笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア

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No side




「………亘お前、やったな」






 借り物競争から帰って来た亘に、風紀委員会特設のテントで待機していた佐藤が真顔で言った。





 __ああ、やっぱり。





 亘はテント内の椅子に掛けていたタオルで汗を拭きながら目を伏せる。




「元はああいう性格なんですよ。

 ………騙すつもりはなかった、とは言いません。本来なら卒業までこれでやっていくつもりでしたから」





 亘はそう言って、タオルを綺麗に畳んだ。佐藤とは同じ風紀委員として、そしてクラスメイトとして友好関係を築けていると思っていたが、それもここで終わりか、と亘は諦観する。素を出した時からある程度予想していたが、思ったより効果が早かった。






 佐藤が亘に詰め寄り、両手で肩を掴んでくる。亘は次に来るのは暴力か、はたまた暴言のどちらだろうと身構える。




 どちらでも、避ける気はない。素を隠して接せられるのは、誰だって気分が良いものではない。裏切りだと捉えられても仕方なかった。




「亘、お前な………」






 佐藤が目を釣り上げる。すう、と息を吸うのが聞こえた。








 怒号が響く。










「委員長を横抱きとか、何かっけぇことしてんだチクショウっ!!!!!」










「………は?」

 







 黙って受け入れようとしていた亘は予想外の言葉に思わず間抜け面を晒してしまった。その間にも佐藤の妬みは止まらない。




「会長と図書委員長に挟まれて困る委員長のもとに颯爽と現れて横からお姫様抱っことか少女漫画かよくそぅ!!あんな至近距離で委員長の照れ顔見れるとか!!マジ!!くそ!!」







 唖然として周りを見ると、同学年の井上もうんうんと頷いている。そこで亘はようやく理解した。





 そうだ、この組織は委員長馬鹿で構成されているんだった、と。




 思わず悟りを開いたような顔をすると、佐藤がそれに目ざとく気が付いてケッ、という顔をする。




「お前委員長の前とそうじゃない時で態度違いすぎるし、腹黒なのは気づいてたわ。まさか一人称俺だとは思わなかったけどさ」



「は………」



「どう見ても、僕、とか言って裏ですげぇドSなことして来そうだろ」






 飄々と語る佐藤に、後ろの井上も会話に乗っかる。




「僕はちょっとびっくりしましたけど、副委員長が俺って言うのなんか新鮮で……いやでも死ぬほどかっけぇ!です!」


「それな、同意したくないけど、悔しいくらいかっけぇんだよなぁくそイケメン滅べよ………つか井上もしかしてツートップ推しなん?めちゃテンション上がってたけど」


「そりゃあもう風紀委員なら副委員長の参戦は興奮しますよ!!!」


「あ、それさっき通りすがりの腐った連中がおんなじこと言ってたぞ。風紀CP来たぁー!とかなんとか」


「え?僕は腐ってませんからね?ただの風紀ガチファンなだけで…でもその人たちの気持ちは分かります」


「腐った奴らより変人だな、うん知ってた。まあ、そいつらの一人、『最初は絶対風紀委員長が攻めだと思ってたんだけどなぁ』って言ってたけど」


「は?誰ですかその人。佐藤、今すぐ名前を教えなさい」







 流石に聞き逃せない発言に堪らず亘が割り込む。もちろん名前を教えてもらった後は特定次第処罰する気である。



「いや俺も知らんやつ。多分一年じゃね?」


「外見、声、身長などの特徴は?人によってはかなり特定できるでしょう?」


「わーお物騒」





 いつもと変わらない、軽口を混ぜた会話。その応酬に参加しながら亘はつい微笑を溢した。





 やはり、あの人が築き上げた組織だ。






 飼い主に似るというか、なんというか。ちょっとやそっとでは揺らがないところが、そっくりだ。

 ふ、と自然に口元が緩む。そんな亘をよそに、井上が何かを思い出したようにハッとした。



「あ、そういえば僕、さっき自前の一眼レフで委員長と副委員長の写真撮ったんですけど見てください!!結構上手くないですか?!」


「何?!…………井上」


「………はい、佐藤君」


「お前は天才だ。ってことでいくらだ?ぜひ買おう」


「ふふ、佐藤君ならそう言ってくれると信じていましたよ……」


「金銭のやり取りは清らかにお願いしますよ」





 亘が悪い顔で笑い合う同期を呆れたように見ながら注意していると、不意に肩口から覗き込まれた。





「みんなで揃って何をしているんだ?」




「「うわっ!!!!」」





 振り返ると、そこには不思議そうに目を瞬かせる龍神が立っており佐藤と井上は二人して叫び声を上げた。どうやら貸していた靴下を無事履き終えたらしい。亘は気配で気が付いていたようで、澄ました顔をしている。二人が物言いたげに彼を見るが知らんふりだ。


「いえその、思い出に写真を撮ったのでみんなで見てまして!」



 井上がにっこりとして言いながら、龍神に写真を持たせる。横抱きにされて驚いている龍神と、彼に笑いかける亘の二人を綺麗に写した一枚だ。受け取った龍神はそれを見て顔をしかめた。



「………よりにもよってというか、何故この場面なんだ」




 耳が赤い。龍神にとって後輩に横抱きにされたことは恥ずべきことらしく、少し火照った顔でムッとしながら写真から目を逸らした。





 やだかわいい何この生き物受けに決まってるよこんなん。





 佐藤と井上は龍神から見えない位置でそっと拳を握り合った。何やら目で会話して、頷き合う。





 行け、亘!!





 行け、副委員長!!






 熱烈な視線を送られた亘は怪訝そうな顔をして彼らを見つめ返した。が、途中で彼らの視線がどういうものか分かったらしく、嘆息した。その態度に佐藤と井上は、ああダメかと残念がる。




「本当、委員長の言う通りです」






 龍神に近づいた亘は、彼から写真を取り上げる。指の間で器用に写真を挟み、目を細めた。





「ここは、俺が委員長にキスをした場面でないと」







 ですよね、委員長?と微笑むと一気に亘の笑みが妖しいものになる。トドメのように亘が耳元に顔を近づけ、


「やはり委員長は表情豊かですね。いつもは俺ばかり調子を狂わされていますから……仕返し、とでもいうところでしょうか」




 と言えば龍神は真っ赤になりながらプルプルと肩を震わせて、

 「もう戻る!」

 と返し去ってしまった。一連の流れを見た佐藤と井上はおお!と感心する。あまりに鮮やかな手際すぎて、どことなくアダルトな雰囲気を感じ取った佐藤は思わず尋ねてしまった。



「亘お前、もしかして非童貞」


「口を慎め」


「今素だっただろ絶対!!」


「もうどうせバレているのですからいっそのこと出してしまおうかと思いまして。まあ、今のは佐藤があまりに馬鹿げた質問を投げてきたので漏れ出ただけですが」


「てかやっぱお前S………」


「井上君、私と一緒に佐藤を黙らせませんか?」


「え………はい!!」


「井上お前もうすげぇよ」







 きっとずっと。







 風紀委員会には、変わらない平和が続く。






 亘には、そんな気がしていた。
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