ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

文字の大きさ
274 / 308
カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

幾千の死を超えて 2

しおりを挟む
「そういうのいいから!!さっさと行くよ、マーカス君!!」
「そんな事いわずに!少しだけでいいので、可愛がっていきましょうよ!!ほ、ほら!お昼に貰ったパンの残りがありますから、それをあげてみませんか?」
「い・い・か・ら、行くのー!!」

 マーカスはあの手この手でリタの足を止めようと頑張るが、それが功を奏する事はない。
 そうこうしている間に、その猫は彼の足元を通り過ぎ、彼らが先ほどまでいた部屋の中央へと陣取っていた。

「そこを何とか!!・・・ん?そう言えば、何でこんな所に猫が?もしかして、あれも魔物か何かなのでしょうか・・・?」
「ほらほら、飛ばすよー!!」
「えっ!?ちょ、ちょっと待って・・・ひ、ひぃぃぃぃっ!!?」

 足元を通り過ぎる猫が珍しくなくとも、それがダンジョン内であればおかしいと感じることもある。
 こんな場所にいる筈もないその存在に、マーカスは何とか折り合いをつけようと、それも魔物なのではないかと考え始めていた。
 その思索も、リタがその速度を全速力へと高める間までだろう。
 考え事へと没頭していたマーカスの足がそれに反応出来る訳もなく、急激に速度を上げたリタに彼の身体は引き摺られてしまう。
 その衝撃は、まだ休みきっていない彼の身体には負担だろう。
 それは今も響き続けている、彼の悲痛な叫び声からも窺い知る事が出来た。

「・・・やれやれ、騒がしい連中じゃて」

 猛スピードで走り去っていく二人に、その悲鳴もいつまでも聞こえ続けはしない。
 そうして誰もいなくなったダンジョンの一室に、誰かの呆れるような呟きが響いていた。
 それはどうやらその部屋の中央に陣取り、先ほどまで地面に横たわっては欠伸を漏らしていた猫から聞こえてきたようだった。

「さて、仕事に取り掛かるとするかの。しかし、どこにあったか・・・」

 去っていった二人に対して肩を竦めるような仕草をみせる猫、ダミアンは腰の辺りに手を添えると自らの仕事へと取り掛かっていく。
 彼は伸ばした背筋に僅かに高くなった頭を左右に振ると、何やら何かを探しているようであった。

「おぉ、あれじゃあれじゃ!」

 その探していた何かを見つけた様子のダミアンは、そちらに向かってトコトコと歩み寄っていく。
 しかしそこにはただの地面と虚空が広がるばかりで、何かがあるようにはとても思えなかった。

「ん?なんじゃ、あれは・・・ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。奴めの手先か・・・まぁ、よい。存分に見ておくといい、我らが主の偉業を」

 トコトコと歩くダミアンは、その途中に視界を横切る黒い影の存在へと気付く。
 それは良く見れば、ただの蝙蝠であった。
 こんな洞窟であれば珍しくもないその姿に、彼は意味部かな笑い声を漏らすと、何やらぶつぶつと呟いている。
 それには一体、どんな意味があるのだろうか。
 分かっている事は、このダンジョンにはその通り過ぎていった蝙蝠以外、一匹もその姿を見た事がないということだけであった。

「これぐらいの範囲ならば大丈夫じゃと思うが・・・さて、どうかのぅ」

 ダミアンが軽く払った両手の間に、一瞬雷光が奔ったのは幻か。
 ダンジョンの奥の方を眺めてはなにやらぶつぶつと呟いているダミアンは、広げた両手を目の前の地面へとそっと置いている。
 その瞬間に広がった光は、すぐにその形を定め、やがて魔法陣の姿へと変わっていく。
 その魔方陣は最初こそダミアンの周囲を覆っているだけであったが、それはやがてその部屋全体へと伝わり、今やそこを中心にダンジョンを覆おうと広がり続けていた。

「やれやれ、やはりこの規模ともなると骨が折れるのぅ・・・ダンジョンという概念に、位相空間を被せるというのは、ちと力技過ぎるか?」

 その煌々と輝く真っ赤な光は、まるで命を燃やして輝いているかのよう。
 眩い光に包まれているダミアンはしかし、その小さな身体をさらに小さくしているように見える。
 その顎から伝った汗が、彼の豊かな体毛に吸収されきらずに垂れ落ちたのは、それが後から後から途切れる事なく湧き続けているからか。
 地面を焼きつくように輝いている魔法陣に落ちた汗が、焦げ付いた音を立ててもダミアンの集中が途切れることはない。
 彼は地面へとついた手から伝わる重たい手応えに、その原因が何かと探りを掛けているようだった。

「しかし出来ると言ってしまった手前、ここで諦める訳にはいかんじゃろうて」

 彼がやろうとしている事は、勇者の逃げ道を完全に塞いでしまう事だろう。
 ダンジョンの奥深くにまで誘い込んだ現状に、それは必ずしも必要な事ではないかもしれない。
 しかしと、彼は嗤う。
 こうした仕事が出来てこその、年長者であろうと。
 彼の仕事が生きてくるのは、彼よりも年若い者達が何かを失敗し、その尻拭いをする時だ。
 それこそが自らの仕事だと張り切る彼は、さらに力を込めては両手を突き出している。
 その突き出した両手の周辺が一瞬波立って見えたのは、果たして錯覚だろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

女神を怒らせステータスを奪われた僕は、数値が1でも元気に過ごす。

まったりー
ファンタジー
人見知りのゲーム大好きな主人公は、5徹の影響で命を落としてしまい、そこに異世界の女神様が転生させてくれました。 しかし、主人公は人見知りで初対面の人とは話せず、女神様の声を怖いと言ってしまい怒らせてしまいました。 怒った女神様は、次の転生者に願いを託す為、主人公のステータスをその魂に譲渡し、主人公の数値は1となってしまいますが、それでも残ったスキル【穀物作成】を使い、村の仲間たちと元気に暮らすお話です。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

処理中です...