33 / 91
第三章
もやもやを解消する方法
しおりを挟む
カチャリと部屋の扉が開く音にルカは顔を上げた。閉めた扉を背にして黒いタキシードを着たユリウスが立っていた。たった二日ほど離れていただけなのに、懐かしいような、少しユリウスとの距離があいたような気持ちがする。
なんて話しかければいいのか。わからなくなってルカは膝に額をつけて顔を隠した。
「どうした? ルカ。具合が悪いのか?」
絨毯を踏むユリウスの足音が近づき、次の瞬間には抱き上げられていた。ユリウスは顔をのぞきこもうとしたが、ルカは見られたくなくて、金糸の髪に顔を埋め、その首に腕を回してしがみついた。
「具合は悪くない。大丈夫……」
ただどうしたらいいかわからなかった。
ルカがぼそりと呟くと、ユリウスが笑った気配がした。整えたユリウスの髪からは、いつもと違う香りがする。
「ユリウスの髪、いつもと違うね」
そう言ってルカが顔を上げると、ユリウスはルカの顔を見てきた。碧い瞳がルカの様子をうかがうように見てくる。そこにルカを気遣うユリウスの気持ちが見えて、ルカは言った。
「大丈夫だよ。元気だから」
ユリウスの頬に両手で触れて、そのまま吸い寄せられるように唇を合わせた。そうしている合間にも、先程見たピンクのドレスの女性が頭にちらつき、ルカはもやもやした心を誤魔化すようにユリウスの唇を割って舌を入れた。
ユリウスは黙って受け入れてくれたが、ルカが唇を離したとき、やはり心配げな顔をした。
「どうした? やはり何かあったか?」
「……何もない」
「エメレンスに何か言われたか?」
ユリウスの心配が思わぬ方向へ傾く。ルカは「違うから」と慌てて否定した。
「エメレンスは、関係ない。ただ……。心の中がもやもやして」
ルカはぽつぽつと、ディックとフォリスに言われたこと、先程ユリウスが女性とダンスを踊っていたこと。それらがルカの中に不安を生み、心の中をぐちゃぐちゃに引っ掻き回されるような得体の知れない気持ちにさせることを吐き出した。
支離滅裂で、結局何が言いたいのか自分でもわからない。要領を得ないルカの話を、ユリウスは最後まで丁寧に聞いてくれた。
「あのな、ルカ。それは俺も同じだ」
「え?」
ユリウスは寝椅子に腰掛けるとルカを膝の上に乗せた。
「俺もルカがエメレンスと一緒にいると思うと、心の中がどす黒くなる。おまえがエメレンスの腕の中に飛び込むのを見て、もやもやしたぞ」
思わぬユリウスの告白に、ルカは目を丸くした。
「でも、エメレンスはユリウスとは違う。こんな気持ちになるのはユリウスだけ。わたしはユリウスとしかキスはしない」
「それならば、俺もそうだ。俺もルカ以外の者にこんな感情は抱かないし、こんなことはしない」
ユリウスはそう言うと、ルカの下唇を軽く食む。そのままルカの頭を片手で支えると上向かせ、開いた口に舌を入れてきた。ぐちゅりと舌を絡め取られ、ルカは喘いだ。
「……んっ、んっ…」
混じり合った唾液が喉に流れ込んでくる。ルカは苦しくなって唇を離そうとしたが、ユリウスは更に深く口づけてくる。ルカはぎゅっとユリウスのタキシードの襟を握りしめた。苦しいと同時に、頭の奥がしびれるような心地よさを伝えてくる。
「んっ……、ユリウス……。苦しいよ」
舌が抜けた合間を縫ってルカが訴えると、ユリウスはルカの呼吸が十分確保できる合間を取って舌を絡めてきた。長い口づけだった。口内を隈なくユリウスの舌がなぞっていく。なぜか下腹がじんと疼いた。
「あっ……。はぁ……はぁ」
ユリウスの唇がやっと離れたときには、ルカは全力疾走したあとのように呼吸が荒かった。ユリウスはルカの背をなだめるように擦った。
「悪い。ルカがあまりかわいいことを言うので、我慢できなかった」
「我慢なんてしなくていい。わたしもユリウスとこうしてたいし。でも……」
ルカは顔を上げた。
「ユリウスが結婚したら、わたしディックたちのところに行っていいかな」
ユリウスはルカとだけこういうことがしたいと言ってくれた。でも、やっぱりあんなきれいな人が一緒に屋敷にいて、ユリウスと仲良くする姿は見たくない。
「ああ、そうか。その問題については何も答えていなかったな」
ユリウスはルカを立たせるとその手を取り、目を覗き込んできた。
「俺は今のところ結婚するつもりはないぞ」
「でもさっき、きれいな女の人とダンスをしてた」
「ああ、あれな。晩餐会だからな。ダンスもするさ」
「でも……」
自分でも、うじうじしているという自覚はある。でもどこからともなく湧いてくる不安はもう誤魔化せなかった。
「いつかは結婚するんでしょ?」
いつか確実に来る未来なら、今のうちに逃げる道が欲しかった。臆病だとなじられてもいい。
「あのな、ルカ」
ユリウスはルカの手を見つめ、次に視線をルカの目に移した。
「俺の側にルカがいる限り、俺は他の誰とも結婚はしない。俺の一番はルカだからな。ルカ以外の者と添い遂げようとは思わん。そう言えばわかってくれるか?」
「わかる、と思う」
ユリウスは、側にルカがいれば誰とも結婚しないと言ってくれているのだ。でもそれでは自分のせいで、ユリウスは結婚できないということにもなる。ユリウスはそれでいいのだろうか。
物問いたげにユリウスを見る。ユリウスは「それは違うぞ」と首を振った。
「ルカの考えていることはわかるぞ。おまえがいるから結婚できないわけではないからな。そこは勘違いするなよ」
そしてユリウスは再びルカを抱き寄せた。
「俺の気持ちはわかったろう。まだ不安か?」
ルカはユリウスの腕の中で首を振った。
たぶん、大丈夫。ずっとユリウスの側にいて、自分だけがユリウスをこんなふうに独占できるのなら、大丈夫。
「ユリウス、大好き」
ルカは溢れ出す感情を持て余し、再びユリウスに口づけた。
なんて話しかければいいのか。わからなくなってルカは膝に額をつけて顔を隠した。
「どうした? ルカ。具合が悪いのか?」
絨毯を踏むユリウスの足音が近づき、次の瞬間には抱き上げられていた。ユリウスは顔をのぞきこもうとしたが、ルカは見られたくなくて、金糸の髪に顔を埋め、その首に腕を回してしがみついた。
「具合は悪くない。大丈夫……」
ただどうしたらいいかわからなかった。
ルカがぼそりと呟くと、ユリウスが笑った気配がした。整えたユリウスの髪からは、いつもと違う香りがする。
「ユリウスの髪、いつもと違うね」
そう言ってルカが顔を上げると、ユリウスはルカの顔を見てきた。碧い瞳がルカの様子をうかがうように見てくる。そこにルカを気遣うユリウスの気持ちが見えて、ルカは言った。
「大丈夫だよ。元気だから」
ユリウスの頬に両手で触れて、そのまま吸い寄せられるように唇を合わせた。そうしている合間にも、先程見たピンクのドレスの女性が頭にちらつき、ルカはもやもやした心を誤魔化すようにユリウスの唇を割って舌を入れた。
ユリウスは黙って受け入れてくれたが、ルカが唇を離したとき、やはり心配げな顔をした。
「どうした? やはり何かあったか?」
「……何もない」
「エメレンスに何か言われたか?」
ユリウスの心配が思わぬ方向へ傾く。ルカは「違うから」と慌てて否定した。
「エメレンスは、関係ない。ただ……。心の中がもやもやして」
ルカはぽつぽつと、ディックとフォリスに言われたこと、先程ユリウスが女性とダンスを踊っていたこと。それらがルカの中に不安を生み、心の中をぐちゃぐちゃに引っ掻き回されるような得体の知れない気持ちにさせることを吐き出した。
支離滅裂で、結局何が言いたいのか自分でもわからない。要領を得ないルカの話を、ユリウスは最後まで丁寧に聞いてくれた。
「あのな、ルカ。それは俺も同じだ」
「え?」
ユリウスは寝椅子に腰掛けるとルカを膝の上に乗せた。
「俺もルカがエメレンスと一緒にいると思うと、心の中がどす黒くなる。おまえがエメレンスの腕の中に飛び込むのを見て、もやもやしたぞ」
思わぬユリウスの告白に、ルカは目を丸くした。
「でも、エメレンスはユリウスとは違う。こんな気持ちになるのはユリウスだけ。わたしはユリウスとしかキスはしない」
「それならば、俺もそうだ。俺もルカ以外の者にこんな感情は抱かないし、こんなことはしない」
ユリウスはそう言うと、ルカの下唇を軽く食む。そのままルカの頭を片手で支えると上向かせ、開いた口に舌を入れてきた。ぐちゅりと舌を絡め取られ、ルカは喘いだ。
「……んっ、んっ…」
混じり合った唾液が喉に流れ込んでくる。ルカは苦しくなって唇を離そうとしたが、ユリウスは更に深く口づけてくる。ルカはぎゅっとユリウスのタキシードの襟を握りしめた。苦しいと同時に、頭の奥がしびれるような心地よさを伝えてくる。
「んっ……、ユリウス……。苦しいよ」
舌が抜けた合間を縫ってルカが訴えると、ユリウスはルカの呼吸が十分確保できる合間を取って舌を絡めてきた。長い口づけだった。口内を隈なくユリウスの舌がなぞっていく。なぜか下腹がじんと疼いた。
「あっ……。はぁ……はぁ」
ユリウスの唇がやっと離れたときには、ルカは全力疾走したあとのように呼吸が荒かった。ユリウスはルカの背をなだめるように擦った。
「悪い。ルカがあまりかわいいことを言うので、我慢できなかった」
「我慢なんてしなくていい。わたしもユリウスとこうしてたいし。でも……」
ルカは顔を上げた。
「ユリウスが結婚したら、わたしディックたちのところに行っていいかな」
ユリウスはルカとだけこういうことがしたいと言ってくれた。でも、やっぱりあんなきれいな人が一緒に屋敷にいて、ユリウスと仲良くする姿は見たくない。
「ああ、そうか。その問題については何も答えていなかったな」
ユリウスはルカを立たせるとその手を取り、目を覗き込んできた。
「俺は今のところ結婚するつもりはないぞ」
「でもさっき、きれいな女の人とダンスをしてた」
「ああ、あれな。晩餐会だからな。ダンスもするさ」
「でも……」
自分でも、うじうじしているという自覚はある。でもどこからともなく湧いてくる不安はもう誤魔化せなかった。
「いつかは結婚するんでしょ?」
いつか確実に来る未来なら、今のうちに逃げる道が欲しかった。臆病だとなじられてもいい。
「あのな、ルカ」
ユリウスはルカの手を見つめ、次に視線をルカの目に移した。
「俺の側にルカがいる限り、俺は他の誰とも結婚はしない。俺の一番はルカだからな。ルカ以外の者と添い遂げようとは思わん。そう言えばわかってくれるか?」
「わかる、と思う」
ユリウスは、側にルカがいれば誰とも結婚しないと言ってくれているのだ。でもそれでは自分のせいで、ユリウスは結婚できないということにもなる。ユリウスはそれでいいのだろうか。
物問いたげにユリウスを見る。ユリウスは「それは違うぞ」と首を振った。
「ルカの考えていることはわかるぞ。おまえがいるから結婚できないわけではないからな。そこは勘違いするなよ」
そしてユリウスは再びルカを抱き寄せた。
「俺の気持ちはわかったろう。まだ不安か?」
ルカはユリウスの腕の中で首を振った。
たぶん、大丈夫。ずっとユリウスの側にいて、自分だけがユリウスをこんなふうに独占できるのなら、大丈夫。
「ユリウス、大好き」
ルカは溢れ出す感情を持て余し、再びユリウスに口づけた。
10
あなたにおすすめの小説
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる