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しおりを挟む龍神side
衝動的に風紀のテントから飛び出してしまったが、あれは亘が悪い。先輩をいじめるのは勘弁してほしい。
久しぶりに亘が俺、という一人称で話しているのを見て、油断したのかもしれない。出会った頃の亘は後輩らしい初々しさがあったからな。
それが今では俺を揶揄い、俺の知らない顔を見せるようになるなんて、俺はこの変化を喜ぶべきなのか悲しむべきなのか分からない。
複雑な心境で召集場所に待機する。余韻に浸る間も無く俺の出場競技、障害物競争の時間が迫っていた。
ざわざわとした集団の中で一人合図を待っていると、見知った顔に声をかけられた。
「あら、瑚珀ちゃんじゃない!!あなたも出るのね!」
「天沢もか」
美化委員長の天沢だ。周りに友人らしき生徒を連れており、その全員が小柄で愛らしい見目をしていた。一般的にチワワと言われる生徒達だろう。
「やだもうワクワクしちゃうわぁ、瑚珀ちゃんの姿も見れちゃうなんて!!」
「…?、別に俺の姿なんかいつでも見れるだろう」
「違うわよぉ、特別な姿が見れるじゃない!!」
バシバシと天沢が俺の肩を叩いてくる。なかなか力が強くて思考が整理できないんだが、一体特別な姿とは何のことなのか。
しかし、その時ちょうど召集の笛が鳴って意識がそちらにずれた。
「あら、もう行かなくちゃ。楽しみにしてるわね!」
「待て、なんのことか分からな………もう行ってしまったか」
引き止めて聞こうとしたのだが、天沢は笑顔で去っていってしまった。
まあ、いいか。いずれ分かるだろう。
と思っていたのがさっき。
競技が始まって俺は、やっとこれがどういう競技なのか思い出した。
「続いて姿を現したのは5レーン、その格好は……… おっと、これは戦国武将ですね!!なかなか様になっていますが走るには少し重いですかねー。あ、2レーンは……ナース服です!!いやー可愛いですね!!」
「そう!そうなんだよこれクソ重いって!!」
「なんか司会の発言が親父くさいんだけど」
甲冑を被った生徒や看護師の格好をした生徒が爆走している中、司会が楽しそうに状況を放送してモニターに生徒の姿を映す。見ている方は大いに盛り上がっているが、おそらくやっている方は地獄だろう。
そう。この借り物競走は、最初の方こそその名の通り障害物が用意されていてそれをいかに速く突破するかを競うものになっているが、ラストの100メートル前に着替えるブースが設置されていてその中にある服を着てゴールしなければならなかった。
天沢が言っていたのはこれのことか………。
なんでも良いと言って響に任せたのが間違いだったらしい。とんでもないものに参加する羽目になった。はっきり言って最悪の気分。
この競技最大の問題は、用意されている服だ。
『実行委員がガチで考えた魅力的な服の数々』というのが運営側の主張なのだが、見ていると男にさせる格好ではないものが混じっている。
甲冑や看護師などはまだマシかもしれないが、魔女や婦警はもう完全にアウトだろう。どちらも女性を表す文字が入っているはずなのになぜこれを男子校で……。まあ、余興ということなのかもしれない。
ぜひ俺には、着てもそんなにおかしくない格好が当たってほしい。
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