210 / 308
勇者がダンジョンにやってくる!
カイ・リンデンバウムはある情報を耳にする 3
しおりを挟む
「勇者?ちょ、ちょっと君達!その話、詳しく―――」
「あぁ・・・これでようやく、いちいち余計な添付書類を用意しなくて済む。届出さえ提出しちゃえば後は・・・って、ちょっとキルヒマンさん!?どこ行こうとしてんですか!!」
聞き逃せない言葉を彼らに直接聞きに行こうとしたカイの身体は、それにすぐさまそれに気がついたアシュリーによって引き止められている。
ダンジョンの正式な名称が決まる事で、物凄く面倒臭いだけの余計な書類仕事を減らす事の出来る彼女の腕は強い。
その力は、とてもではないが振り解けそうはなかった。
「い、いや。少し彼らに話をだな・・・」
「それは後でもいいでしょうが!!今はとにかく、書類を完成させろって言ってんの!!さぁ、早く早く!!」
「う、うむ。そ、そうだな」
彼女の勢いに押し切られてしまったカイは、再び書類へと身体を戻している。
しかしその注意は後ろで話している冒険者の方へと向いており、その指は一向に進む事はなかった。
「勇者だぁ?何でそんなお人が、こんな辺境のダンジョンにわざわざ来るんだ?ガセだろ、その噂」
「いや嘘じゃないんだって、これが!その勇者様は酒場でその話をしていたらしいんだが、何を隠そう俺もその場にいたんだって!俺はその席から遠くて、直接話は聞けなかったんだが・・・その場にいた奴から聞いたんだから、間違いねぇって!」
「あぁ?お前がいつも行ってる酒場って、あの場末の酒場だろう?あんな所にそんな人が行く訳ねぇだろ?」
後ろの冒険者達は、カイが聞きたい内容の核心に迫ろうとしている。
彼はもはやその顔すらも半分以上後ろへと向けており、それはとても書類へと何かを記入しようとする人の姿とはいえないものであった。
「ちょっと、キルヒマンさん!早く書いてくださいよ!本っ当、お願いします!ここに書くだけでいいんで、本当それだけですから!!それだけでものすっっっっごく、助かるんです!!だからお願い、お願いしますよ~キルヒマンさ~ん!!」
「あ、あぁ。分かってる、分かってるが・・・」
気も漫ろで、一向に書類を完成させようとしないカイの姿に、アシュリーはもはや縋りつくようにして彼にそれを完成させるように懇願している。
彼女のその哀れみすら誘う振る舞いにはカイもその視線を書類へと戻すが、それも一瞬の事に過ぎない。
彼は後ろで話している冒険者達の事が気になって仕方がなく、またしてもそちらへと注意を傾けてしまっていた。
「本当だって、信じてくれよぉ~!あの酒場に、勇者様が来てたんだって!」
「だから、それは流石にうそ臭いって・・・」
「いや、その話は本当だぞ。俺もその場で聞いたし」
「そうそう。今あのダンジョンに向かう連中の中には、勇者目当ての奴も結構いるんだぜ?知らないのか?どうやら当の本人は、まだ来てないみたいだけどな」
「あぁ?本当かよ、それ?」
自らの話が本当だと主張する男に、相棒の男は流石に有り得ないだろうと否定している。
しかしそれも、思わぬ所から口を挟まれれば否定する事も出来ない。
彼らの周りでその話を聞いていた男達は、口々にその話を肯定していた。
その言葉に男の話を否定していた相棒も、流石にそれを続ける事が出来ずに心底驚いたような表情を作っている。
それはその話を盗み聞いていた、カイも同じ心境であった。
「勇者がやってくる・・・?あのダンジョンに・・・?」
勇者が自分達のダンジョンにやってくる。
その噂を耳にした、カイの胸の高まりは想像に難くないだろう。
人類の希望ともいえるその存在の手助けをする事は、彼の思い描いていた夢そのものだ。
ざわざわと広がっていくその話題にそれがどうやら確からしいと思えれば、彼にはもはや目の前の書類の事など、どうでもいい事であった。
「キルヒマンさ~ん、お願いですから書いてくださいよ~・・・本当、後そこだけでいいんで~」
「あ、あぁ・・・そうだな。これでいいか?いいよな?」
あまりの出来事にその場に立ち尽くしてしまったカイに、アシュリーの涙ぐましい催促の声が響く。
彼女の声に今の自らに課せられた仕事を思い出したカイは、すぐさまそれへと筆を進めていく。
記入し終えた書類を手にとって、それをアシュリーへと示しているカイは、もはや一刻も早くこの情報をダンジョンへと持ち帰りたいと、鼻息荒く彼女へと確認を迫っていた。
「そうです!これですよ、これ!!これが欲しかったんです!!あぁ~、良かったぁ・・・これでようやく、あの書類地獄から解放される・・・」
「いいんだな?よし!それじゃ、私は用事があるのでこれで!!」
「あ!?待ってください、キルヒマンさん!お礼の品が・・・行っちゃった」
カイに突きつけられた書類の内容を確認したアシュリーは、その完成に両手をテーブルに叩きつけては喜びを表していた。
喜びの声と共に椅子から立ち上がった彼女はやがて、両手を組み合わせては祈りの仕草を真似ていたが、それもカイが彼女へと書類を押し付けて立ち去っていくまでだ。
物凄い勢いで立ち去って行くカイの姿に、アシュリーは自らのデスクを漁っては用意していたお礼の品を取り出していたが、それを見つけた時にはもはやカイの姿はどこにも見当たらなかった。
「何だったんだ、さっきのおっさんは・・・?」
「さぁ?急いでたんだろ?それよりも勇者目当てで、どっかの貴族様も来るって話しだぞ?何とかうまく取り入って、お零れに預かれねぇかな?」
「それって、あれだろ?冒険好きで勇者好きのあの人の話だろ?確かにあの人なら、そんな噂聞きつければやってくるだろうな」
カイが立ち去った後も、噂話をしていた冒険者はまた別の噂を囁いている。
その内容は勇者好きの貴族が、その存在を追ってダンジョンに訪れるかもしれないというものであったが、既にこの場にいないカイにそれを知る事は出来ない。
カイが立ち去った後の冒険者ギルドの出張所には、またいつもの喧騒へと戻っていく。
その中で一人、クリスだけがまだカイと話したりなかったようで、残念そうに彼が立ち去った後を見詰め続けていた。
「あぁ・・・これでようやく、いちいち余計な添付書類を用意しなくて済む。届出さえ提出しちゃえば後は・・・って、ちょっとキルヒマンさん!?どこ行こうとしてんですか!!」
聞き逃せない言葉を彼らに直接聞きに行こうとしたカイの身体は、それにすぐさまそれに気がついたアシュリーによって引き止められている。
ダンジョンの正式な名称が決まる事で、物凄く面倒臭いだけの余計な書類仕事を減らす事の出来る彼女の腕は強い。
その力は、とてもではないが振り解けそうはなかった。
「い、いや。少し彼らに話をだな・・・」
「それは後でもいいでしょうが!!今はとにかく、書類を完成させろって言ってんの!!さぁ、早く早く!!」
「う、うむ。そ、そうだな」
彼女の勢いに押し切られてしまったカイは、再び書類へと身体を戻している。
しかしその注意は後ろで話している冒険者の方へと向いており、その指は一向に進む事はなかった。
「勇者だぁ?何でそんなお人が、こんな辺境のダンジョンにわざわざ来るんだ?ガセだろ、その噂」
「いや嘘じゃないんだって、これが!その勇者様は酒場でその話をしていたらしいんだが、何を隠そう俺もその場にいたんだって!俺はその席から遠くて、直接話は聞けなかったんだが・・・その場にいた奴から聞いたんだから、間違いねぇって!」
「あぁ?お前がいつも行ってる酒場って、あの場末の酒場だろう?あんな所にそんな人が行く訳ねぇだろ?」
後ろの冒険者達は、カイが聞きたい内容の核心に迫ろうとしている。
彼はもはやその顔すらも半分以上後ろへと向けており、それはとても書類へと何かを記入しようとする人の姿とはいえないものであった。
「ちょっと、キルヒマンさん!早く書いてくださいよ!本っ当、お願いします!ここに書くだけでいいんで、本当それだけですから!!それだけでものすっっっっごく、助かるんです!!だからお願い、お願いしますよ~キルヒマンさ~ん!!」
「あ、あぁ。分かってる、分かってるが・・・」
気も漫ろで、一向に書類を完成させようとしないカイの姿に、アシュリーはもはや縋りつくようにして彼にそれを完成させるように懇願している。
彼女のその哀れみすら誘う振る舞いにはカイもその視線を書類へと戻すが、それも一瞬の事に過ぎない。
彼は後ろで話している冒険者達の事が気になって仕方がなく、またしてもそちらへと注意を傾けてしまっていた。
「本当だって、信じてくれよぉ~!あの酒場に、勇者様が来てたんだって!」
「だから、それは流石にうそ臭いって・・・」
「いや、その話は本当だぞ。俺もその場で聞いたし」
「そうそう。今あのダンジョンに向かう連中の中には、勇者目当ての奴も結構いるんだぜ?知らないのか?どうやら当の本人は、まだ来てないみたいだけどな」
「あぁ?本当かよ、それ?」
自らの話が本当だと主張する男に、相棒の男は流石に有り得ないだろうと否定している。
しかしそれも、思わぬ所から口を挟まれれば否定する事も出来ない。
彼らの周りでその話を聞いていた男達は、口々にその話を肯定していた。
その言葉に男の話を否定していた相棒も、流石にそれを続ける事が出来ずに心底驚いたような表情を作っている。
それはその話を盗み聞いていた、カイも同じ心境であった。
「勇者がやってくる・・・?あのダンジョンに・・・?」
勇者が自分達のダンジョンにやってくる。
その噂を耳にした、カイの胸の高まりは想像に難くないだろう。
人類の希望ともいえるその存在の手助けをする事は、彼の思い描いていた夢そのものだ。
ざわざわと広がっていくその話題にそれがどうやら確からしいと思えれば、彼にはもはや目の前の書類の事など、どうでもいい事であった。
「キルヒマンさ~ん、お願いですから書いてくださいよ~・・・本当、後そこだけでいいんで~」
「あ、あぁ・・・そうだな。これでいいか?いいよな?」
あまりの出来事にその場に立ち尽くしてしまったカイに、アシュリーの涙ぐましい催促の声が響く。
彼女の声に今の自らに課せられた仕事を思い出したカイは、すぐさまそれへと筆を進めていく。
記入し終えた書類を手にとって、それをアシュリーへと示しているカイは、もはや一刻も早くこの情報をダンジョンへと持ち帰りたいと、鼻息荒く彼女へと確認を迫っていた。
「そうです!これですよ、これ!!これが欲しかったんです!!あぁ~、良かったぁ・・・これでようやく、あの書類地獄から解放される・・・」
「いいんだな?よし!それじゃ、私は用事があるのでこれで!!」
「あ!?待ってください、キルヒマンさん!お礼の品が・・・行っちゃった」
カイに突きつけられた書類の内容を確認したアシュリーは、その完成に両手をテーブルに叩きつけては喜びを表していた。
喜びの声と共に椅子から立ち上がった彼女はやがて、両手を組み合わせては祈りの仕草を真似ていたが、それもカイが彼女へと書類を押し付けて立ち去っていくまでだ。
物凄い勢いで立ち去って行くカイの姿に、アシュリーは自らのデスクを漁っては用意していたお礼の品を取り出していたが、それを見つけた時にはもはやカイの姿はどこにも見当たらなかった。
「何だったんだ、さっきのおっさんは・・・?」
「さぁ?急いでたんだろ?それよりも勇者目当てで、どっかの貴族様も来るって話しだぞ?何とかうまく取り入って、お零れに預かれねぇかな?」
「それって、あれだろ?冒険好きで勇者好きのあの人の話だろ?確かにあの人なら、そんな噂聞きつければやってくるだろうな」
カイが立ち去った後も、噂話をしていた冒険者はまた別の噂を囁いている。
その内容は勇者好きの貴族が、その存在を追ってダンジョンに訪れるかもしれないというものであったが、既にこの場にいないカイにそれを知る事は出来ない。
カイが立ち去った後の冒険者ギルドの出張所には、またいつもの喧騒へと戻っていく。
その中で一人、クリスだけがまだカイと話したりなかったようで、残念そうに彼が立ち去った後を見詰め続けていた。
0
あなたにおすすめの小説
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します
三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。
身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。
そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと!
これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。
※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。
女神を怒らせステータスを奪われた僕は、数値が1でも元気に過ごす。
まったりー
ファンタジー
人見知りのゲーム大好きな主人公は、5徹の影響で命を落としてしまい、そこに異世界の女神様が転生させてくれました。
しかし、主人公は人見知りで初対面の人とは話せず、女神様の声を怖いと言ってしまい怒らせてしまいました。
怒った女神様は、次の転生者に願いを託す為、主人公のステータスをその魂に譲渡し、主人公の数値は1となってしまいますが、それでも残ったスキル【穀物作成】を使い、村の仲間たちと元気に暮らすお話です。
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる