡潔に説明する。

 
「俺は基本的に人を苗字で呼ぶ。名前で呼ぶのは親しい間柄の相手だけだ」



 余談だが、友人に当たる響は本人から飛鳥あすかはやめろと言われているので名前呼びはしていない。また、双子である生徒会庶務の綿谷兄弟は苗字が被るのでやむなく名前で呼ぶ事があるが、親しくはない。

 


「じゃあ俺の事は純って呼べるな!!俺達親友だろ!」


 

 待て。何故そうなる。

 
 俺は今君とは親しくないから名前で呼べないとかなり直接的に伝えたつもりだったんだが。

 非常にやりにくい。あまり接点がない状態でこんなことを言うのは失礼かもしれないが、俺は藍野とは相性が合わないのかもしれない。俺のような口下手の相手が我が道を突き進むタイプの人間と話すと完全に話が成立しない。

 
 …………仕方ない、ここは対価交換としよう。


 俺は机に軽く身を乗り出して藍野の体を引き寄せ、耳に口を近づけた。

 
 
「っ?!」

「俺は前に君に言っただろう?置かれている立場を考えることと、自分の行動や言動を見直せと。生徒会連中は変わる事にしたみたいだが、君はまだ変われていない。現に、敬語が不十分だ」

 
 
 そこで一度区切り、俺は更に続けた。


 
「俺に名前を呼んで欲しいなら、まずは君が良い子にならなければならない」

 
 分かるな?


 という意味を込めて薄く笑めば、藍野がぼっーと惚けたように俺の目を見る。



……ん?なんだ、やけに反応が薄いな。



 さすがに名前を呼ぶということだけで変われと言うのは無茶だったか?と内心首を傾げる。すると直後藍野がハッと我に返り復活した。


 
「分かった!!あ、じゃなくて、分かりました!俺頑張る!!!!!」

 

 ガバッと頭を上げてそう訴える藍野の顔は、何故か赤い。


 
 怒っているのか興奮しているのかはたまた体調不良か…………よく分からないな。


 
「……ああ、期待している」


 

 とりあえず意欲はあるようなのでそう答えておく。こんなことで変わるならそれがいい。



と俺は呑気な事を思っていたのだが、次の瞬間、その続きの一言に耳を疑った。


 

「うん、あ、はい!!
 
 あ、それで、もし俺が良い子になったら、

 俺と付き合って!ください!!」






………ん?





「は?」


 

 
 一瞬、隣で作業していた亘から底冷えするような低い声が聞こえた気がしたが、今はそれを気にしている場合では無い。


 
 いや待て、付き合うという意味が違う場合もある。

 
 落ち着け。


 動揺が表に出ないように浅く息を吸う。極力感情を出さないように尋ねる。


 
「一応聞くが、付き合うというのは……どこかの場所に一緒に行くという意味か?」

 
「いや!!俺と恋人になって欲しいっていうことだ!!です!!」


 
 
 あっけなく願いが散ったな。


 
 それにしても、こ、恋人か……それは、すごく困る。

 



「俺と君は、今までそんな間柄になるほど接点が無いはずだが……」



「でも俺、ほんとに好きになったんだ!」





 話が平行線を辿る。



 何が引き金になったのか分からないが、どうやら俺は自分でも知らぬ間に選択を間違えたらしい。

 困ったな、俺は同性愛に偏見は無いが、そういうのは自分には無縁だと思っていた。今まではどちらかというと風紀委員長という肩書きから憧れで好意を伝えられていたように思うのだが、こんなふうに会って間もない時に、これほどストレートに付き合ってくれだなんて言われたことがないので答え方に困る。

 
 どう断ればこいつは納得するんだろうか。

 
……だめだ、分からない。



 
 
「とにかく、そういうことだからっ!!」




 
 途方に暮れる俺をよそに、言うことを言った藍野は慌ただしく風紀室から出ていった。後には呆然とする俺と冷気を放つ亘しか残らなかった。






……なんというか、本当に嵐のような奴だな。
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