ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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勇者がダンジョンにやってくる!

臨時応援職員アシュリー・コープは既に限界 2

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「お、お姉ちゃん・・・父さんも反省してるし、それぐらいで」
「レナエル、あんた黙ってなさい!大体あんたが甘やかすから、父さんの悪い癖がいつまで経っても直らないのよ!!」

 近くまでやってきた父親に対して、彼が怪我を隠していたからこんな状況になったとリディは喚き散らしていた。
 そんな彼女に、ロドルフは申し訳なさそうに頭を下げるばかり。
 そんな彼の事をリディの妹であるレナエルが庇っているが、彼女のそんな振る舞いも気に入らないと、リディはその声を一段と高くしていた。

「えっと、その・・・とにかく、落ち着いてくださいリディさん!お父さんも苦しそうですし、今はとにかく治療を優先しましょう!」
「そんな場合じゃ・・・ううん、そうねその通りだわ。お願いしてもいい、アイリス?ほら、父さんももっとこっちに」
「はい、お任せください!」

 目の前でなにやら揉めだした親子の姿に、アイリスは戸惑うばかりであった。
 しかしそんな争いの中でも、ロドルフが苦しそうに脇腹を押さえているのは事実であり、彼女はそれを見過ごす事は出来ない。
 治療師としての覚悟を持って両手で杖を振り上げたアイリスは、必死に声を張り上げてリディへと呼びかける。
 その言葉にもリディは反発しようとしていたが、それも一瞬だけで今はそれ所ではないと思い出した彼女は、治療しやすいようにロドルフを前へと押し出していた。

「このままで大丈夫?服とか脱がした方がいい?」
「だ、大丈夫ですこのままで!ふぅ~・・・集中、集中」

 アイリスの前へとロドルフを押し出したリディは、その傷口が見えやすいようにと彼の服も捲ろうとしていた。
 実際の所、そうした方が治療の効率がいいのは事実であったが、流石に見ず知らずの中年男性の裸を見るのは抵抗があったのか、アイリスはそれを慌てて止めている。
 彼女はリディの振る舞いで上がった心拍数を落ち着かせるように息を吐くと、目を瞑って両手でその杖を掲げている。
 その先端からは、うっすらと黄金色の光が漏れ出し始めていた。

「へぇ~、こんな感じなのね。初めて見た」
「ね、姉さん・・・邪魔しちゃ駄目だよ」

 目の前で繰り広げられる神秘的な光景に、リディは思わず素直な感想を呟いている。
 そんな彼女の直截な言葉がアイリスの集中を邪魔してしまうのではないかと、レナエルは潜めた声で自らの姉を注意していた。
 ロドルフへとその杖を向けたアイリスが放つ光は、眩い朝日の中でも特別な輝きを齎し、それはこの出張所の集まった者の目をも集めている。
 そんな群衆の中でそれへと目を向けていないのは、忙しそうに手元で書類を処理しているアシュリーぐらいだろうか。

「これ、ぐらいかな?大丈夫ですか、痛くありませんか?」
「う、うむ。問題ない」

 この場所で一ヶ月ボランティアをしていた経験故だろうか、ロドルフの表情から苦悶の色が消えたのとほぼ同時にその杖の光を収めたアイリスは、それでも彼へとまだ痛くはないかと尋ねていた。
 大柄なロドルフに窺うアイリスは小柄で、その問い掛けは下から見詰めるような形となってしまう。
 そんな彼女の振る舞いに気恥ずかしさを感じたのか、ロドルフは彼女から顔を背け、明後日の方向を向いては問題ないと返していた。

「良かったね、父さん!これで今日も―――」
「ほら、治ったんならさっさと行くわよ!朝御飯食べたら、ダンジョンに行くんだから!アイリス、貴方にはお礼を言わないと。ありがとう、助かったわ」

 怪我が治り苦しそうな表情をしなくなった父親に、喜びの声を掛けていたレナエルの言葉は、姉によってすぐに遮られてしまう。
 彼女は二人の手を引くと、さっさと逗留している宿へと帰ろうとしていた。

「あ、あの!ダンジョンに行くなら、そこで登録していってください!その・・・ダンジョンの情報とか、地図を差し上げますので」

 アイリスへとお礼を言うために立ち止まったリディは、すぐに踵を返してここを離れようとしていた。
 その一瞬の間に、アイリスが彼女達を引きとめる声を上げれたのは、彼女達とのやり取りで親近感を感じていたからだろう。

「その情報って、宝箱の事とかも教えてくれるの?」
「あ、はい。宝箱の事だったら、色々と・・・」

 窓口の方を指差しながら自分達の事を引き止めたアイリスに、リディは一つ尋ねていた。
 それは彼女達がダンジョンで、ある軽薄な男に出し抜かれてしまいそうになった、宝箱の事であった。
 他のダンジョンでは見受けられない宝箱の存在は、当然冒険者に周知する事項として提供している。
 そのためリディの問い掛けに、アイリスはそれならば説明出来ると返していたのだった。

「ほら、だから私は先に村に寄ろうって言ったじゃない!それをあんたが・・・」
「うぅ・・・だって、早くダンジョンに行ってみたかったんだもん!」

 ダンジョンに向かう前に村に寄っていれば、あんな事にはならなかったのにとリディはレナエルを責めている。
 リディのそんな態度にレナエルは悔しそうに呻いていたが、それも僅かな間だけで彼女も彼女の言い分があると言い返していた。

「えっと、その・・・登録は?」

 目の前で諍いを始めた姉妹が何故そこまで言い争っているのか、その理由をアイリスは知りようもない。
 そんな彼女が出来るのは、とにかく二人に登録を勧める事だけであった。

「そうね・・・せっかくだからやっていこうかな。でも、あそこに行かないと駄目なの?」
「え・・・?」

 突っかかってくる妹の事を片手で捌いていたリディは、アイリスの提案に空いている方の手を顎へと添えると、了承の頷きを返していた。
 アイリスの言葉に頷いた彼女はしかし、窓口へと向けた視線に疑問の言葉を告げている。
 それが何の事か分からずに間の抜けた返事を返してしまったアイリスも、そちらへと視線を向ければ彼女が言っていた事を理解するだろう。
 そこにはごったかえす冒険者達に対して、怒鳴り散らしているアシュリーの姿があった。

「あぁ?ポーションを買い取って欲しい?こちとらそれどころじゃねぇっての!そこらで適当に、商人でも捕まえて売りつけてこいや!!お前も、いいからさっさとそこに名前を書けって言ってんだろう!!あー、もう!ハロルドはまだ帰ってこないの!?あのガキは、どこで油売ってんのよ!!」

 アイリスが披露した回復魔法は、その神秘的な輝きで多くの人を魅了した。
 しかしそれも、僅かな時間を稼いだに過ぎない。
 一向に減ろうとはしない冒険者の数に、アシュリーのストレスはもはや限界を超えており、ヒステリックに喚き散らしてしまうのも無理はない話しであった。

「あははは・・・その、また今度でもいいかな?」
「うん、そうしとく」

 アシュリーの鬼気迫る様相に、アイリスも思わず苦笑いを漏らしてしまう。
 そんな姿を見てしまえば、彼女もそこに向かう事を勧める訳にはいかないだろう。
 アイリスはリディ達にまた今度やってくるように勧め、彼女達もそれに頷いていた。

「じゃあ、またねアイリス」
「うん、またねリディ。レナエルも」

 別れに、リディは軽く手を振って去っていく。
 アイリスもそんな彼女に手を振り替えしていた。
 同じ建物の片隅で行われたそんな穏やかな交流もお構いなしに、アシュリーの怒鳴り声は響き続けている。
 それが鳴りを潜めるには、ハロルドの帰還が必要だろう。
 それはもう少し、先の事になりそうだった。
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