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4 私に「謝れ」と貴方が言うの?
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モルゲンロートとシュヴァルツヴァルト。
この二国の争いが始まったのは、私が生まれる以前のことで。
その火種となったのが、
我がモルゲンロートとシュヴァルツヴァルトとの国境にある、とある金鉱山の存在でした。
その金鉱山は非常に豊かな鉱脈を持っていたらしく、莫大な量の金を産出したそうで。
この鉱山の所有権を巡って、モルゲンロートとシュヴァルツヴァルトは激しく対立。
国境付近では両国の小競り合いが絶えなかったものの、当初はまだ本格的な戦争には至ることはなく。
特に目立った被害はありませんでした。
ですが三年前のとある日。
なにが引き金だったのか、小さな争いは突如として全面戦争へと発展してしまいました。
開戦当初、地の利で勝る我がモルゲンロート側が優勢かと思われていましたが。
シュヴァルツヴァルトの軍事力は強大で、我が国の前線は日に日に後方へと押し込まれていきました。
……そして。
北の前線に私の出陣が決まったのは、今から遡ることちょうど一年前のことで。
『フランツェスカ。現在の我が国の戦況はお前も知っておろう?』
『……はい、お父様。聞き及んでおります』
『北の前線、あの地を突破されてしまえばシュヴァルツヴァルトの軍勢はこの王都まで我が物顔で進軍してくるだろう。それだけは絶対に阻止せねばならん』
『はい』
『……そして王たる者は民を導いてやらねばならぬ。フランツェスカ、お前も来年成人すれば王太女となる。よって北方前線の指揮をお前に全て任せる』
『は……? 任せるって……』
『女王となる覚悟を示せ』
『えっ……』
『モルゲンロートの未来のために。そして国民のために……北に行ってこい、フランツェスカ』
そうしてクソ親父は、私に一人の護衛も付けず。
戦闘が激化していた北の最前線へと、成人前の私を送り込んだのです。
……今にして思いますと。
この出陣命令は、王位継承者の私を戦争で死なせる為の口実だったのです。
だってクソ親父は私に、
『生きて帰って来い』とは、一言も言わなかったのですから――。
「――フランツェスカ、アリーシアに謝れ」
「は? 私が謝る? アリーシアに……? え、それは今流行りの冗談かなにか……」
もしやとは思いますが……本気ですか?
「アリーシアは身体が辛いのに無理して、君に会いにここまできてくれたんだぞ? それなのに……感謝するどころか、彼女を貶めるようなことを言うなんて……! 君はそれでも姉なのか!?」
「……なにを言い出すのかと思えば実にくだらない。私はアリーシアに会いに来いだなんて頼んだ覚えはございませんが? 勝手にこの子がここにやってきただけでしょう」
いっそのこと『会いに来ないで』とでも、アリーシアに頼んでおけばよかったのかもしれません。
そうすればこんな不愉快な気分にならずに済んだのですから。
もっと早く気が付いていればそうしましたのに、とても残念です。
でももし次があるなら『迷惑ですので来訪はお控えください』と、手紙にでも書いて送ることにいたしましょう。
「なっ……!? フランツェスカ! その酷い言い草はなんだ! アリーシアは君のことを心配して会いに……!」
「……ええと、大変申し上げにくいのですが。アリーシアが住まう宮からここまでは、のんびり歩いても五分ほどの距離ですけれど? もしやご存じなかった……?」
それに『アリーシアは身体が辛いのに無理して私に会いに来た』とレナードは言いますが。
先ほど、とっても元気そうに声を張り上げていたように……見えたのですが?
「レナード様……! 私は大丈夫ですわ、だからフランツェスカお姉様をあまり責めないであげてくださいませ」
「アリーシア、君は本当に優しい子だな……」
「そんな、私なんて……。それにフランツェスカお姉様も今は気が立っておられるだけですわ、落ち着かれたら……きっとレナード様の苦しいお気持ちも、わかってくださいます!」
「アリーシア……!」
花が綻ぶような甘い笑顔を浮かべて、にっこりと可愛らしく微笑むアリーシア。
そんなアリーシアに、レナードは見惚れるように頬を赤く染める。
ある意味、私はアリーシアがすごいと思う。
腹黒という言葉では到底言い表せない、それはもはや芸術の域。
それに引き換えレナード。
貴方の頭の中はお花畑かなにか……かしら?
この男のことを信頼していた自分が恥ずかしい、それと同時にこの国の先行きが心配になりました。
「……酷い三文芝居ですね。あとはお二人でお好きにどうぞ? 私は疲れたので先に部屋に帰らせてもらいます」
……なんか、うん。はい。
もう、どうでもよくなってきました。
さっきまでの激しい怒りが、呆れに変わりました。
だから私は再びくるりと方向を転換して、歩き出しました。
「フランツェスカ、待て……!」
それでもまだレナードが私を呼び止めようとするけれど、もう私には話すことがありません。
……それに。
これ以上話したところで、なんの意味もありません。
だって来週には迎えがやって来て、私は敵国だったシュヴァルツヴァルトに嫁いでいくのですから。
モルゲンロートとシュヴァルツヴァルト。
この二国の争いが始まったのは、私が生まれる以前のことで。
その火種となったのが、
我がモルゲンロートとシュヴァルツヴァルトとの国境にある、とある金鉱山の存在でした。
その金鉱山は非常に豊かな鉱脈を持っていたらしく、莫大な量の金を産出したそうで。
この鉱山の所有権を巡って、モルゲンロートとシュヴァルツヴァルトは激しく対立。
国境付近では両国の小競り合いが絶えなかったものの、当初はまだ本格的な戦争には至ることはなく。
特に目立った被害はありませんでした。
ですが三年前のとある日。
なにが引き金だったのか、小さな争いは突如として全面戦争へと発展してしまいました。
開戦当初、地の利で勝る我がモルゲンロート側が優勢かと思われていましたが。
シュヴァルツヴァルトの軍事力は強大で、我が国の前線は日に日に後方へと押し込まれていきました。
……そして。
北の前線に私の出陣が決まったのは、今から遡ることちょうど一年前のことで。
『フランツェスカ。現在の我が国の戦況はお前も知っておろう?』
『……はい、お父様。聞き及んでおります』
『北の前線、あの地を突破されてしまえばシュヴァルツヴァルトの軍勢はこの王都まで我が物顔で進軍してくるだろう。それだけは絶対に阻止せねばならん』
『はい』
『……そして王たる者は民を導いてやらねばならぬ。フランツェスカ、お前も来年成人すれば王太女となる。よって北方前線の指揮をお前に全て任せる』
『は……? 任せるって……』
『女王となる覚悟を示せ』
『えっ……』
『モルゲンロートの未来のために。そして国民のために……北に行ってこい、フランツェスカ』
そうしてクソ親父は、私に一人の護衛も付けず。
戦闘が激化していた北の最前線へと、成人前の私を送り込んだのです。
……今にして思いますと。
この出陣命令は、王位継承者の私を戦争で死なせる為の口実だったのです。
だってクソ親父は私に、
『生きて帰って来い』とは、一言も言わなかったのですから――。
「――フランツェスカ、アリーシアに謝れ」
「は? 私が謝る? アリーシアに……? え、それは今流行りの冗談かなにか……」
もしやとは思いますが……本気ですか?
「アリーシアは身体が辛いのに無理して、君に会いにここまできてくれたんだぞ? それなのに……感謝するどころか、彼女を貶めるようなことを言うなんて……! 君はそれでも姉なのか!?」
「……なにを言い出すのかと思えば実にくだらない。私はアリーシアに会いに来いだなんて頼んだ覚えはございませんが? 勝手にこの子がここにやってきただけでしょう」
いっそのこと『会いに来ないで』とでも、アリーシアに頼んでおけばよかったのかもしれません。
そうすればこんな不愉快な気分にならずに済んだのですから。
もっと早く気が付いていればそうしましたのに、とても残念です。
でももし次があるなら『迷惑ですので来訪はお控えください』と、手紙にでも書いて送ることにいたしましょう。
「なっ……!? フランツェスカ! その酷い言い草はなんだ! アリーシアは君のことを心配して会いに……!」
「……ええと、大変申し上げにくいのですが。アリーシアが住まう宮からここまでは、のんびり歩いても五分ほどの距離ですけれど? もしやご存じなかった……?」
それに『アリーシアは身体が辛いのに無理して私に会いに来た』とレナードは言いますが。
先ほど、とっても元気そうに声を張り上げていたように……見えたのですが?
「レナード様……! 私は大丈夫ですわ、だからフランツェスカお姉様をあまり責めないであげてくださいませ」
「アリーシア、君は本当に優しい子だな……」
「そんな、私なんて……。それにフランツェスカお姉様も今は気が立っておられるだけですわ、落ち着かれたら……きっとレナード様の苦しいお気持ちも、わかってくださいます!」
「アリーシア……!」
花が綻ぶような甘い笑顔を浮かべて、にっこりと可愛らしく微笑むアリーシア。
そんなアリーシアに、レナードは見惚れるように頬を赤く染める。
ある意味、私はアリーシアがすごいと思う。
腹黒という言葉では到底言い表せない、それはもはや芸術の域。
それに引き換えレナード。
貴方の頭の中はお花畑かなにか……かしら?
この男のことを信頼していた自分が恥ずかしい、それと同時にこの国の先行きが心配になりました。
「……酷い三文芝居ですね。あとはお二人でお好きにどうぞ? 私は疲れたので先に部屋に帰らせてもらいます」
……なんか、うん。はい。
もう、どうでもよくなってきました。
さっきまでの激しい怒りが、呆れに変わりました。
だから私は再びくるりと方向を転換して、歩き出しました。
「フランツェスカ、待て……!」
それでもまだレナードが私を呼び止めようとするけれど、もう私には話すことがありません。
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これ以上話したところで、なんの意味もありません。
だって来週には迎えがやって来て、私は敵国だったシュヴァルツヴァルトに嫁いでいくのですから。
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