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しおりを挟む綱引きはどうやら白組が勝ったらしく、戦況はかなりもつれ込んでいた。まだ俺達赤組がリードしてはいるものの、非常に僅差なためあと一回負ければ確実に逆転されてしまうだろう。
そんな分析をしている間に次の競技が始まった。
「次の競技は、体育祭の戦争の一つ、バーゲンセールです!知らない方もいると思うのでちょっと説明を分かりやすくしますね。えーと、この競技は両サイドにチームが分かれ、スタートの合図でグランド中央に置いてある大小のタイヤを取り合うというものです!大きいタイヤが10ポイントで、小さいタイヤが5ポイントとなっているポイント制の競技で、より多くのポイントをゲットした方が勝ちとなります!」
「例年この競技は熾烈な争いが繰り広げられるんですよね、生口部長!」
「はい、それはもう。騎馬戦に次ぐ大戦と言われていますから」
バーゲンセールは毎年降魔で行われている競技で、高校によってはタイヤ取りとも言われるらしい。ただただタイヤを奪うだけだと思うかもしれないが、同じ力対決の綱引きとは違ってごたつくので、競技をしている側からすればさながら戦場なのだろう。俺は出たことがないが。
合図が下され、東西に分かれた赤組と白組が一斉に走り出す。あっという間にタイヤにみんなが掴みかかってあちこちで奪い合いが始まった。
「痛い痛い!!おい誰か踏んでる!!」
「くそっ、数でかかってきてるぞこいつら!」
「応援呼べ応援!」
悲鳴と怒号が飛び交う中、見知った顔が奮闘しているのが見えた。
「ちょっ、みんな容赦なくないっ!?」
生徒会会計の遠山だ。普段はヘラヘラしているが流石にあの混乱の戦場で笑う余裕はないらしく、揉みくちゃになりながら叫んでいた。タイヤを両手で死守しようとしている遠山の周りには、その遠山を守ろうとする親衛隊がいて、なんだかこんな状況だが笑ってしまいそうだ。背後に控えた彼らは後ろに倒れそうになる遠山をすかさず数人がかりで支えたりしている。
「会計様を何としてもお守りするぞ!」
「はいっ!!」
親衛隊も大変だな。まるっきり護衛に徹している。
それにしても、いつもはランキング上位者相手に悲鳴をあげて遠巻きに見ているだけなのに、こういう行事ではみんなそんなことあまり気にしていないな。これもバーゲンセールの効果だろうか。
頑張れ遠山隊、と心の中で応援しながら視線を外すと、他のところより大きな塊が見えた。少し目を細めてじっと見て、やがて人混みの中にちらりとブロンドの髪を認めた。合点する。
あれは多分、1Sの担任で生徒会顧問の宮永遊真先生だろう。
この体育祭、全てではないが、一部の競技では教師も余興的なノリで参加することになっている。教師は生徒会が勝手に選抜したらしいが、宮永先生は多分生徒会連中に問答無用で出場させられたのだろう。
「チッ、なんで俺がこんな面倒なことに……って、おいこら危ねえな、転けんなよ」
宮永先生は見目が派手なので誤解されやすいが、決して生徒たちを蔑ろにすることはない。今も、文句を言いながらもしっかりとタイヤを引っ張っていて、さりげなくバランスを崩しかけた生徒を片手で助けてたりしているので、単純に不器用なだけなのだと俺は思う。
俺は風紀委員なので先生との接点はあまりないのだが、たまに生徒会室で鉢合わせると世間話をしたりする。特に、生徒会連中が機能していなかった4月5月あたりでは俺が代わりに生徒会の仕事を請け負っていたこともあり、かなり感謝されてしまった。先生にも生徒会顧問として膨大な量の仕事が回っていたらしい。
「生徒会絶対許さねぇ!」
叫ぶ宮永先生に隣に座っていた西連寺がふっ、と微笑を浮かべた。
「運動する良い機会になったろ」
いや、休ませてあげてくれ。
「俺はな、お前ら生徒会が仕事終わらせて帰った後も色々やってんだよ!なのに乾と樋口以外俺相手に敬語も使わねぇしどうなってんだ生徒会!!!もっと俺を大事にしろ!」
「どうでも良いこと言ってねぇでタイヤ守れ」
「なんか最後のセリフ、面倒臭い彼女みたい」
西連寺も響も、宮永先生に対するコメントが厳しすぎる。何か恨みでもあるのだろうか。
ちなみに、先生の苦労もあってかバーゲンセールは赤組が勝った。宮永先生には今度何か甘いものでも渡すべきかもしれない。
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