ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

縺れ合う思惑とその結末 2

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「ぐっ!?と、届いた・・・良かった、これで・・・」

 形振り構わない飛び込みは、相応の衝撃となって返ってくる。
 ぶつかった衝撃に苦しみを喘いだカイはしかし、下敷きにした二人の人間の感触に自らの行動の達成を確信する。
 エヴァン達へと飛び掛るに夢中だった彼は、一緒に突っ込む事になっていたリタの存在を頭から消しており、彼女はその衝撃に地面へと叩きつけられていたが、勇者である彼女ならばきっと大丈夫であろう。

「うわっ!?な、何をするのだキルヒマン!!」
「っ!やはりあなたは、これを狙っていたのですね!」

 しかし、とにかくエヴァン達へと飛び掛ることに夢中であったカイは忘れてはいないだろうか、何故自らがそんな事をしようとしていたかを。
 リタを巻き込んだ事で減じた勢いは、当初予想していたそれを下回っている。
 その勢いは、彼らをその下から逃すには十分なものではなく、彼らの頭上からは今もパラパラと砂粒が落ちてきており、それはどうやらもう終わりになりそうな雰囲気であった。

「えっ?一体何を・・・うおっ!?マ、マジか!!?」

 エヴァン達のリアクションが、自分が期待したそれとは違っている事に疑問を抱いたカイは、彼らが目を見開いて視線を送っている自らの背後へと顔を向ける。
 そこには今まさに、落ちてくる岩石の姿が映っていた。
 その姿を目にしても、今更カイに何かをすることは出来ない。
 驚きの声を上げた彼はしかし、ぶつかった衝撃に痛む身体では碌に動く事すら出来ない。
 そんな彼に出来た事といえば、いつかケネスから譲り受けたナイフをその手に握ることだけ。
 カイに覆い被されているエヴァン達も、そこから身動きを取る事は出来なかった。
 そんな状況をひっくり返せるとしたら、ただ一人だろう。
 それは勇者、リタ・エインズリーである。

「くそっ、身体が・・・アストライアァァァァ!!!」

 しかしそんな彼女も、地面へと叩きつけられた衝撃で身体が痺れてしまっている。
 しかも彼女はカイに飛び掛られた時に、その手に握った聖剣を手放してしまっていたのだった。
 そんな絶体絶命の状況に彼女が聖剣の名を叫んだのは、その名を呼べばそれが飛んで駆けつけてくるからだろうか。
 しかし例えそんな力が聖剣にあったとしても、それは今もスライムに絡め取られ、ピクリとも動く事を許されてはいない。
 リタの悲鳴にも似た叫びにそれを遅らせる効果などある訳はなく、落下する岩石は今、彼らの鼻先にまで迫ろうとしていた。


『う~ん、これは助けた方がいいのかなー?そうだよね、多分。えーい!』


 その、どこかで囁かれた呟きを、耳にした者は果たしているのだろうか。
 少なくともこの場にいる者の多くは落下する岩石に注目し、残りの者はそれが齎す衝撃に備えてぎゅっと目を瞑っており、それ所ではなかった事だけは確かだった。

「あ、あれ?い、痛くないぞ?凄まじすぎる痛みはそれを感じさせなくなると聞くが、もしやこれがそうなのか?それとも私はもう死んで・・・うぅ、そうは考えたくないぞ!」

 いつまでもやってこない衝撃に、エヴァンはそれが過剰な痛みによる脳の防衛機能なのではないかと疑い始めていた。
 彼はやがてそれすらも飛び越えて、既に自分が死んでいるのではないかと疑い始めていたが、それを確かめるのが怖いのか、頑なにその目を開こうとはしなかった。

「ご安心くださいませ、坊ちゃま。どうやら無事のようでございます。しかし、これは・・・」 

 一人で勝手に想像を羽ばたかせては怯えた声を上げている主人に対して、アビーは安心するように声を掛けている。
 彼女は自らを下敷きにしているカイの身体から抜け出すと、周りを見渡していた。
 彼女が周りに広がる光景を目にして、戸惑ったような声を漏らしたのは、それが異常なものであったからだろう。

「生き、てる?あれ、どうしてだ?何が・・・うおっ!?なんだこれっ!?」

 背後から聞こえてきた主従の声によって、自らの生存を確信したカイはゆっくりとその目を開いている。
 目を見開いた彼の目に映ったのは、バラバラに切り裂かれた岩石の姿と、根元からぽっきりと折れてしまったナイフの姿であった。

「見えなかった、ボクが・・・それに、これは」

 眼前に迫りくる恐怖に目を瞑ってしまったカイ達と違い、リタはそれを目の前にしてもその目を閉ざす事はなかった。
 そんな彼女の目を持ってしても、その目の前で起こった出来事は信じがたいものであった。
 岩石を切り裂いた何者かの手は、余りに素早すぎて彼女の目にも捉えられる事はなく、そしてそれはまるですり抜けるようにして、彼女の身体を通り過ぎていった。
 何より、およそ二十七つの破片に切り裂かれた岩石は、その元々の巨大さもあいまり一つ一つは決して小さいものではない。
 しかしそれでも、ここにいる誰一人ダメージを食らった様子がないのは、それがまるで図られたように人を避けて落下していたからだ。
 そんな芸当、彼女がもし聖剣をその手にしていても出来る筈はなかった。

「これを、あの人が?一体、何者なんだろう・・・?」

 彼女以外に、あの場でそれが出来た人物は一人しかいない。
 その人物であるカイへと目を向けるリタは、恐れすら含んだ呟きを漏らしている。
 そしてそんな彼女と同じ感想を抱く者が、この場にはもう一人いた。

「私達を助けた・・・?私達に近づいたのは、坊ちゃまを暗殺するためではなかったのですか?」

 聖剣を手にしていないリタに、そのような芸当が出来たとは思えない。
 エルトンとケネスの二人も、彼女達を助けようとはしていたが、彼らではどう考えても実力不足だ。
 勇者のお付である神官もいたが、彼はその彼女に大きく弾かれてしまって、とてもではないが何かが出来る状態ではなかった。
 他には魔物達もいるが、仲間割れで結果的にこちらを助けるような形になっていた彼らも、そこまでお人好しであるとは考えられない。
 そうなれば、それが出来たのは目の前のこの得体の知れない商人しか考えられなかった。
 エヴァンの暗殺か、もしくはその身柄を狙って近づいてきたと疑っていたカイが、自分達を助けたという事実にアビーは驚き戸惑っているようだった。

「しかし、あの力は・・・やはり警戒を怠る事は出来ませんね」

 しかしカイが振るったと思われる力は、それが自分達を助けるために行ったことだとしても、看過していいものではない。
 若干の評価の変動はあったものの、やはり警戒は怠る事は出来ないと気持ちを新たにしたアビーは、エヴァンを助け起こしながらもさりげなく、カイとの距離を取るように動いていた。

「えっ!?マジで、何が起きたのこれ・・・?ヴェロニカが何かしたのか?うーん、そうとしか考えられないけど・・・そんなこと出来たっけか?」

 とんでもない力の持ち主だと周りから目されているカイはしかし、その当の本人も一体何が起きたのか分からないと頻りに首を捻っていた。
 彼はそれをヴェロニカ達の仕業だと疑っていたようだが、果たして彼女達にも先ほどのことは可能だったろうか。
 少なくともカイは発動した罠を途中で解除する方法など知らず、それが仮に出来たとしても、今目の前に広がっている光景のような事にはならないように思われた。

「お、おい!あんた達、大丈夫か!?」
「一体何が・・・そ、それよりも!無事ですか、レイモンド様!?」

 目の前で護衛対象が死んでしまうという、最悪の事態に直面していた冒険者の二人は、意外な結果となったその結末に、まだ現実を受け止め切れていないようだった。
 それでもとにかく彼らの安否を確認するのが先決だと、二人は駆け寄ってくる。
 そんな二人の姿を目にしながら、カイは今の事態をどう説明したものかと、頭を悩ませていたのだった。
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