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第三章
さっさとすませる
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―――ルカをさっさと抱いてしまえ。
エメレンスの言葉を思い出し、ユリウスは机に額をガンっと打ち付けた。
王都のモント領主邸二階の自分の部屋だ。側で控えていたカレルが、ぎょっとしたように目を剥いた。
「いかがなされました、ユリウス様」
カレルはユリウスの頭を机から助け起した。額が赤く腫れていたようだ。カレルは一旦部屋を出ていくとすぐに戻ってきた。手には氷嚢が握られている。
「一体どうなされました。王宮で何かありましたか」
カレルはユリウスの額を氷嚢で冷やしながら、ぶつぶつと呟く。
「跡にならなければよろしいですが。明日には晩餐会が始まりますというのに。額を赤く腫れ上がらせた領主など、いい笑いものです。全く」
「すまん」
ユリウスが殊勝に謝ると、カレルは眦をきっとつり上げた。
「すまんではございませんぞ。一体いかがなされました。王宮より帰ってきてからずっとおかしいですぞ。何か提出した書類に不備でもございましたか。いつもより時間がかかっておらましたゆえ、気になっておりました」
「え? あ、ああ。いや、そんなことではない」
カレルの心配は思わぬところにあった。しかし、地方官に書類を提出しに行ってからの様子がおかしいのだから、カレルの心配はもっともといえばその通りだ。
「実はな―――」
ユリウスは王宮でエメレンス、シミオンを交えて話し合った内容をカレルに教えた。
エメレンスの、ルカをさっさと抱いてしまえの下りは、どうしようかと思ったが、結局正直に話した。
シミオンは、最後のケース、未婚で王の座につき、早世した女性のケースを気に留めていた。つまり、女性にレガリアが宿った場合、男と交わることで体外に出さないと、その者の寿命を縮める恐れがあるのではないかというのだ。そのためにもすぐにもルカを抱くべきだと。
「まぁ何なら私がやってもいいんだがな」
エメレンスがとんでもないことを言い出すのでそれは阻止した。必死になって止めるユリウスを見て、にやりとしていたから、はじめからその気などなかったのだろう。
「ライニール王でもあるまいし、実の妹に手を出すほど不自由はしておらん」とのことだ。
そしてシミオンはと言えば、「俺は論外だ」と聞いてもいないのに言い出した。シミオンなんぞにルカを取られてたまるかと思ったが、念の為聞いてみると「俺は男が好きだ」と予想外の返答がきた。
さすがのエメレンスも驚いていたが、返す言葉をなくしたエメレンスとユリウスに、何を勘違いしたのか。シミオンは「安心しろ。おまえたちは私の好みとは大きくかけ離れている」ときた。
そんなことは心配などしておらんと思ったが、それを言うとまたややこしくなりそうで、ユリウスは黙っておいた。
エメレンスはとにかくルカを抱けの一点張りで、それも早いほうがいい。さっさとすませろと言う。おまえだってルカを抱きたいと思っているのだろうとエメレンスに言われた。痛いところをつく。
王都についたとたん馬車に乗り込んできたエメレンスが腕の中にルカを誘ったのは、今思えばユリウスに嫉妬心を芽生えさせ、焚きつける意図があったのかもしれない。
しかしエメレンスに気付かされるまでもない。この旅の間、何度想像でルカの中に精を放ったか。
ルカの同意が得られるのなら、抱いてしまいたい。それが同時にルカを救うことになると聞かされれば、尚更だ。抱くための大義名分までもらった気分だ。
「いけません。それはいけませんぞ、ユリウス様」
ユリウスの話を聞いたカレルが真っ青な顔で言い募った。
「今のお話では、ユリウス様がルカと事に及ぶと、レガリアがユリウス様か、あるいは子が宿ればその子に移るということになります」
「そうだな。シミオンが調べた限りではそのようだ」
「それはまずいですぞ。そんなことがもしライニール王やオーラフ宰相の耳に入れば、ただではすみません。今度こそ、ベイエル家はお取り潰し、のみならずユリウス様も断罪されまするぞ」
「やはりそう思うか」
エメレンスは、肝心のところを濁してさっさとすませろとばかり言った。その後のこととなると、「なんとかなる。場合によってまた対処法を考えるさ」と言うだけだ。それでユリウスもすぐには首を縦に振らなかったのだが。
カレルの危惧はユリウスの思うところでもある。しかしルカのために必要ならば、エメレンスの言うとおり、後のことは後で考えればいいとも思う。少なくとも、レガリアがルカの体内からなくなれば、ライニールとオーラフはルカに執着する理由がなくなる。
しかしもう一つ。何よりまず、ルカがユリウスと寝ることを承諾するかどうかは大きな問題だ。男のあれを尻に入れると思っているルカだ。ユリウスが抱きたいと言えば、逃げ出すかもしれない。
「何にせよ、すぐにはどうこうするうもりはない。今のところ、ルカは元気だしな。その早世した女王は、レガリアとは関係なく、ただ体が弱かっただけかもしれん」
「それを聞いて安心いたしました。ユリウス様の忍耐強さを、カレルは信じておりますぞ」
ここ最近の、ユリウスのルカへの執着ぶりをカレルは見抜いていたのだろう。くれぐれも短慮は禁物ですぞとカレルは念を押した。
「しかし道理で王宮騎士団まで動かしてルカを探すはずですな。大変な拾い物をいたしましたな、ユリウス様」
「まあな。何かあるとは思っていたが、まさかレガリアとはな」
ただの希少種の奴隷に大仰すぎる追跡をかける違和感が、エメレンスとシミオンの話で理解できた。
とはいえ問題は何一つ解決してはいないのだが。
「ああ、それとなカレル。この話はルカには言うなよ。エメレンスによるとルカは何も知らないらしい。話して余計な心配事を増やす必要もないからな」
ただでさえ少しのことにも気を揉むルカだ。レガリアの話など知ろうものなら、不安でますます眠れなくなるだろう。
「承知いたしました」
カレルは念の為、他の屋敷の者にもこのことは伏せておきましょうと頭を下げた。
***
―――眠れない。
ふかふかすぎるベッドの上で、ルカはもぞもぞと体を動かした。エメレンスの屋敷の執事ジオに案内された部屋のベッドの上だ。格子のはまった窓の外はとうに日が沈んでいる。枕元に灯された明かりが、部屋の中をぼぅっと照らしている。
「何かあったら隣の部屋においで」
エメレンスはそう言ったが、なぜかユリウスのベッドに潜り込んだように、エメレンスのベッドにも潜り込もうとは思わない。広すぎるベッドの上で、ルカは一人ごろごろと転がった。目を閉じ、頭を空っぽにする。そうして眠りが訪れるのを待ったが、やはり眠れない。
部屋の片隅に書棚がある。ルカは立っていって、弱い光源の中で目を凝らした。
書棚には歴史書の類が並んでいた。手にとってぱらぱらとめくってみる。以前王宮にいた頃、エメレンスが教えてくれた内容と同じだ。
水の精霊が初代バッケル王にこの地を譲るところから歴史書は始まる。精霊は、この地を治める資格としてバッケル王に聖なる石であるレガリアを授ける。
当たり前のように始まるくだりだが、ルカははじめてこの話をエメレンスから聞いたときから、疑問に思っていることがある。
どうして水の精霊は、この地をバッケル王に譲ったのだろうか。
ルカが理由を尋ねると、エメレンスはそれには様々な解釈がなされていると言った。
国お抱えのある歴史家は、バッケル王の、人とは思えぬ神々しさを前に、精霊がひれ伏したのだと言い、また他の歴史家は、いやいやバッケル王はこの地に至るまで、戦いに明け暮れておられた。そのため人々と安寧の地を築くたく思い、その思いに感銘を受けた精霊がこの地を譲ったのだと説く。
結局そこのところはよくわからないのだとエメレンスは言った。どれも王族に都合のいい解釈しかなされない。真実は精霊にでも聞いてみないとわからないと。
ルカは掛布を巻き付けて書棚の前に寝転んだ。分厚い歴史書を胸に抱えると、少し寂しさが紛れるような気がした。
ユリウスがもし結婚したら。ディックとフォリスに言われたことがずっと頭から離れない。
ユリウスは結婚したら、きっと妻を大事にするだろう。子供も可愛がるに違いない。そう思うと、なぜか居ても立っても居られない気持ちになる。同時に、まだ見ぬ妻の影に、ルカはこみ上げる黒い心が自身の中に芽生えるのを感じた。
どろどろと渦巻く感情を制御しきれない。ディック達のもとから帰った夜は、ユリウスの腕の中でも全く眠れなかった。おかげで昼間、馬車の中ではずっとうつらうつらと夢の中を彷徨った。
目が覚めるたび、ユリウスが側にいることを確認し、離さないよう、誰かにとられないよう、しっかりユリウスに抱きついてまたうとうとする。そんなことを繰り返した。
今朝だって、本当はユリウスの側を離れたくなかった。でも、エメレンスとユリウスがそう決めたのだから、仕方がない。それに、あまりユリウスにべったりとくっついて、ユリウスを困らせたくはない。
ルカはそっと唇を指でつまんだ。ユリウスがした動きを真似て、指で下唇を軽くつまんで引っ張ってみる。ユリウスとした時みたいには気持ちよくなかった。ユリウスの唇はもっと柔らかで、熱かった。それに大きな体躯に包み込まれながらする安心感と心地よさは、自分で触っているだけでは得られない。
「……ユリウス」
ルカは唇から指を離すと、掛布を更にきつく体に巻き付けた。少し離れただけで、こんなに不安で寂しくなるのに、もしユリウスが妻を娶って、夜を一緒に過ごせなくなったら? もうおまえはいらないと言われたら?
考えただけでルカの目に涙が滲んだ。
エメレンスの言葉を思い出し、ユリウスは机に額をガンっと打ち付けた。
王都のモント領主邸二階の自分の部屋だ。側で控えていたカレルが、ぎょっとしたように目を剥いた。
「いかがなされました、ユリウス様」
カレルはユリウスの頭を机から助け起した。額が赤く腫れていたようだ。カレルは一旦部屋を出ていくとすぐに戻ってきた。手には氷嚢が握られている。
「一体どうなされました。王宮で何かありましたか」
カレルはユリウスの額を氷嚢で冷やしながら、ぶつぶつと呟く。
「跡にならなければよろしいですが。明日には晩餐会が始まりますというのに。額を赤く腫れ上がらせた領主など、いい笑いものです。全く」
「すまん」
ユリウスが殊勝に謝ると、カレルは眦をきっとつり上げた。
「すまんではございませんぞ。一体いかがなされました。王宮より帰ってきてからずっとおかしいですぞ。何か提出した書類に不備でもございましたか。いつもより時間がかかっておらましたゆえ、気になっておりました」
「え? あ、ああ。いや、そんなことではない」
カレルの心配は思わぬところにあった。しかし、地方官に書類を提出しに行ってからの様子がおかしいのだから、カレルの心配はもっともといえばその通りだ。
「実はな―――」
ユリウスは王宮でエメレンス、シミオンを交えて話し合った内容をカレルに教えた。
エメレンスの、ルカをさっさと抱いてしまえの下りは、どうしようかと思ったが、結局正直に話した。
シミオンは、最後のケース、未婚で王の座につき、早世した女性のケースを気に留めていた。つまり、女性にレガリアが宿った場合、男と交わることで体外に出さないと、その者の寿命を縮める恐れがあるのではないかというのだ。そのためにもすぐにもルカを抱くべきだと。
「まぁ何なら私がやってもいいんだがな」
エメレンスがとんでもないことを言い出すのでそれは阻止した。必死になって止めるユリウスを見て、にやりとしていたから、はじめからその気などなかったのだろう。
「ライニール王でもあるまいし、実の妹に手を出すほど不自由はしておらん」とのことだ。
そしてシミオンはと言えば、「俺は論外だ」と聞いてもいないのに言い出した。シミオンなんぞにルカを取られてたまるかと思ったが、念の為聞いてみると「俺は男が好きだ」と予想外の返答がきた。
さすがのエメレンスも驚いていたが、返す言葉をなくしたエメレンスとユリウスに、何を勘違いしたのか。シミオンは「安心しろ。おまえたちは私の好みとは大きくかけ離れている」ときた。
そんなことは心配などしておらんと思ったが、それを言うとまたややこしくなりそうで、ユリウスは黙っておいた。
エメレンスはとにかくルカを抱けの一点張りで、それも早いほうがいい。さっさとすませろと言う。おまえだってルカを抱きたいと思っているのだろうとエメレンスに言われた。痛いところをつく。
王都についたとたん馬車に乗り込んできたエメレンスが腕の中にルカを誘ったのは、今思えばユリウスに嫉妬心を芽生えさせ、焚きつける意図があったのかもしれない。
しかしエメレンスに気付かされるまでもない。この旅の間、何度想像でルカの中に精を放ったか。
ルカの同意が得られるのなら、抱いてしまいたい。それが同時にルカを救うことになると聞かされれば、尚更だ。抱くための大義名分までもらった気分だ。
「いけません。それはいけませんぞ、ユリウス様」
ユリウスの話を聞いたカレルが真っ青な顔で言い募った。
「今のお話では、ユリウス様がルカと事に及ぶと、レガリアがユリウス様か、あるいは子が宿ればその子に移るということになります」
「そうだな。シミオンが調べた限りではそのようだ」
「それはまずいですぞ。そんなことがもしライニール王やオーラフ宰相の耳に入れば、ただではすみません。今度こそ、ベイエル家はお取り潰し、のみならずユリウス様も断罪されまするぞ」
「やはりそう思うか」
エメレンスは、肝心のところを濁してさっさとすませろとばかり言った。その後のこととなると、「なんとかなる。場合によってまた対処法を考えるさ」と言うだけだ。それでユリウスもすぐには首を縦に振らなかったのだが。
カレルの危惧はユリウスの思うところでもある。しかしルカのために必要ならば、エメレンスの言うとおり、後のことは後で考えればいいとも思う。少なくとも、レガリアがルカの体内からなくなれば、ライニールとオーラフはルカに執着する理由がなくなる。
しかしもう一つ。何よりまず、ルカがユリウスと寝ることを承諾するかどうかは大きな問題だ。男のあれを尻に入れると思っているルカだ。ユリウスが抱きたいと言えば、逃げ出すかもしれない。
「何にせよ、すぐにはどうこうするうもりはない。今のところ、ルカは元気だしな。その早世した女王は、レガリアとは関係なく、ただ体が弱かっただけかもしれん」
「それを聞いて安心いたしました。ユリウス様の忍耐強さを、カレルは信じておりますぞ」
ここ最近の、ユリウスのルカへの執着ぶりをカレルは見抜いていたのだろう。くれぐれも短慮は禁物ですぞとカレルは念を押した。
「しかし道理で王宮騎士団まで動かしてルカを探すはずですな。大変な拾い物をいたしましたな、ユリウス様」
「まあな。何かあるとは思っていたが、まさかレガリアとはな」
ただの希少種の奴隷に大仰すぎる追跡をかける違和感が、エメレンスとシミオンの話で理解できた。
とはいえ問題は何一つ解決してはいないのだが。
「ああ、それとなカレル。この話はルカには言うなよ。エメレンスによるとルカは何も知らないらしい。話して余計な心配事を増やす必要もないからな」
ただでさえ少しのことにも気を揉むルカだ。レガリアの話など知ろうものなら、不安でますます眠れなくなるだろう。
「承知いたしました」
カレルは念の為、他の屋敷の者にもこのことは伏せておきましょうと頭を下げた。
***
―――眠れない。
ふかふかすぎるベッドの上で、ルカはもぞもぞと体を動かした。エメレンスの屋敷の執事ジオに案内された部屋のベッドの上だ。格子のはまった窓の外はとうに日が沈んでいる。枕元に灯された明かりが、部屋の中をぼぅっと照らしている。
「何かあったら隣の部屋においで」
エメレンスはそう言ったが、なぜかユリウスのベッドに潜り込んだように、エメレンスのベッドにも潜り込もうとは思わない。広すぎるベッドの上で、ルカは一人ごろごろと転がった。目を閉じ、頭を空っぽにする。そうして眠りが訪れるのを待ったが、やはり眠れない。
部屋の片隅に書棚がある。ルカは立っていって、弱い光源の中で目を凝らした。
書棚には歴史書の類が並んでいた。手にとってぱらぱらとめくってみる。以前王宮にいた頃、エメレンスが教えてくれた内容と同じだ。
水の精霊が初代バッケル王にこの地を譲るところから歴史書は始まる。精霊は、この地を治める資格としてバッケル王に聖なる石であるレガリアを授ける。
当たり前のように始まるくだりだが、ルカははじめてこの話をエメレンスから聞いたときから、疑問に思っていることがある。
どうして水の精霊は、この地をバッケル王に譲ったのだろうか。
ルカが理由を尋ねると、エメレンスはそれには様々な解釈がなされていると言った。
国お抱えのある歴史家は、バッケル王の、人とは思えぬ神々しさを前に、精霊がひれ伏したのだと言い、また他の歴史家は、いやいやバッケル王はこの地に至るまで、戦いに明け暮れておられた。そのため人々と安寧の地を築くたく思い、その思いに感銘を受けた精霊がこの地を譲ったのだと説く。
結局そこのところはよくわからないのだとエメレンスは言った。どれも王族に都合のいい解釈しかなされない。真実は精霊にでも聞いてみないとわからないと。
ルカは掛布を巻き付けて書棚の前に寝転んだ。分厚い歴史書を胸に抱えると、少し寂しさが紛れるような気がした。
ユリウスがもし結婚したら。ディックとフォリスに言われたことがずっと頭から離れない。
ユリウスは結婚したら、きっと妻を大事にするだろう。子供も可愛がるに違いない。そう思うと、なぜか居ても立っても居られない気持ちになる。同時に、まだ見ぬ妻の影に、ルカはこみ上げる黒い心が自身の中に芽生えるのを感じた。
どろどろと渦巻く感情を制御しきれない。ディック達のもとから帰った夜は、ユリウスの腕の中でも全く眠れなかった。おかげで昼間、馬車の中ではずっとうつらうつらと夢の中を彷徨った。
目が覚めるたび、ユリウスが側にいることを確認し、離さないよう、誰かにとられないよう、しっかりユリウスに抱きついてまたうとうとする。そんなことを繰り返した。
今朝だって、本当はユリウスの側を離れたくなかった。でも、エメレンスとユリウスがそう決めたのだから、仕方がない。それに、あまりユリウスにべったりとくっついて、ユリウスを困らせたくはない。
ルカはそっと唇を指でつまんだ。ユリウスがした動きを真似て、指で下唇を軽くつまんで引っ張ってみる。ユリウスとした時みたいには気持ちよくなかった。ユリウスの唇はもっと柔らかで、熱かった。それに大きな体躯に包み込まれながらする安心感と心地よさは、自分で触っているだけでは得られない。
「……ユリウス」
ルカは唇から指を離すと、掛布を更にきつく体に巻き付けた。少し離れただけで、こんなに不安で寂しくなるのに、もしユリウスが妻を娶って、夜を一緒に過ごせなくなったら? もうおまえはいらないと言われたら?
考えただけでルカの目に涙が滲んだ。
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