ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

張り巡らされる罠

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 その部屋に無数に浮かんでいたモニターは、今やその姿がなく、少なく絞られた数のそれには勇者の姿が様々な角度から映っていた。
 そこに映る勇者、リタの姿は冒険者とお付の神官によって揉みくちゃにされ、まさに身動きの取れない姿であった。
 それを見逃す手があるだろうか。
 ヴェロニカは端末に口を近づけると、そっと囁く。

「勇者を拘束なさい、僅かな時間でも十分よ。とにかくあの忌々しい剣を振るわせないよう、気をつけるように」

 それは一体、誰に対して下した命令だろうか。
 しかし少なくとも、それが勇者を罠に嵌めようとするものなのは分かる。
 ヴェロニカは再び端末へと指を伸ばすと、近くに佇むダミアンへと視線を向けていた。

「ここで仕掛けても構わないと思う?どうかしら、ダミアン?」

 明らかにそれを実行する腹積もりであるにもかかわらず、ヴェロニカがダミアンへとその最終的な決断を委ねたのは、それが彼らの計画とは異なっているからだろう。
 レクスが担当しているエリアの一部であるそこは、最初のフロアの終わりといってもいい場所である。
 確かにそこはダンジョンの奥深くといえなくもない場所ではあるが、今までに目にした勇者の身体能力を考えれば、一気に逃げ出す事も不可能ではない位置であった。
 そんな状況であるにもかかわらず、何故ヴェロニカは危険を冒してまで、そこで仕掛けようと考えているのか。
 それはダミアンからの返答によって明かされる。

「元々の予定とは違うが・・・折角カイ様が設えてくださった舞台じゃ、無碍にする方が無礼じゃろうて」

 彼らは勇者であるリタがこの場所で拘束されているのを、カイが齎した結果だと考えていた。
 勇者と知り合いのいる冒険者の一行へと加わり、その彼らをあえて窮地へと誘い込んだカイの振る舞いは、確かに彼らの視点からは勇者を誘い出すための罠に見えるかもしれない。
 そうして魔物の群れの中心へと誘い込んだ勇者は、その窮地をあっさりと乗り切ってしまっていたが、今こうして身動き取れない状態へと陥っていれば、それこそがカイの狙いだと解釈も出来る。
 ましてや、そこが勇者に致命傷を与えうる罠が仕掛けられている、丁度真下であるとなれば尚更だった。

「そうね、貴方の言う通りだわ」
「我らが気にするべきは、それであれが仕留められるかどうかであろうよ。そちらの方も、ちゃんと考えておるのだろう?」

 ダミアンからの返答に、ヴェロニカは満足げに頷いて見せている。
 それは彼女の考えが、始めからダミアンのものと同じであった事を示す態度だろう。
 そんな振る舞いを見せるヴェロニカに、ダミアンは仕掛けることそのものよりも、その後の事について気にしているようだった。
 罠を発動させ、勇者にダメージを与えたとしても、それが止めになるとは限らない。
 勇者がもし、まだ息があったのなら、あの部屋に今いる魔物達では荷が重いだろう。
 そう考えるダミアンはしかし、当然その辺りの事もヴェロニカは考えていると予測していた。

「ふふっ、そうね。勿論、用意してあるわ。周辺の魔物を近くに控えさせているし、次のフロアからも応援を寄越そうと思っているのだけど・・・どうかしら?」
「聞くまでもなかろうて。それにお主の事じゃ、すでに手配を終えておるのだろう?」
「えぇ、勿論。折角カイ様が用意されたのですもの、準備が送れて機を逸したのでは申し訳がたたないわ」

 ダミアンの指摘通り、ヴェロニカは既にその手配を終えていたようだ。
 彼女はさらに周到に戦力を用意すべきかをダミアンへと問い掛けていたが、それすらも既に手配しているのだろうとダミアンは零す。
 ダミアンのそんな指摘ににっこりと笑顔を浮かべて見せたヴェロニカは、当然とばかりに彼に頷き返していた。

「では、そろそろ良かろうて。勇者があれにどんな反応を見せるか、楽しみじゃのう」

 もう準備は十分だと告げるダミアンは、ヴェロニカの傍から離れて自らの席へと戻る。
 彼の小さな身体では、そちらの方がモニターを見やすいのだろう。

「えぇ、そうね」

 ダミアンの言葉に端末へと指を這わせたヴェロニカは、罠の発動を手動で始める。
 それは設定された条件によって自動で発動する時よりもコストが掛かる行いではあるが、勇者を仕留めるという大業を考えれば許される犠牲であろう。

「発動させるわ・・・分かっているわね?」

 手動での罠の発動を行ったヴェロニカは、それと同時に先ほど命令を下したであろう存在へともう一度、指示を出している。
 発動させた罠は、その効果が表に出てくるまでタイムラグがあるのか、まだモニターに映る勇者の姿にも変化はない。
 しかしそれを見詰めるヴェロニカの表情を見れば、それがうまくいっている事は間違いないようであった。

「さてさて、どうなる事か。落石とは至極単純な罠ゆえに、その対処も難しいものよ。勇者よ、お主の身体能力であれば、自らだけを救うのは容易いじゃろうて。しかしそれでは、救えぬ者も出てくるぞ?果たしてお主は、その時どうするのじゃろうなぁ。ふぉっふぉっふぉっ、ほんに楽しみじゃて」

 自らの席に戻り、その短い足を空中に放り出してはふるふると遊ばせているダミアンは、本当に楽しみで堪らないと笑い声を漏らしている。
 その笑顔が邪悪に歪んで見えたのは、果たして気のせいであろうか。
 少なくともその笑い声がその部屋から途切れる事はなく、その表情も変わることはなかった。
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