ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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勇者がダンジョンにやってくる!

カイ・リンデンバウムはある情報を耳にする 2

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「キ、キルヒマンさん・・・呼ばれてますよ?」
「ん?あぁ、そうか。そうだったな」

 知り合いから呼びかけられるならばともかく、全く見ず知らずの人間から呼ばれても反応するのは難しい、それが偽名ならば尚更。
 アシュリーの必死な形相に、どこか怯えた様子を見せているアイリスに声を掛けられて、カイはようやく彼女が自分を呼んでいるのだと気付いていた。

「私をお呼びですか?ええと・・・」

 名前呼ばれそちらへと歩み寄ったカイは、窓口のガラスに張り付きながら、こちらへと血走った瞳を向けてくる女性の姿に近寄りがたいものを感じていた。
 彼が彼女に対する言葉を濁したのは、何もその名前を知らなかったからだけではないだろう。

「アシュリー、アシュリー・コープ!てゆーか、そういうのいいから!!あなた、パスカル・キルヒマンよね!?だったらこれに、これに記入して!!」 

 言葉に詰まったカイの姿に自らの名前を名乗ったアシュリーは、そんな事どうでもいいとばかりに窓口に近寄ってきた彼へと取り出した書類を叩きつけている。
 その窓口には元々手続きを行っていた冒険者が占拠していたが、彼女のそんな迫力にとっくにその場を離れてしまっていた。

「あー・・・ここは冒険者が手続きを行う場所では?私は冒険者ではないし、何か手続きが必要なら後ろに並ぶが・・・」
「いいから、本っ当そういうのいいから!!さっさとここに名前書いてって!あんたがあのダンジョンの名前を決めなかったせいで、こっちはドンだけ迷惑したか・・・」

 アシュリーの雰囲気に近寄りがたいものを感じているカイは、適当な理由をつけて彼女から離れようと試みる。
 しかしそれを許すアシュリーではなく、彼女は窓口からその腕を伸ばすと、カイの腕を掴んではその場に無理矢理留まらせていた。

「あの、キルヒマンさん。申し訳ないんですけど、出来ればコープさんの言う通りにしてあげてください。そこに名前を書くだけでいいので・・・」
「ハロルドがそういうのなら・・・しかし、名前か」

 アシュリーとカイのやり取りを見かねたハロルドが、作業の手を止めて仲裁の声を掛けてくる。
 目の前のなにやら得体の知れない怖さのある女性からの指示ならば無視も出来るが、ハロルドの頼みとあれば断る事も出来ない。
 逃げようとする足を止めてその場に留まったカイはしかし、あることに悩んでしまう。
 この一ヶ月、暇に飽かして彼らが話す言葉を習得したカイも、その記述までを習得した訳ではない。
 そのため名前を記入しろと言われても、それを書くことが出来なかったのだ。

「この女の姿を借りるか・・・」

 彼らの文字を書くためには、彼らの姿を借りればいい。
 それだけならば以前姿を盗んだ男でも良かったのだが、カイは折角なのでこの腕を掴んだままのアシュリーの姿を、その小太りの姿の下に潜ませる事にしていた。

「何?書いてくれるんなら、早くここ!ここに書いて!!」
「ん?あぁ、分かってる。どれどれ・・・ダンジョン発見届、か」

 カイが一人呟いた言葉は、アシュリーには届いていないだろう。
 それでもその奇妙な間には彼女も不思議な表情を見せ、早く種類を書けと一層急かし始めていた。
 彼女の声に、自らがその場に意味もなく突っ立っていた事を知ったカイはそれを適当に誤魔化すと、改めて渡された書類へと目を落とす。
 そこには彼女の姿を借りた事で、読み解けるようになった文面が広がっていた。

「ん?ここに発見者の氏名とあるが・・・あのダンジョンを発見したと言うなら、私よりもアダムスさんではないのか?」
「それは・・・僕達がキルヒマンさんからダンジョンの事を聞いたと話してしまったので。それにアダムスさんが、色々と事情があってダンジョンの事を人に話していませんでしたから・・・対外的には、キルヒマンさんが発見者という事になっているんです」
「ほほぅ、そんな事になっていたのか・・・」

 渡された書類を読み込む事で、それを本当に自分が記入してもいいのかと疑問を抱いたカイは、それを周りへと尋ねている。
 彼の疑問にも、アシュリーはいいから早く書けと書類を指差すだけで、何も説明しようとはしない。
 そんな彼女の態度に、ハロルドが若干困った表情を見せながら、カイの疑問について答えていた。

「ここに名前っと・・・後はダンジョンの名前を決めればいいのか?」
「そうよ!ほら、さっさと決めちゃって!別に何でもいいのよ、それが正式な名前なら!『冒険者の友』でも、『ゴブリンの巣穴』でも何でもね!!」
「そうか、それなら勿論―――」

 自分があのダンジョンの対外的な発見者となっている事を知ったカイは、それに何ともいえないむず痒さを感じながらも、書類の必要な部分に名前を記入していく。
 必要な箇所に名前を記入し終えたカイは、後はダンジョンの名前を決めればいいのかとアシュリーに尋ねる。
 彼女はそれに何でもいいから適当に名前をつけろと話していたが、彼は勿論聞き慣れたあの名前をつけようと筆を動かし始めていた。

「なぁ、聞いたか?ある人が、このダンジョン目当てにやってくるんだと」
「あぁ?ある人だぁ?そんなの、どうでもいいだろ?それより、いつになったらこの列は動くんだ?さっきから全然前に進んでねぇじゃねぇか」
「いいから聞けって!勇者だよ、勇者様!あの勇者様がダンジョンに来るんだってよ!凄くねぇか、これ!」

 聞き慣れたあの名前をダンジョンにつけようとしていたカイの手も、その後ろの方で聞こえた声を耳にすれば、思わずその手を止めてしまう。
 その冒険者達はただでさえ動かなかった列に、さらにカイが割り込んだことで不満を溜めて、そんな話を始めたのだろう。
 しかしその話には、絶対に聞き逃せないワードが含まれていなかったか。
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