死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅

文字の大きさ
9 / 68

9 それでも愛されたいと願ってた

しおりを挟む
9


 
 シュヴァルツヴァルトのフリード王太子との話を終えて、部屋に戻ってくると。
 ヘルマが私に告げたのです。

『姫様、どうか……どうか……落ち着いて聞いてくださいませ……』

『え、なに……どうかしたの、ヘルマ?』

『先ほど、国王陛下から私に命令が下りました』

『命令? お父様がヘルマに……? それはいったいどんな……』
 
『……姫様の輿入れに同行してシュヴァルツヴァルトに行くのではなく、クーゲル帝国に帰国せよとのことでございまして……それで』

『……は?』

 
***


「ヘルマをシュヴァルツヴァルトに連れていけないって……お父様、それどういうことですか!?」

「言った通りだ。ヘルマはお前の輿入れには連れていかせぬ。あの侍女は帝国の人間だからな、お前が嫁に行ったあとあちらに帰す」

「帝国に帰すって……そんな! 私はヘルマがいないと……」 
 
「なぁに、心配するなフランツェスカ。代わりの侍女はこちらでちゃんと用意してある」

 代わりがいればなんでもいいわけ、ないでしょう……?
 
 しかも「心配するな」って。
 いや……それ、心配しかないのですが!?

「代わりの侍女なんて必要ありません! だからヘルマをシュヴァルツヴァルトに連れていく許可をください、帝国に帰すだなんて……やめてください! お願いします、お父様っ……!」

「……フランツェスカ? 話はこれで終わりだ、もう出て行きなさい」

「っ……お父様!」

「出ていけ、お前にはもう……用はない」
 
 用はないって、なんですかそれ。
 私のこと……なんだと思っていらっしゃるの?
 
 このクソ親父にとって私は、書類かなにか?
 用済みになったら……捨てるの?

「お父様……? 一つだけ、教えてください。私はどうして……お父様に……愛されないの、ですか……?」

「……お前は、産まれるべきではなかった」

 ずっと、気づかないふりをしてきました。
 どれだけ酷い仕打ちをされても、気にするほどのことでもないと私は自分にいいきかせた。
 
 どんなに冷たくされても強がって、それはきっと私の努力が足りないのだと思い込んで必死に耐えてきた。

 ……なのに、その言葉がすべて壊しました。
 娘として愛されたいと願ってきた、私の心を。

「私は、お父様にとって……いらない存在だったのですね……?」
 
 声が震える。
 溢れた涙が頬を伝って、床に落ちていく。

 そんな私にクソ親父はなにも答えず。
 興味でも失ったかのように、背を向けました。
 
 部屋を出ると、不思議と涙は止まりました。

「戻らなきゃ……」

 宮に戻ろうと角を曲がった、その瞬間。
 ちょうど前から歩いてきたフリード王太子に、ばったりと鉢合わせた。

「フラン、ツェスカ……?」
 
「……っ、王太子殿下!?」
 
 そして私の顔を見た王太子は、驚いたように薄氷のような青の瞳を見開く。

「泣いて……?」

「っ……あら、王太子殿下! このような場所でお会いするなんて奇遇ですね。夜のお散歩ですか?」

「え? ……あ、いえ。私はモルゲンロート王に少しお話がありまして。それでこちらに」

「そう、ですか。あの人に……」

 少し前の私だったなら、その話の内容がどんなものなのか気になったことでしょう。
 けど……もう、全部どうでもいいです。

「フランツェスカ。貴女はどうして……」

「……王太子殿下。名残惜しい限りですが私は先に失礼いたします。明日の出立の準備がまだ……残っておりますので」 

「そう、ですか。引き止めてしまい申し訳ありません」

「いえ……では、また明日」

「ええ、また明日お会いしましょう」

 フリード王太子はずっと何か言いたげに、私の事を見つめていました。
 だけど私はそれに気づかないふりをした。
 
 私を愛することはないと言った男になんて、慰められたくなんてなかったから。
 
しおりを挟む
感想 348

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

9時から5時まで悪役令嬢

西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」 婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。 ならば私は願い通りに動くのをやめよう。 学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで 昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。 さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。 どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。 卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ? なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか? 嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。 今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。 冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。 ☆別サイトにも掲載しています。 ※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。 これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...