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終幕
たくさんの愛に包まれて(終)
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「ねぇリサ。今日の服、すごくひらひらしてない? これじゃあアントンのお手伝いがしにくいよ。それにこんな真っ白な服じゃあすぐに汚しちゃう」
秋も深まり、林の木々は色づき、朝晩は底冷えのするほど冷たい風が吹くようになった。昨日、モント領では初雪が舞った。曇天から舞い降りた雪は、小一時間ほどで止んだが、庭の芝生が綿毛を被ったように白くなった。
今朝は朝の散歩から帰ると、なぜかリサに浴室へ押し込まれた。仕方なく汗を流し出ていったら、待ち構えていたリサにレースをふんだんに使った真っ白なドレスを着付けられた。ふわふわしているし、昨日降った初雪みたいだ。
「あら、いいのよ。今日はお手伝いはなしよ。なんて言ったって今日の主役はルカなんだから」
はてなを浮かべるルカの腕を引くと、リサは鏡の前にルカを座らせた。鏡越しに映るドレスを着た自分は別人のようで、ルカは思わず鏡の中の自分をじっと見つめた。エメレンスに連れられて行った晩餐会にいた女の人達みたいだ。
「……素敵なドレスだね」
ルカは魅入ったままぽつりと呟いた。リサは鏡台の引き出しからリボンを取り出した。
「それって……」
ラウによりフロールの魂を飲まされた日に、林で落とした金色のリボンだった。
「わたしの落としたリボン…。どうして?」
ここにあるのだろうか。それともよく似た別の物をリサが用意してくれたのだろうか。
「あの日、ユリウス様が林で拾われたのよ。でもルカがあの時のことを思い出したら、怖い思いをするだろうからとユリウス様がおっしゃるので、あえて見せなかったのですよ」
「…そうなんだ」
ユリウスは、どこにでもある珍しくもないリボンが、よくルカのものだとわかったものだ。その色に自分の髪色を重ね、ルカが欲しがるかもしれないと思ったのだろうか。何もかも見透かされているようで、恥ずかしい。
一人悶々とするルカに構わず、リサはルカの髪を結い上げ、仕上げに金色のリボンで飾った。どこかの舞踏会にでも行けそうな格好だ。ルカはまたしてもブラウ離宮での晩餐会を思い出した。ひらひら舞うドレスの裾を翻しながら、キラキラ輝くシャンデリアの下で優雅に舞っていた女の人達の姿だ。ルカはダンスはできないが、ユリウスと踊れたら素敵だろうな。
そんな想像をしながら、ぼうっと鏡の中の自分を見つめていたら、その鏡の中にユリウスの姿が映り込んだ。
ユリウスは、いつかの晩餐会の夜のように、黒のタキシードをぴしりと着こなし、髪を後ろへ撫でつけている。ルカは笑いながら後ろを振り返った。
「ユリウスまでそんな格好して、今日は何かあるの?」
いつもの屋敷で、ルカとユリウスだけおめかしして、舞踏会に行くつもりが道に迷って日常に入り込んだ道化の二人みたいだ。
ルカが笑うと、ユリウスも照れたように笑いながら、いきなりすっと片膝をついた。
「俺は服装などいつもと同じで良いと言ったのだがな。リサやカレルによると、こういうことは形が大事らしいからな」
ユリウスはルカの前に跪くと、ルカの手を取った。大きな手の平でユリウスはルカの手を自分の口元に引き寄せると軽く手の甲に口づけた。
「……ユリウス…?」
「結婚しよう、ルカ。生涯ルカだけを愛し、共に生きるとここに誓う」
「えっと……」
いきなりのユリウスの言葉に、ルカはどう反応を返せばいいのかわからなかった。こういう時、頼りになるはずのリサはいつの間にか部屋から消えている。
「あの、ユリウス?」
「なんだ?」
「でもわたしは…」
ルカはその先に続く言葉を飲み込んだ。
ルカはユリウスの奴隷だ。時々そのことを忘れそうになるほど、ユリウスも屋敷のみんなも良くしてくれるけれど、そのことを心の片隅から完全に消したことは一時もない。奴隷との婚姻が認められていないことはルカも知っている。だからこそ真正直なユリウスは、口先だけの言葉をこれまでルカに言わなかったのだとわかっている。
それが、いきなりどうしたのだろう。
ルカが戸惑っていると、ユリウスは「実はな」とルカの顔を見上げた。
「今日、聖バッケル王国はじまって以来の大恩赦が出されてな。希少種の奴隷解放が決まったんだ。今日より後、この国から奴隷はいなくなる」
「……うそ」
そんな都合のいい夢みたいな話があるのだろうか。あのライニール王が? あのオーラフ宰相が? そんな決定を下した? ありえない。そんなこと絶対にありえない。
「うそだ…。そんな冗談、笑えないよ?」
「俺がうそや冗談を言うと思うのか?」
確かにそんなユリウス見たことはない。
「……言わない、かも」
「ほら、ルカ、俺は確かな返事が欲しいんだが」
差し出された大きな手に、ルカはふわふわした心地で吸い寄せられるようにユリウスの腕の中に飛び込んだ。ちゃんと返事をしようと思ったのに、涙まじりのか細い声で、「…はい」と返すのがやっとだった―――。
思えばオーラフ宰相と王宮で話した時、ユリウスは去り際に恩赦のことを口にしていた。
あの時は何のことか意味はわからなかったが、暗にユリウスがオーラフ宰相にこの恩赦の決断を迫っていたとしたら、これも全部ユリウスのおかげだ。ルカはあの時、オーラフ宰相とユリウスの緊迫した雰囲気にのまれて、終始ただじっと座っていることしかできなかったのに。
ユリウスのプロポーズを受けたあと、手を引かれるまま、ルカは玄関ホールまで出た。そこはいつものホールと全く様子が違っていた。
ホールを取り囲むように宝石をあしらった燭台が並び、まるで即席のシャンデリアのようにホールを照らしている。そのホールには、いつもの屋敷の面々(いつ着替えたのか、リサも細身のドレスを着て、カレルはいつものテールコートだけれど胸ポケットにポケットチーフをのぞかせ、ボブも初めて見るタキシード姿。ノルデンに、なんとアントンまでジャケットを羽織っている)に加えて、コーバスにクライドが青い騎士団服で佇んでおり、林の希少種達もみんないる。フォリスも目立つようになったお腹を、少し持て余したようにディックによりかかり立っていた。
ユリウスとルカが玄関ホールに入っていくと、皆が一斉に拍手を送り、「おめでとう!」と祝福の言葉を口にする。ルカはただただ驚いたが、ユリウスは知っていたとみえる。「ありがとう」とみんなの祝福に応えている。
しばらくはこの状況についていけなかったが、次第に落ち着いてくると、リサに浴場へ押し込まれた辺りからのことを思い出し、全て見越してのことだったのだと遅まきながら理解した。
「ねぇ、ユリウス。これって結婚式なの?」
花嫁が白いドレスを着ることをルカも知っている。本で読んだ物語では、聖堂に集った人々の前で結婚の誓約を交わす。場所は屋敷の玄関ホールだけれど、まるで結婚式のようだ。
「リサが今日の恩赦のことを知ってから、どうしても皆で祝福したいと言ってくれてな。密かに準備をしてきたんだ。ルカの喜ぶ顔を、みんな見たいと思っているんだ」
ユリウスにエスコートされながらホールの中央まで歩いていくと、ホールの端からこちらを見る二人の人物に気がついた。ユリウスによく似た大柄な体躯の紳士と、金髪碧眼の優しい目をした淑女だ。この二人の姿をルカは知っていた。迷い込んだ迷宮水路で、ユリウスが父と母と呼んでいた二人だ。
ルカは一気に緊張の度合いを深めた。水路で、二人はルカの存在に否定的で、快く思っていない発言をしていたからだ。
ユリウスはルカを伴い、二人の側へと近寄った。本当は足を止めたかったけれど、ユリウスに引かれるまま二人の前に立った。
「はじめまして。かわいらしい花嫁さんね、ユリウス」
「間違いなく希少種の第一号の花嫁だ。歴史に名を刻む出来事だな。いや、めでたい」
二人から好意的な言葉が飛び出し、ルカは思わずユリウスを見上げた。
「どうした? 何か言われるかと心配していたか?」
「うん……。だって水路ではユリウスと言い争いをしていたから」
「父も母もな、こう見えて俺のよき理解者だ」
「こう見えては余計だぞ、ユリウス」
すぐさまユリウスの父から言葉が返ってきて、ルカはおかしくて笑った。その笑顔のまま、ルカはユリウスの父と母にぺこりと頭を下げた。
ありがとうございますの思いは言葉として形をなさなかったけれど、ルカの思いは伝わったはずだ。ルカは、屋敷のみんなや、林の仲間や、コーバス、クライドにも感謝を込めてその姿を順に瞳におさめていった。
「一曲踊っていただけますか」
ユリウスが胸に手をあて、ルカの手をとり一礼した。それを機に、林の希少種達が楽器を構え、音楽を奏でだした。希少種達の中には、貴族や王族を愉しませるため、楽器を奏でられる者が少なくない。スローテンポの緩やかな調べにルカは、「わたし、踊れないよ? 知ってるでしょ?」とユリウスを見上げれば、「なに、こういうのは適当に足を動かしていればいいんだ」とユリウス。
そんなめちゃくちゃなと思ったが、ユリウスはルカの腰に手を回すと軽やかにステップを踏み出した。
「だめだよユリウス。きゃ……」
ユリウスの動きに合わせ、勝手に足が動き出す。と思ったら腰を掴まれ、くるりと一回転させられルカは悲鳴をあげた。それへ、周りから一斉に歓声があがる。集まったみんなは、それを機に一緒に踊りだした。
燭台の宝石が煌めいて、まるで夢の中みたいだ。ここには、ルカの欲しかったものが全てある。愛する人も、愛する家族も、愛すべき仲間も、ここにはいる。
心の奥底に巣食う林はもういらない。これからはたくさんの愛を与えてくれた人達と共に、ルカは生きる。
秋も深まり、林の木々は色づき、朝晩は底冷えのするほど冷たい風が吹くようになった。昨日、モント領では初雪が舞った。曇天から舞い降りた雪は、小一時間ほどで止んだが、庭の芝生が綿毛を被ったように白くなった。
今朝は朝の散歩から帰ると、なぜかリサに浴室へ押し込まれた。仕方なく汗を流し出ていったら、待ち構えていたリサにレースをふんだんに使った真っ白なドレスを着付けられた。ふわふわしているし、昨日降った初雪みたいだ。
「あら、いいのよ。今日はお手伝いはなしよ。なんて言ったって今日の主役はルカなんだから」
はてなを浮かべるルカの腕を引くと、リサは鏡の前にルカを座らせた。鏡越しに映るドレスを着た自分は別人のようで、ルカは思わず鏡の中の自分をじっと見つめた。エメレンスに連れられて行った晩餐会にいた女の人達みたいだ。
「……素敵なドレスだね」
ルカは魅入ったままぽつりと呟いた。リサは鏡台の引き出しからリボンを取り出した。
「それって……」
ラウによりフロールの魂を飲まされた日に、林で落とした金色のリボンだった。
「わたしの落としたリボン…。どうして?」
ここにあるのだろうか。それともよく似た別の物をリサが用意してくれたのだろうか。
「あの日、ユリウス様が林で拾われたのよ。でもルカがあの時のことを思い出したら、怖い思いをするだろうからとユリウス様がおっしゃるので、あえて見せなかったのですよ」
「…そうなんだ」
ユリウスは、どこにでもある珍しくもないリボンが、よくルカのものだとわかったものだ。その色に自分の髪色を重ね、ルカが欲しがるかもしれないと思ったのだろうか。何もかも見透かされているようで、恥ずかしい。
一人悶々とするルカに構わず、リサはルカの髪を結い上げ、仕上げに金色のリボンで飾った。どこかの舞踏会にでも行けそうな格好だ。ルカはまたしてもブラウ離宮での晩餐会を思い出した。ひらひら舞うドレスの裾を翻しながら、キラキラ輝くシャンデリアの下で優雅に舞っていた女の人達の姿だ。ルカはダンスはできないが、ユリウスと踊れたら素敵だろうな。
そんな想像をしながら、ぼうっと鏡の中の自分を見つめていたら、その鏡の中にユリウスの姿が映り込んだ。
ユリウスは、いつかの晩餐会の夜のように、黒のタキシードをぴしりと着こなし、髪を後ろへ撫でつけている。ルカは笑いながら後ろを振り返った。
「ユリウスまでそんな格好して、今日は何かあるの?」
いつもの屋敷で、ルカとユリウスだけおめかしして、舞踏会に行くつもりが道に迷って日常に入り込んだ道化の二人みたいだ。
ルカが笑うと、ユリウスも照れたように笑いながら、いきなりすっと片膝をついた。
「俺は服装などいつもと同じで良いと言ったのだがな。リサやカレルによると、こういうことは形が大事らしいからな」
ユリウスはルカの前に跪くと、ルカの手を取った。大きな手の平でユリウスはルカの手を自分の口元に引き寄せると軽く手の甲に口づけた。
「……ユリウス…?」
「結婚しよう、ルカ。生涯ルカだけを愛し、共に生きるとここに誓う」
「えっと……」
いきなりのユリウスの言葉に、ルカはどう反応を返せばいいのかわからなかった。こういう時、頼りになるはずのリサはいつの間にか部屋から消えている。
「あの、ユリウス?」
「なんだ?」
「でもわたしは…」
ルカはその先に続く言葉を飲み込んだ。
ルカはユリウスの奴隷だ。時々そのことを忘れそうになるほど、ユリウスも屋敷のみんなも良くしてくれるけれど、そのことを心の片隅から完全に消したことは一時もない。奴隷との婚姻が認められていないことはルカも知っている。だからこそ真正直なユリウスは、口先だけの言葉をこれまでルカに言わなかったのだとわかっている。
それが、いきなりどうしたのだろう。
ルカが戸惑っていると、ユリウスは「実はな」とルカの顔を見上げた。
「今日、聖バッケル王国はじまって以来の大恩赦が出されてな。希少種の奴隷解放が決まったんだ。今日より後、この国から奴隷はいなくなる」
「……うそ」
そんな都合のいい夢みたいな話があるのだろうか。あのライニール王が? あのオーラフ宰相が? そんな決定を下した? ありえない。そんなこと絶対にありえない。
「うそだ…。そんな冗談、笑えないよ?」
「俺がうそや冗談を言うと思うのか?」
確かにそんなユリウス見たことはない。
「……言わない、かも」
「ほら、ルカ、俺は確かな返事が欲しいんだが」
差し出された大きな手に、ルカはふわふわした心地で吸い寄せられるようにユリウスの腕の中に飛び込んだ。ちゃんと返事をしようと思ったのに、涙まじりのか細い声で、「…はい」と返すのがやっとだった―――。
思えばオーラフ宰相と王宮で話した時、ユリウスは去り際に恩赦のことを口にしていた。
あの時は何のことか意味はわからなかったが、暗にユリウスがオーラフ宰相にこの恩赦の決断を迫っていたとしたら、これも全部ユリウスのおかげだ。ルカはあの時、オーラフ宰相とユリウスの緊迫した雰囲気にのまれて、終始ただじっと座っていることしかできなかったのに。
ユリウスのプロポーズを受けたあと、手を引かれるまま、ルカは玄関ホールまで出た。そこはいつものホールと全く様子が違っていた。
ホールを取り囲むように宝石をあしらった燭台が並び、まるで即席のシャンデリアのようにホールを照らしている。そのホールには、いつもの屋敷の面々(いつ着替えたのか、リサも細身のドレスを着て、カレルはいつものテールコートだけれど胸ポケットにポケットチーフをのぞかせ、ボブも初めて見るタキシード姿。ノルデンに、なんとアントンまでジャケットを羽織っている)に加えて、コーバスにクライドが青い騎士団服で佇んでおり、林の希少種達もみんないる。フォリスも目立つようになったお腹を、少し持て余したようにディックによりかかり立っていた。
ユリウスとルカが玄関ホールに入っていくと、皆が一斉に拍手を送り、「おめでとう!」と祝福の言葉を口にする。ルカはただただ驚いたが、ユリウスは知っていたとみえる。「ありがとう」とみんなの祝福に応えている。
しばらくはこの状況についていけなかったが、次第に落ち着いてくると、リサに浴場へ押し込まれた辺りからのことを思い出し、全て見越してのことだったのだと遅まきながら理解した。
「ねぇ、ユリウス。これって結婚式なの?」
花嫁が白いドレスを着ることをルカも知っている。本で読んだ物語では、聖堂に集った人々の前で結婚の誓約を交わす。場所は屋敷の玄関ホールだけれど、まるで結婚式のようだ。
「リサが今日の恩赦のことを知ってから、どうしても皆で祝福したいと言ってくれてな。密かに準備をしてきたんだ。ルカの喜ぶ顔を、みんな見たいと思っているんだ」
ユリウスにエスコートされながらホールの中央まで歩いていくと、ホールの端からこちらを見る二人の人物に気がついた。ユリウスによく似た大柄な体躯の紳士と、金髪碧眼の優しい目をした淑女だ。この二人の姿をルカは知っていた。迷い込んだ迷宮水路で、ユリウスが父と母と呼んでいた二人だ。
ルカは一気に緊張の度合いを深めた。水路で、二人はルカの存在に否定的で、快く思っていない発言をしていたからだ。
ユリウスはルカを伴い、二人の側へと近寄った。本当は足を止めたかったけれど、ユリウスに引かれるまま二人の前に立った。
「はじめまして。かわいらしい花嫁さんね、ユリウス」
「間違いなく希少種の第一号の花嫁だ。歴史に名を刻む出来事だな。いや、めでたい」
二人から好意的な言葉が飛び出し、ルカは思わずユリウスを見上げた。
「どうした? 何か言われるかと心配していたか?」
「うん……。だって水路ではユリウスと言い争いをしていたから」
「父も母もな、こう見えて俺のよき理解者だ」
「こう見えては余計だぞ、ユリウス」
すぐさまユリウスの父から言葉が返ってきて、ルカはおかしくて笑った。その笑顔のまま、ルカはユリウスの父と母にぺこりと頭を下げた。
ありがとうございますの思いは言葉として形をなさなかったけれど、ルカの思いは伝わったはずだ。ルカは、屋敷のみんなや、林の仲間や、コーバス、クライドにも感謝を込めてその姿を順に瞳におさめていった。
「一曲踊っていただけますか」
ユリウスが胸に手をあて、ルカの手をとり一礼した。それを機に、林の希少種達が楽器を構え、音楽を奏でだした。希少種達の中には、貴族や王族を愉しませるため、楽器を奏でられる者が少なくない。スローテンポの緩やかな調べにルカは、「わたし、踊れないよ? 知ってるでしょ?」とユリウスを見上げれば、「なに、こういうのは適当に足を動かしていればいいんだ」とユリウス。
そんなめちゃくちゃなと思ったが、ユリウスはルカの腰に手を回すと軽やかにステップを踏み出した。
「だめだよユリウス。きゃ……」
ユリウスの動きに合わせ、勝手に足が動き出す。と思ったら腰を掴まれ、くるりと一回転させられルカは悲鳴をあげた。それへ、周りから一斉に歓声があがる。集まったみんなは、それを機に一緒に踊りだした。
燭台の宝石が煌めいて、まるで夢の中みたいだ。ここには、ルカの欲しかったものが全てある。愛する人も、愛する家族も、愛すべき仲間も、ここにはいる。
心の奥底に巣食う林はもういらない。これからはたくさんの愛を与えてくれた人達と共に、ルカは生きる。
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