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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画
収拾不能の大混戦 4
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「キルヒマン!貴方は何をっ!!」
ごっこ遊びをしていたに過ぎないエヴァンに、この状況を覆せる力などある訳がない。
それを承知でこの一行に加わった筈のカイが、この窮地にそれを振るえと叫んでいる。
その訳の分からない振る舞いに、アビーは気でも狂ったのかとカイを一喝していた。
「待て、待つのだアビー。キルヒマンの言ってる事は正しい。ここで仲間を見捨てるなど、彼らを見捨てて逃げるなど・・・私には出来ぬ!!」
しかしその言葉は意外にも、エヴァンの心には響いたようだった。
カイの視線からエヴァンを守るように立ち塞がっていたアビーの肩を掴んだ彼は、それを押し退けるようにして前へと進み出ると、戦いへの決意をその全身に漲らせていた。
「私も戦うぞ、アビー!さぁ、この剣を抜くのを手伝ってくれ!!」
「し、しかし坊ちゃま!それはっ!!」
「えぇい!早くしないか!!この時間にも、アーネット達がやられてしまうかもしれないのだぞ!!」
絶体絶命のピンチという異常な状況にあてられて、彼は忘れてしまったのだろうか。
その聖剣が、ただのイミテーションでしかない事を。
そして自らが、勇者でも何でもない、ただの冒険好きな貴族の坊ちゃんでしかない事を。
自分一人では到底抜く事の出来ない大剣をその手に掴んだエヴァンは、それを引き抜くのを手伝えとアビーへと命令を下している。
それにアビーが戸惑った様子をみせていても、彼はそんな事を気にも留めずに早くしろと繰り返すばかりであった。
「これは・・・うまくいったか?さて、後は・・・」
目の前で繰り広げられる主従のやり取りは、どうやら興奮で我を忘れたエヴァンが押し切ってしまいそうだ。
その姿を目の当たりにして、ようやくずっと見たかったものにお目にかかれると期待するカイは、そっと彼らから離れてある場所へと向かっていた。
『お前達は・・・レクスとニックか?合図したらそこを開けて、そいつらを通してやれ』
彼は一人、エヴァン達から離れると大勢のオークやゴブリン達相手に、何とか凌いでいる二人のゴブリン、レクスとニックに声を掛けていた。
種族の違いからか、潜めた声でも届く範囲まで近づき、その顔をまじまじと観察して初めてそれが顔見知りのゴブリンだと知ったカイは、彼らにある命令を下している。
それはタイミングを見計らって、あえてエヴァンの下へと魔物を突っ込ませようといったものであった。
『あぁん?誰だ、てめぇ?俺達が守ってやってからって、あんま調子乗ってんじゃねぇぞ?大体どうして共通語なんか・・・』
『っ!?リ、リンデンバウム様!!し、失礼致しました!!』
カイが二人に話しかけたのは、魔物達に通じる共通語であった。
気軽に背後に立ち、あまつさえ話しかけてきた人間に、ニックはあんまり調子に乗るなと言葉を荒げようとしていた。
しかしそれも、すぐにカイの存在に気がついたレクスによって遮られてしまう。
彼はこのダンジョンの支配者であるカイへと失礼を働いた相棒の分もと、深々と頭を下げては謝罪の言葉を叫んでいた。
『別に構わん。この格好だからな、一目で分からないのも無理はないだろう』
レクスの謝罪にも、カイは鷹揚に頷いては気にしていないと振舞っている。
彼はそれよりも、自分と会話しながらも向かってくる相手を器用にいなしている、二人の見事な技量に感心の表情をみせていた。
『・・・それで、そのリンデンバウム様がこんな所に何の御用で?』
『ニ、ニック!言葉遣いをっ!』
失礼な態度をカイに許されたニックは、それでもその態度を改める事はなく、どこか警戒した瞳を彼へと向けていた。
それも無理のない話しだろう。
普段はダンジョンの最奥の間でふんぞり返り、滅多に外に出ることのないカイがこんな所に出没し、あまつさえ勇者と共にいるのだ。
それを疑うなというのが、無理のある話しであった。
『なに、別にどうという事はない。お前達には、そこを開けて欲しいだけなのだ。私が合図したらな』
『し、しかしリンデンバウム様。それはクライネルト様の計画に反するのでは・・・?』
ニックの疑問に、カイは詳細は語ろうとはせずに、ただただ彼らにやって欲しい事だけを伝えていた。
それはレクス達にエヴァン達を守るのは止めさせ、その足止めしている魔物達を彼らへと嗾けろというものであった。
しかしそれは、彼らがここで必死にエヴァン達を守っていた理由と反している。
彼らはここで勇者が襲われてしまうのはヴェロニカ達の計画に反すると、これまで必死に戦ってきたのだ。
それをいきなり反故にするのかと、レクスは恐る恐るカイへとお伺いを立てていた。
『ほぅ・・・お前は私の言葉よりも、私の部下の命令を守るというのか?』
カイがレクスのそのお伺いに、思わず語気を強めてしまったのは、そこを突かれたくない彼の事情があったからだ。
しかしそれは図らずも、彼に支配者に相応しい振る舞いを与えてしまっていた。
それは特に、彼の事を恐ろしい支配者だと認識しているレクスには尚更、効果的であったようだ。
『は、ははっ!!仰る通りでございます!!仰せの通りに、仰せの通りに致しますので!何卒、何卒ご勘弁をっ!!』
カイが放つ威圧的ですらある支配者のオーラに圧倒されてしまったレクスは、その場で地面に叩きつけるように頭を下げると、ただひたすらに彼に許しを請うていた。
そんな相棒の背中を守って大立ち回りを演じているニックも、そんな彼の姿に感じ入るものがあったのか、静かにごくりと生唾を飲み込んでいたようだった。
『・・・分かればよい。大声で合図する、それが聞こえたら奴らを通すんだ。いいな?』
『ははっ!!仰せの通りにっ!!』
レクスの大袈裟なリアクションに、一番驚いていたのは彼にそんな行動を取らせてしまった、カイ本人であろう。
自らの振る舞いの不自然さを誤魔化そうと強気に出た態度が齎した、思っていないほどの効果に彼は戸惑い言葉を詰まらせている。
しかしそれは、この滅茶苦茶な行動を押し通せるべく舞い込んだチャンスでもあった。
それを逃してしまわないように勤めて冷静に振舞うカイの姿は、ことさら支配者然としており、その迫力は思わずレクスの身体を平伏させる。
そんな彼の姿を目にしたカイは満足げに頷くと、悠然とした動きでその場を立ち去っていっていた。
ごっこ遊びをしていたに過ぎないエヴァンに、この状況を覆せる力などある訳がない。
それを承知でこの一行に加わった筈のカイが、この窮地にそれを振るえと叫んでいる。
その訳の分からない振る舞いに、アビーは気でも狂ったのかとカイを一喝していた。
「待て、待つのだアビー。キルヒマンの言ってる事は正しい。ここで仲間を見捨てるなど、彼らを見捨てて逃げるなど・・・私には出来ぬ!!」
しかしその言葉は意外にも、エヴァンの心には響いたようだった。
カイの視線からエヴァンを守るように立ち塞がっていたアビーの肩を掴んだ彼は、それを押し退けるようにして前へと進み出ると、戦いへの決意をその全身に漲らせていた。
「私も戦うぞ、アビー!さぁ、この剣を抜くのを手伝ってくれ!!」
「し、しかし坊ちゃま!それはっ!!」
「えぇい!早くしないか!!この時間にも、アーネット達がやられてしまうかもしれないのだぞ!!」
絶体絶命のピンチという異常な状況にあてられて、彼は忘れてしまったのだろうか。
その聖剣が、ただのイミテーションでしかない事を。
そして自らが、勇者でも何でもない、ただの冒険好きな貴族の坊ちゃんでしかない事を。
自分一人では到底抜く事の出来ない大剣をその手に掴んだエヴァンは、それを引き抜くのを手伝えとアビーへと命令を下している。
それにアビーが戸惑った様子をみせていても、彼はそんな事を気にも留めずに早くしろと繰り返すばかりであった。
「これは・・・うまくいったか?さて、後は・・・」
目の前で繰り広げられる主従のやり取りは、どうやら興奮で我を忘れたエヴァンが押し切ってしまいそうだ。
その姿を目の当たりにして、ようやくずっと見たかったものにお目にかかれると期待するカイは、そっと彼らから離れてある場所へと向かっていた。
『お前達は・・・レクスとニックか?合図したらそこを開けて、そいつらを通してやれ』
彼は一人、エヴァン達から離れると大勢のオークやゴブリン達相手に、何とか凌いでいる二人のゴブリン、レクスとニックに声を掛けていた。
種族の違いからか、潜めた声でも届く範囲まで近づき、その顔をまじまじと観察して初めてそれが顔見知りのゴブリンだと知ったカイは、彼らにある命令を下している。
それはタイミングを見計らって、あえてエヴァンの下へと魔物を突っ込ませようといったものであった。
『あぁん?誰だ、てめぇ?俺達が守ってやってからって、あんま調子乗ってんじゃねぇぞ?大体どうして共通語なんか・・・』
『っ!?リ、リンデンバウム様!!し、失礼致しました!!』
カイが二人に話しかけたのは、魔物達に通じる共通語であった。
気軽に背後に立ち、あまつさえ話しかけてきた人間に、ニックはあんまり調子に乗るなと言葉を荒げようとしていた。
しかしそれも、すぐにカイの存在に気がついたレクスによって遮られてしまう。
彼はこのダンジョンの支配者であるカイへと失礼を働いた相棒の分もと、深々と頭を下げては謝罪の言葉を叫んでいた。
『別に構わん。この格好だからな、一目で分からないのも無理はないだろう』
レクスの謝罪にも、カイは鷹揚に頷いては気にしていないと振舞っている。
彼はそれよりも、自分と会話しながらも向かってくる相手を器用にいなしている、二人の見事な技量に感心の表情をみせていた。
『・・・それで、そのリンデンバウム様がこんな所に何の御用で?』
『ニ、ニック!言葉遣いをっ!』
失礼な態度をカイに許されたニックは、それでもその態度を改める事はなく、どこか警戒した瞳を彼へと向けていた。
それも無理のない話しだろう。
普段はダンジョンの最奥の間でふんぞり返り、滅多に外に出ることのないカイがこんな所に出没し、あまつさえ勇者と共にいるのだ。
それを疑うなというのが、無理のある話しであった。
『なに、別にどうという事はない。お前達には、そこを開けて欲しいだけなのだ。私が合図したらな』
『し、しかしリンデンバウム様。それはクライネルト様の計画に反するのでは・・・?』
ニックの疑問に、カイは詳細は語ろうとはせずに、ただただ彼らにやって欲しい事だけを伝えていた。
それはレクス達にエヴァン達を守るのは止めさせ、その足止めしている魔物達を彼らへと嗾けろというものであった。
しかしそれは、彼らがここで必死にエヴァン達を守っていた理由と反している。
彼らはここで勇者が襲われてしまうのはヴェロニカ達の計画に反すると、これまで必死に戦ってきたのだ。
それをいきなり反故にするのかと、レクスは恐る恐るカイへとお伺いを立てていた。
『ほぅ・・・お前は私の言葉よりも、私の部下の命令を守るというのか?』
カイがレクスのそのお伺いに、思わず語気を強めてしまったのは、そこを突かれたくない彼の事情があったからだ。
しかしそれは図らずも、彼に支配者に相応しい振る舞いを与えてしまっていた。
それは特に、彼の事を恐ろしい支配者だと認識しているレクスには尚更、効果的であったようだ。
『は、ははっ!!仰る通りでございます!!仰せの通りに、仰せの通りに致しますので!何卒、何卒ご勘弁をっ!!』
カイが放つ威圧的ですらある支配者のオーラに圧倒されてしまったレクスは、その場で地面に叩きつけるように頭を下げると、ただひたすらに彼に許しを請うていた。
そんな相棒の背中を守って大立ち回りを演じているニックも、そんな彼の姿に感じ入るものがあったのか、静かにごくりと生唾を飲み込んでいたようだった。
『・・・分かればよい。大声で合図する、それが聞こえたら奴らを通すんだ。いいな?』
『ははっ!!仰せの通りにっ!!』
レクスの大袈裟なリアクションに、一番驚いていたのは彼にそんな行動を取らせてしまった、カイ本人であろう。
自らの振る舞いの不自然さを誤魔化そうと強気に出た態度が齎した、思っていないほどの効果に彼は戸惑い言葉を詰まらせている。
しかしそれは、この滅茶苦茶な行動を押し通せるべく舞い込んだチャンスでもあった。
それを逃してしまわないように勤めて冷静に振舞うカイの姿は、ことさら支配者然としており、その迫力は思わずレクスの身体を平伏させる。
そんな彼の姿を目にしたカイは満足げに頷くと、悠然とした動きでその場を立ち去っていっていた。
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