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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画
ボス戦 1
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その部屋に踏み入る瞬間に奔った、この脈打つような異物感にリタは思わず足を止める。
それはこの部屋の奥から感じる、異様な闘気とは関係ないだろう。
むさ苦しさが具現化したような蒸気が蔓延している、この部屋から漂う気配は確かに強いが、それはこの聖剣を思わず震わせるほどのものではない。
「うわぁ!?ちょ、どうしたんですか急に!?いきなり立ち止まらないでくださいよ、リタ!」
急に立ち止まったリタに、彼女の背中を守るように後ろを駆けていたマーカスは、当然すぐには止まることが出来ずにその背中へとぶつかってしまう。
彼女がそんな衝撃にもビクともしなかったのは、それを予想して備えていたからではないだろう。
彼女は今、あらゆる危険に備えて神経を研ぎ澄ませている。
そんな彼女の踏ん張った足腰ならば、その程度の衝撃など苦もなく凌げるのも当然であろう。
「・・・マーカス君は感じなかったの?さっきの・・・こう、変な感じ」
「へ?さっきですか?いえ、特には・・・そ、それよりもリタ!この部屋、何か今までとは違う雰囲気がありませんか?こう、うまくはいえないのですが・・・まるで―――」
うなじ辺りの産毛が逆立つような異物感に、リタはいつまでも落ち着けずにいる。
そんな彼女がマーカスにも同意を求めたのは、それが勘違いではないと知りたかっただろう。
しかし彼はそんな彼女の不安など露知らずといった様子で、この異様な雰囲気の部屋の様子の方が気になっているようだった。
確かにこの部屋は彼が言う通り、今まで通ってきた部屋とは違った雰囲気であり、どこか重苦しい空気が流れている。
それはこの見通しの効かない部屋の様子が齎したものか、それともその奥に佇む存在が醸し出したものか。
どちらにせよそれは、同じ理由によるものだった。
『まるでドラゴンの巣穴に迷い込んだみたいってか?あながち間違っちゃいないぜ?お前らが生きて帰れねぇ、ってのは変わりねぇんだからよぉ』
マーカスの台詞を遮って、その部屋の奥から進み出てきたのは、巨大な体躯誇る角の折れた鬼、セッキであった。
その全身に夥しい量の汗を浮かべているセッキは、その身体からまるで吹き出すように蒸気を立ち上らせている。
それは勇者と戦える事が待ち遠しすぎてジッとしていられなかった彼が、身体を動かし続けていた結果であろう。
しかしそれは、まるで彼の身体から立ち上る闘気にも見え、ただでさえ凶悪な彼の相貌により一層の迫力与えていた。
『あ、兄貴!お、おでも!おでもあいつと闘いたい!!』
『おでもおでも!!』
明らかな強敵の登場に、マーカスは緊張に生唾を飲み込んでいる。
その時、そんな緊迫した雰囲気を弾き飛ばすような間の抜けた声が、セッキの後方から響いていた。
それは彼と勝るとも劣らない体格を持つ、二体のトロールが上げた声であった。
『あぁ?馬鹿野郎!あれは俺様の獲物だって、さっき散々説明しただろうが!!』
折角待ちに待った獲物がようやく目の前に現れたというのに、それを横から掻っ攫おうとする彼らの存在にセッキは怒りを顕にすると、それをそのまま彼らへとぶつけていた。
それは比喩でも何でもなく、正真正銘拳でだ。
振り払うようなセッキの動きに、一番硬い拳の部分は当たらなくとも、その二体のトロールは見事なまでに吹き飛ばされてしまっていた。
『いでで・・・で、でもよぉ兄貴・・・あ、あいつ強そうだよ。おで達、強い奴と戦いたい!』
『おでもおでも!!』
数秒間滞空した上、そのまま壁へと叩きつけられたにもかかわらず、まるで何ともないようにぴんぴんしているのは、流石は丈夫な種族という所か。
彼らはかつて、セッキが集めてきた現地の魔物達の中にいたトロール達だろう。
戦闘能力はぴか一ではあるが、頭が悪くその大きな体躯は無駄に目立ってしまうために、相応しい働き場所が見つからなかった彼らは、セッキの暇つぶし相手としてここに配置されていたのだった。
ダンジョンのボスとして、表向きの最後の部屋の主と配置され暇を持て余していたセッキは、彼らを小突き回すことでそのストレスを発散していた。
そんな境遇に不満を溜めるかと思われていた彼らは、意外な事に寧ろそんなセッキな強さに強く憧れ、その舎弟へと収まっていたのだった。
『ちっ、うっせぇなぁ・・・どうしたんもんか。こいつら言っても聞かねぇからなぁ・・・おっ、丁度いい所に丁度いい奴がいるじゃねぇか!おい、ミギにダリ!てめぇらはあいつの相手をしてろ、いいな!!』
頭が悪いその二体のトロール相手では、言って聞かせた所でそれを守るとは思えない。
それに何より彼らと一緒に勇者と戦っては、彼自身が彼らの事を忘れて戦ってしまうだろう。
ようやくの獲物に今でこそまだ冷静に振舞えているセッキも、戦いが始まってしまえばきっといつかは我を失ってしまう。
そうなれば巻き込まれて、彼らが死んでしまってもおかしくはない。
いや、きっとそうなるだろう。
それはセッキの望んだ結果ではなかった。
ましてその二体のトロールは、頭が悪く使い道は限られてるとはいえ、このダンジョンにとって貴重な戦力であることは間違いない。
それを自らの手で殺してしまえば、後でどんな事を言われるか分かったものではないのだ。
それはなんとしても避けたいセッキは、丁度いい相手を見つけては歓声を上げる。
彼の視線の先にいたのは、その得物である金属製の杖を構え、こちらを警戒しているマーカスの姿であった。
『で、でもよぉ兄貴・・・あいつ、弱そうじゃねぇか?』
『そうだそうだ!だってあいつ、こんなちっぽけだぞ!!あんなのつまんねぇよ!おで達もあいつがいい!あいつと戦いたい!!』
しかしマーカスと戦えとセッキに指示された二人は、それで納得などはしない。
何故なら彼らが戦えと言われた相手は、彼らよりも明らかに小さく、弱っちそうな人間であったからだ。
体格だけを見るならば、リタはマーカスよりも小さかったが、その存在から漂ってくる雰囲気は愚鈍な彼らであっても分かるほどに、はっきりと強大なものであった。
それはこの部屋の奥から感じる、異様な闘気とは関係ないだろう。
むさ苦しさが具現化したような蒸気が蔓延している、この部屋から漂う気配は確かに強いが、それはこの聖剣を思わず震わせるほどのものではない。
「うわぁ!?ちょ、どうしたんですか急に!?いきなり立ち止まらないでくださいよ、リタ!」
急に立ち止まったリタに、彼女の背中を守るように後ろを駆けていたマーカスは、当然すぐには止まることが出来ずにその背中へとぶつかってしまう。
彼女がそんな衝撃にもビクともしなかったのは、それを予想して備えていたからではないだろう。
彼女は今、あらゆる危険に備えて神経を研ぎ澄ませている。
そんな彼女の踏ん張った足腰ならば、その程度の衝撃など苦もなく凌げるのも当然であろう。
「・・・マーカス君は感じなかったの?さっきの・・・こう、変な感じ」
「へ?さっきですか?いえ、特には・・・そ、それよりもリタ!この部屋、何か今までとは違う雰囲気がありませんか?こう、うまくはいえないのですが・・・まるで―――」
うなじ辺りの産毛が逆立つような異物感に、リタはいつまでも落ち着けずにいる。
そんな彼女がマーカスにも同意を求めたのは、それが勘違いではないと知りたかっただろう。
しかし彼はそんな彼女の不安など露知らずといった様子で、この異様な雰囲気の部屋の様子の方が気になっているようだった。
確かにこの部屋は彼が言う通り、今まで通ってきた部屋とは違った雰囲気であり、どこか重苦しい空気が流れている。
それはこの見通しの効かない部屋の様子が齎したものか、それともその奥に佇む存在が醸し出したものか。
どちらにせよそれは、同じ理由によるものだった。
『まるでドラゴンの巣穴に迷い込んだみたいってか?あながち間違っちゃいないぜ?お前らが生きて帰れねぇ、ってのは変わりねぇんだからよぉ』
マーカスの台詞を遮って、その部屋の奥から進み出てきたのは、巨大な体躯誇る角の折れた鬼、セッキであった。
その全身に夥しい量の汗を浮かべているセッキは、その身体からまるで吹き出すように蒸気を立ち上らせている。
それは勇者と戦える事が待ち遠しすぎてジッとしていられなかった彼が、身体を動かし続けていた結果であろう。
しかしそれは、まるで彼の身体から立ち上る闘気にも見え、ただでさえ凶悪な彼の相貌により一層の迫力与えていた。
『あ、兄貴!お、おでも!おでもあいつと闘いたい!!』
『おでもおでも!!』
明らかな強敵の登場に、マーカスは緊張に生唾を飲み込んでいる。
その時、そんな緊迫した雰囲気を弾き飛ばすような間の抜けた声が、セッキの後方から響いていた。
それは彼と勝るとも劣らない体格を持つ、二体のトロールが上げた声であった。
『あぁ?馬鹿野郎!あれは俺様の獲物だって、さっき散々説明しただろうが!!』
折角待ちに待った獲物がようやく目の前に現れたというのに、それを横から掻っ攫おうとする彼らの存在にセッキは怒りを顕にすると、それをそのまま彼らへとぶつけていた。
それは比喩でも何でもなく、正真正銘拳でだ。
振り払うようなセッキの動きに、一番硬い拳の部分は当たらなくとも、その二体のトロールは見事なまでに吹き飛ばされてしまっていた。
『いでで・・・で、でもよぉ兄貴・・・あ、あいつ強そうだよ。おで達、強い奴と戦いたい!』
『おでもおでも!!』
数秒間滞空した上、そのまま壁へと叩きつけられたにもかかわらず、まるで何ともないようにぴんぴんしているのは、流石は丈夫な種族という所か。
彼らはかつて、セッキが集めてきた現地の魔物達の中にいたトロール達だろう。
戦闘能力はぴか一ではあるが、頭が悪くその大きな体躯は無駄に目立ってしまうために、相応しい働き場所が見つからなかった彼らは、セッキの暇つぶし相手としてここに配置されていたのだった。
ダンジョンのボスとして、表向きの最後の部屋の主と配置され暇を持て余していたセッキは、彼らを小突き回すことでそのストレスを発散していた。
そんな境遇に不満を溜めるかと思われていた彼らは、意外な事に寧ろそんなセッキな強さに強く憧れ、その舎弟へと収まっていたのだった。
『ちっ、うっせぇなぁ・・・どうしたんもんか。こいつら言っても聞かねぇからなぁ・・・おっ、丁度いい所に丁度いい奴がいるじゃねぇか!おい、ミギにダリ!てめぇらはあいつの相手をしてろ、いいな!!』
頭が悪いその二体のトロール相手では、言って聞かせた所でそれを守るとは思えない。
それに何より彼らと一緒に勇者と戦っては、彼自身が彼らの事を忘れて戦ってしまうだろう。
ようやくの獲物に今でこそまだ冷静に振舞えているセッキも、戦いが始まってしまえばきっといつかは我を失ってしまう。
そうなれば巻き込まれて、彼らが死んでしまってもおかしくはない。
いや、きっとそうなるだろう。
それはセッキの望んだ結果ではなかった。
ましてその二体のトロールは、頭が悪く使い道は限られてるとはいえ、このダンジョンにとって貴重な戦力であることは間違いない。
それを自らの手で殺してしまえば、後でどんな事を言われるか分かったものではないのだ。
それはなんとしても避けたいセッキは、丁度いい相手を見つけては歓声を上げる。
彼の視線の先にいたのは、その得物である金属製の杖を構え、こちらを警戒しているマーカスの姿であった。
『で、でもよぉ兄貴・・・あいつ、弱そうじゃねぇか?』
『そうだそうだ!だってあいつ、こんなちっぽけだぞ!!あんなのつまんねぇよ!おで達もあいつがいい!あいつと戦いたい!!』
しかしマーカスと戦えとセッキに指示された二人は、それで納得などはしない。
何故なら彼らが戦えと言われた相手は、彼らよりも明らかに小さく、弱っちそうな人間であったからだ。
体格だけを見るならば、リタはマーカスよりも小さかったが、その存在から漂ってくる雰囲気は愚鈍な彼らであっても分かるほどに、はっきりと強大なものであった。
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