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6 悪女の中の悪女
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――翌日。
シュバルツバルトからの迎えが予定よりも早く到着したと、伝令の騎士によって報告がなされた。
その報告によれば彼らがモルゲンロート王宮へ到着したのは私が帰還したその翌朝のことで、今は王宮の貴賓室でお待ちいただいているという。
そしてその報せが私の元へ届いたのは、穏やかな昼下がりのことで。
予定よりもずいぶんと早いシュヴァルツヴァルト使節団の到着は、モルゲンロート王宮をざわつかせた。
そして改めて私の輿入れについて、両国で検討がなされ。
その結果として。
私のシュヴァルツヴァルトへの輿入れが、大幅に繰り上げられることになった。
ただでさえ準備期間が足りないというのに、シュヴァルツヴァルトからの迎えが予定より早くやって来たせいで私は、さらに時間的な猶予を失う羽目になってしまったのです。
『相手の都合を少しは考えろ』
そう心の中で憤るけれど、それを表に出すことはできません。
シュヴァルツヴァルトの王太子妃となる以上これからはあちらの考えに従わねばならず、これまでのように生きることは決して許されない。
その事実を、この一件で改めて思い知らされてしまいました。
重苦しい溜息を吐きながら、私は鏡の前でヘルマに今夜の支度を任せています。
私はこの後、シュヴァルツヴァルトトの使節団に歓迎の挨拶をしなければいけないのです。
正直なところ時間がかなり惜しいですが、こればかりは仕方ありません。
シュヴァルツヴァルトは少しでも気を抜けば足をすくわれかねない厄介な相手であり、気を引き締めてかかる必要があるのですから。
「ねぇ、ヘルマ。シュヴァルツヴァルトから迎えが来るのって……来週の予定ではなかった?」
「私もそう聞き及んでおりますが……」
「……せっかちな男は女に嫌われるって、ご存じないのかしらね?」
「ふふ、そうでございますね。あ……姫様、動かないでください、紅がずれてしまいます」
「……それはそうとして、ヘルマ? 鏡の中に物語に登場しそうな『悪女』が映っているような気がするのだけれど……気のせいかしら?」
鏡に映る自分の変わり果てた姿に、思わず非難の声が出ました。
「姫様、これでもかなり抑えてもらったほうなのございますよ」
「抑えた……? これが!?」
驚いて、つい聞き返してしまう。
これが控えてもらった結果というのなら、元々の案だったらいったいどんなドレスに仕上がっていたというのでしょうか。
今のこの姿を例えていうのなら。
国費を無駄にする馬鹿王女……でしょうか?
装飾過多な真紅のドレスは煌びやか過ぎて鏡越しに見ているだけで目が痛くなってきますし、宝石の付けすぎで普通に重い。
それに顔の傷を隠すために何度も何度も塗り重ねられた白粉は仮面のようにぶ厚くて、元の顔がわかりません。
そして私の赤い髪が真紅のドレスと合わさり、悪女の中の悪女となってしまっていました。
「はい。本当はこのドレス、更に豪華絢爛な金のドレスになる予定だったのです……」
「金……? もしかして金箔でもドレスに貼り付けるつもり……だったとか?」
王女という立場上、これまで色々なドレスを着てきましたが……金のドレスなんて見た事も聞いたこともありません。
「姫様、まさにその通りでございました。ですが私が『これ以上は重くて姫様が歩けません』と申し上げましたところ、やっと変更を許されまして……このドレスに落ち着いた次第です」
自然と溜め息がもれました。
そして、このドレスを仕立てるように指示したであろう人物の顔がすぐに頭に浮かんできました。
側妃カトリーナ。
彼女は親切にみせかけて、ことある事に私を陥れようと策略してきましたから。
「……考案したのはたぶん、カトリーナ様ね? 大方、国費を無駄にする悪辣な王女としてシュバルツバルトに送り出そうっていう魂胆……かしら」
「姫様……」
申し訳なさそうに視線を落としたヘルマの反応を見る限り、私の予想は当たっていたらしく。
もう一度鏡越しに自分の姿を見れば。
どこからどう見ても悪女にしか見えない自分の姿が滑稽で、私の口からは笑いがこぼれていました。
――翌日。
シュバルツバルトからの迎えが予定よりも早く到着したと、伝令の騎士によって報告がなされた。
その報告によれば彼らがモルゲンロート王宮へ到着したのは私が帰還したその翌朝のことで、今は王宮の貴賓室でお待ちいただいているという。
そしてその報せが私の元へ届いたのは、穏やかな昼下がりのことで。
予定よりもずいぶんと早いシュヴァルツヴァルト使節団の到着は、モルゲンロート王宮をざわつかせた。
そして改めて私の輿入れについて、両国で検討がなされ。
その結果として。
私のシュヴァルツヴァルトへの輿入れが、大幅に繰り上げられることになった。
ただでさえ準備期間が足りないというのに、シュヴァルツヴァルトからの迎えが予定より早くやって来たせいで私は、さらに時間的な猶予を失う羽目になってしまったのです。
『相手の都合を少しは考えろ』
そう心の中で憤るけれど、それを表に出すことはできません。
シュヴァルツヴァルトの王太子妃となる以上これからはあちらの考えに従わねばならず、これまでのように生きることは決して許されない。
その事実を、この一件で改めて思い知らされてしまいました。
重苦しい溜息を吐きながら、私は鏡の前でヘルマに今夜の支度を任せています。
私はこの後、シュヴァルツヴァルトトの使節団に歓迎の挨拶をしなければいけないのです。
正直なところ時間がかなり惜しいですが、こればかりは仕方ありません。
シュヴァルツヴァルトは少しでも気を抜けば足をすくわれかねない厄介な相手であり、気を引き締めてかかる必要があるのですから。
「ねぇ、ヘルマ。シュヴァルツヴァルトから迎えが来るのって……来週の予定ではなかった?」
「私もそう聞き及んでおりますが……」
「……せっかちな男は女に嫌われるって、ご存じないのかしらね?」
「ふふ、そうでございますね。あ……姫様、動かないでください、紅がずれてしまいます」
「……それはそうとして、ヘルマ? 鏡の中に物語に登場しそうな『悪女』が映っているような気がするのだけれど……気のせいかしら?」
鏡に映る自分の変わり果てた姿に、思わず非難の声が出ました。
「姫様、これでもかなり抑えてもらったほうなのございますよ」
「抑えた……? これが!?」
驚いて、つい聞き返してしまう。
これが控えてもらった結果というのなら、元々の案だったらいったいどんなドレスに仕上がっていたというのでしょうか。
今のこの姿を例えていうのなら。
国費を無駄にする馬鹿王女……でしょうか?
装飾過多な真紅のドレスは煌びやか過ぎて鏡越しに見ているだけで目が痛くなってきますし、宝石の付けすぎで普通に重い。
それに顔の傷を隠すために何度も何度も塗り重ねられた白粉は仮面のようにぶ厚くて、元の顔がわかりません。
そして私の赤い髪が真紅のドレスと合わさり、悪女の中の悪女となってしまっていました。
「はい。本当はこのドレス、更に豪華絢爛な金のドレスになる予定だったのです……」
「金……? もしかして金箔でもドレスに貼り付けるつもり……だったとか?」
王女という立場上、これまで色々なドレスを着てきましたが……金のドレスなんて見た事も聞いたこともありません。
「姫様、まさにその通りでございました。ですが私が『これ以上は重くて姫様が歩けません』と申し上げましたところ、やっと変更を許されまして……このドレスに落ち着いた次第です」
自然と溜め息がもれました。
そして、このドレスを仕立てるように指示したであろう人物の顔がすぐに頭に浮かんできました。
側妃カトリーナ。
彼女は親切にみせかけて、ことある事に私を陥れようと策略してきましたから。
「……考案したのはたぶん、カトリーナ様ね? 大方、国費を無駄にする悪辣な王女としてシュバルツバルトに送り出そうっていう魂胆……かしら」
「姫様……」
申し訳なさそうに視線を落としたヘルマの反応を見る限り、私の予想は当たっていたらしく。
もう一度鏡越しに自分の姿を見れば。
どこからどう見ても悪女にしか見えない自分の姿が滑稽で、私の口からは笑いがこぼれていました。
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